告白
「何だあれは!?」
走る騎馬隊の後ろから巨大な蜘蛛!? 多脚の虫のようなものが降りてくる。
「背中から角が出ている……あれって大砲なんじゃ!?」
「大砲だって!? まさか、この丘を登れるのか!? 」
ドドドドドッ
「そうか!指揮官達はこの情報を掴んでいたのね!」
「何の話だよ!?」
騎馬の足は速い、歩兵とは比較にならない速さで迫ってくる。
「花火を上げなきゃ、パブロ、手伝って!!」
ポーンッ ドンッ パパンッ
拍子ぬけするほど小さな音と煙が午後の空に咲いた。
「パブロ!急いで退却よ!!」
「シノ!待て!!」
階段を駆け降りようとする腕をパブロの手が掴んだ。
「何?急がないと……えっ!?」
振り向いた瞬間に唇が重なっていた。
「!?」
そっと触れただけの幼い口づけ、重ねた温もりが一瞬だけ伝わる。
「こんな時に勝手な事言ってごめん! 俺は君に恋をした、シノが好きだ!!」
「パブロ……私は……リルフ……」
気が動転して言葉に詰まる。
「もちろん分かっている、恋なんだ、理屈じゃないんだよ! 性別とかリルフだとか関係ない、もしもその擬体が変わっても俺は絶対にシノを見分ける」
「あっ、あの……」
どう返したらいいのか分からない、でも身体の中心で核が震えている、また一つ特別な言葉に出会った。
パブロは優しく笑っている、その顔には達成感があった。
「行こう!敵が来る!!」
パブロに腕を引かれて階段を降りる、握った手の強さに確かな信頼を感じる、余韻を探して唇に触れると、冷めたはずの温もりが蘇る。
「今は分からなくていい、いつかシノの心が恋を知る時がきたら、俺の事も思い出してくれ!その相手が俺なら最高だけどな!」
振り返ると少年の青い影を残して照れくさそうに笑った。
教会から出ると一つ向こうの丘を蜘蛛が越えてくるのが見えた、大きい、まるで象だ。
「あれが攻城砲なら大門を狙うはずだ、遠回りだけど森を抜けよう!」
「分かった!」
二人は手を繋いだまま森へと走って行った。
「指揮官! 今、青い花火が教会より上がりました!!」
「本当か!? やはり来たか! 」
「重い大砲を引いて、この柔らかい草原の急傾斜を登る手段を連邦は手に入れたのだ、小銃や弓なら防ぎようもあるが大砲の鉄球をまともに喰らっては石積みの城壁とはいえ数時間と持ちこたえられまい」
「しかし、敵側の能力がどの程度かは分かりません、もしこれが過分な評価だった場合、敵前逃亡と見做されて我々の立場は不味い事になりますよ」
「そうだ、ここに留まり士官を死なせても! 見切りを付けてここを放棄しても! どちらにしても我々に未来はない! 」
「そんな! ではどうしたら!? 」
「そのための撤退作戦だろう、死ぬべき者が死に、生きるべき者が生き残る、重要なのはタイミングだ、それを見極めるのだ! 」
「!」
「当然!我々は生きる側、さあ、幹部に伝達せよ! 敵傭兵部隊襲来、衝撃に備えよ! 」
「はっ!! 」
六本足の巨大な蜘蛛、細い胴体の背には攻城砲が据えられている、口径は百ミリ、長細い銃身、ドングリ状の弾丸は千メートル以上の射程がある、この時代の兵器としては間違いなくチートだった。
ガシャガシャと忙しなく動く蜘蛛の足は一本一本の太さが馬脚ほどもあり丘を登り始めてもその進軍速度は衰えない。
その巨大蜘蛛が六機、廃墟群を越えた所で騎馬隊と先頭を交代して前面に出てくる、その裏には弾丸や火薬を背負った砲兵が従う。
逆三角陣形の最深部にいるのが指揮者、傭兵団サンゴエ・ドラゴーネ団長クレディ・エスペリツォーネだ。
城壁までは三百メートル、十分射程内、クレディはニヤリと笑い指揮棒を掲げた。
「発射準備! 足を畳み射角を調整せよ、目標、敵城壁大門、石積みの上部に当てるなよ!道を残さねば騎馬の道がなくなる、諸君、訓練通りだ、敵の弓は届かない、落ちついて仕事にかかってくれ給え」
「アイ、シィー、司令官! 野郎共! 仕事にかかれ、もたもたしていると敵さんが騎馬を出してくるぞ! その前に大門をこじ開けるのだ、 多脚戦車の足を固定! 仰角照準を急げ! 発射準備競争スタートだ!!」
合図を受けて砲兵たちが多脚戦車と呼ばれた大蜘蛛に群がる、砲兵の一人が大蜘蛛の前に画板を差し出す、そこには取るべき姿勢が絵として描かれている。
細長い胴体の先に付いた目が絵を確認すると自ら足を折り、ドズッと足先の爪を地面に突き刺して身体を固定した。
男が蜘蛛の胴体に飛び乗ると大門に向けて照準器を向ける、左手で正面の男に左右の確度と上下の確度を支持すると同じ事を画板の男が絵に起こして蜘蛛に確認させる。
ググッ 支持通りに砲身が城壁大門に向けられた!
「角度良し、弾種鉄鋼装填良し! 」
飛び降りた照準師に変わり砲兵が弾丸を込め、火薬パッケージを装填、ラッチを締める。
「装填完了! 発射準備良し!」
「ようし、最高タイム更新だ、一番首は俺たちのもんだぜ! 」
大蜘蛛各機の分隊長が完了の手を上げる、砲撃の順番を決めるための競争だ。
「四番分隊記録更新! 二、五、三、六、一番の準で射撃、間隔は五秒だ! 」
「ホールインワンは貰ったぜ! 」
基本的に一斉射はしない、自砲の着弾位置が確認出来なければ修正出来ないからだ、大砲の砲撃はその絶大な威力とは逆に繊細だ、弾頭の重さ、火薬の量と燃焼速度、毎回同じ環境、距離で撃つなら苦労はない、屋外の軟弱の丘、台座の水平を取るだけでも相当な経験が必要だ。
水平と垂直の調整は台座となる大蜘蛛自身がやってしまう、半自動の砲安定装置と照準装置を備えた大蜘蛛戦車、それがラーニャ・リルフ・カリエテだ。
そうだ、大蜘蛛の外殻で作られた多脚戦車にリルフ(知的液体生命体)を騎乗させたのがカリエテだった。
団長クレディの手が上がる。
「四番! 撃て!!」




