多脚戦車
ドッズゥンッ ヒュッヒュヒュッ ドゴーンッ
ドッズゥンッ ヒュッヒュヒュッ ドゴーンッ
ドッズゥンッ ヒュッヒュヒュッ ドゴーンッ
「なっ、なんだ!?」
地震のように地面が揺れる!
ドッズゥンッ ヒュッヒュヒュッ ドゴーンッ
ドッズゥンッ ヒュッヒュヒュッ ドゴーンッ
ドッズゥンッ ヒュッヒュヒュッ ドゴーンッ
正確な時間を置いて衝撃は六回繰り返された。
「雷か?敵襲か?」
警備兵が城壁に駆け上がり目にしたのは火を噴く大砲の二撃目だった!
シャッシャッシャッ ババーンッ
大門の前方十メートルに着弾した!
「うおおっ!何だあれは!? 大砲か? 」
「エンゾ! 敵襲だ、奴等攻城砲を引っ張ってきやがった!」
「なんてこった、此処まで届くのか!? 」
ヒュウウウウウゥゥーッ
二射目の最終一号機の放った徹甲弾! その軌道は緩やかな弧を描いて大門へと吸い込まれた!!
ドガーンッ!! ゴシャアッンッ!!
十センチの硬い角材に鉄板で補強した大門を直撃! 砲弾は軽々と貫通して城壁内の石床を蹴散らしてめり込んだ!!
「一番隊命中! やったな、今回も一番乗りだ! ようし射撃データを公表、各隊照準を修正、三撃目装填せよ!!」
「あの重い大砲を一機で運び、発射の反動に耐えて更に正確な射撃、これほど汎用性の高く確実な兵器を儂は知らん」
「閣下、正直に申し上げればラーニャ・リルフ・カリエテ、多脚戦車のフレームは木製で出来ています、鉄製ではコストが嵩むうえ反動に耐えられず曲がってしまう、軽さと柔軟性を求めての木製、ですがいささか強度が見合わない、移動も含めて蜘蛛型リルフの寿命は一年程度でしょう、無論、使用頻度や破損状況によってはもっと短くなる」
「クレディ殿、この丘で戦死した連邦兵の数を承知かね?」
「三百人程と聞いていますが」
「正確には三百二十八人だ、平均年齢は三十三歳、全員が男、これがどういう事か分かるかね」
「なるほど、多脚戦車一体の値段と人間一人の値段、コスト比較すれば答えは明白」
「その通り、人間が戦えるまでに育つ期間の衣食住、そして生きていたなら得られた労力、人には金がかかるものなのだ」
「さすが閣下は見識が深い、指導者たる者そうでなくては」
「死なずに済む者が将来稼ぐ金を考えればあの大蜘蛛戦車の代金など安いものだ、まあ、納得せぬ馬鹿が多いのも予想は出来るがね」
「気苦労お察しいたします」
「こちらの都合だ、気にするな」
「さあ、そろそろ城門に穴が空きますよ」
「人間の出番だ、リルフに負けない活躍を期待しようではないか」
「どうなるか見てみましょう、閣下」
ドォンッ バキャーンッ 三つ目の直撃で門が吹き飛んだ、出入り口が解放される。
冷や汗と共に悲鳴に近い叫びをあげたのはポムロール側の指揮官だった。
「ひいいっ!!門がっ!?」
「何故、大砲でこんな正確な仰角射撃が出来る!?」
「戦車だ、何故あんなものが存在する?夢でも見ているのか」
「きっとあれは人形です、リルフに違いありません!!」
「リルフの戦車だと!!情報は本当だった……」
指揮官は決断した。
「撤退だ……」
「えっ!?」
「もう駄目だ! 直ぐに撤退しよう!!」
「実行ですか!! 」
「ここだ! このタイミングで実行しなかったら命を失うぞ、私の感を信じろ!」
場内戦となる危機的な状況を前に場違いな二度目の花火が昼の空に打ちあがる、混乱する部隊をよそに各隊の隊長たちは戦場から忽然と姿を消した。
騎馬と歩兵が丘を上がってくる! 大門が役目を果たさなくなった今、忌地フィクシーの丘エリア17はエリア16同様の運命が待っている。
壊滅だ。
大門を突破されてしまえば内側から崩されるのは時間の問題でしかない。
戦争は非情、相手も死にたくはない、殺すか殺されるか戦争に道徳も正義もありはしない。
敵兵は大門に防御戦力を集中させないために大門以外にも梯子をかけようと迫る、さらに大蜘蛛からの砲撃が城壁内に降り注ぐ、砲弾が榴弾に変わっている、これだけでもエリア17はパニック状態だ、あちこちから火の手も上がり始めた。
森を抜けると渓谷のゴルジュ帯に出る、素手で降りることは難しい、さらに上流に回り込むとその一角だけV字谷が切れていた。
シノとパブロはそこから川に入ると百メートルほど流れのままに泳ぎ下る、水は身を切るほどに冷たく二十分も入水していたら凍傷になりかねない。
「シノ、平気か?」
「私は平気よ、急ぎましょう、凄い音がしている!」
「間違いない、やはり大砲だ!」
大きな淵の崖に亀裂がある、潜るようにして隙間に滑り込むと中は鍾乳洞、奥にトンネルが繋がっていた。
「掴まれ!」
先に上がったパブロの手を借りて踊り場に上がり、濡れた服を絞る暇なく暗いトンネルを進む。
「出口だ!」
将校たちは知らない裏ルート、兵士しか知らないショートカットだ。
ガガーンッ
森から走り出した時に目にしたのは粉塵と煙が立ち上り、瓦礫が宙に舞う瞬間!
「直撃!?」
「大門の辺りだわ!まさかピンポイントで狙って!?」
「大門を開けられたらこの壁は終わりだ! シノ、チャンスだ、お前は逃げろ!!」
「逃げるって!? そんな事出来ないよ、まだ契約が残っているもの」
「なに言っている!? 契約した指揮官たちはどうせ直ぐに逃げ出す、あとは有耶無耶だ! 傭兵のお前が命を張る義理はねぇ、離脱しろ、そしてもう戻るな! 」
「そんな!? じゃあパブロはどうするの? 」
「俺達は土地の人間だ、逃げる訳にはいかねえ、残って戦う」
「玉砕する積りなの? 駄目、逃げるなら皆一緒よ! それに私だってアンバランツァ隊のリルフ達を見捨ててはいけないわ!」
「仕方ねぇ、一緒に戻るか、でも下士官たちには見つかるな! 無茶な命令されるに決まっている!」
「分かった、行こう!」
手を握り先行する背中がまたひとつ大きくなる、そこに塹壕で震えていた新兵の姿は無かった。




