白夜と遷姫とジェンダーと
〈虹に乘りどこぞに消ゆる夢がある 涙次〉
【ⅰ】
白虎と「龍」の遷姫は、* かつて叛目狀態にあつた事も忘れ、今では大の仲良しだ。遷姫は、仲良しの証しに、皆にペアダンスを披露したい、と云ふ。夜は、** 遷姫の許婚者・金尾は、泥になつてしまふので、白晝堂々の興行(?)である。
牧野が「落とされ」、「龍」が六月の晴れ間の空に立ち昇る。で、一味各人、眞つ晝間から好みの飲み物を手に、今か今か、とこの演し物を待つた。牧野もじろさんに活を入れられ、生ビールを片手に、にこにこしてゐる。
突如「ラ・クンパルシータ」が鳴り渡る。遷姫の情熱的、大胆なリードに、白虎は着いて行くのがやつとだ。と、
* 当該シリーズ第175話參照。
** 当該シリーズ第134話參照。
【ⅱ】
いきなりだが、白虎、凶暴化した! こりや大變だ- 遷姫、危ふく白虎に嚙まれさうになつたが、じろさんが彼を引き止めた。白虎、遷姫から離れると、元通りの穏和な白虎である。
これ、一體、だう云ふ事!?
マダ時期尚早過ギタカ- 遷姫、白虎を信用出來ない狀態に逆戻り。白虎自身は、何だか自分の行ひを恥ぢ入つてゐるかに見える、のだが...
【ⅲ】
(ダウセ虎ハ虎、畜生ニ過ギヌノダ)そんなふうに、遷姫の不信感は膨らんだ。じろさん「こりや【魔】ぢやないかねえ」カンテラ「恐らくね-」カンテラは外殻(=カンテラ)の中。因みにお好みドリンクは灯油だつた。
テオ、テレパシーで白虎にインタヴュー。「白虎、あの瞬間、意識はあつたの?」‐「があお(無かつたんだ)」‐「それつて誰かに操られてゐたつて事?」‐「があお(だうやらさう云ふ事らしい)」。
テオ、カンテラ・じろさんに報告した。「やつぱ【魔】つスよ。白虎はあの時何者かに操られてゐたやうです」。
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〈朝曇りから生まれぬる一日を暑いと云ふは契約違反 平手みき〉
【ⅳ】
では誰が? テオの調べでは、魔界には「調教師」なる【魔】がゐると云ふ。動物園で、人に馴れてゐる筈の雌のライオンに、嚙まれて命を落とした、まだうら若き飼育員の女性靈(女性【魔】)だと云ふ。こゝで「シュー・シャイン」を、一味は投入。「調教師」に、事情を訊くのだ。‐「ラジャー」
【ⅴ】
「こゝ魔界ぢや、女の扱ひなんて酷いもんよ。特に容貌が良ければ、ちやほやされるけど、わたしみたいなブスぢや」と「調教師」は語つた、と云ふ事。要するに、その狀況を脱け出す為、昇格を狙つてゐる、と。それで彼女の目に留まつたのが、遷姫と白虎の、ダンス練習風景。
「うーん、それぢや斬れんなあ。惡いのは彼女ぢやなく、魔界の男女差別ぢやないか...」とカンテラ、齒切れが惡い。ところが。遷姫は引き下がらなかつた。彼女は女性と云ふ者が、美しさで計られて当然だつた時代(中國清代)の生まれ。「白虎ト仲直リノ為ニハ、其奴斬ツテ貰ハナイト」‐
【ⅵ】
考へた挙句、カンテラ「俺にはやつぱり斬れんよ。遷ちやん、自分で、『龍』を連れて魔界に行つてみては、だう?」‐「良カラウ」
結果、(「調教師」の夢 -【魔】も夢を見るのだ‐ の中で)一暴れした遷姫の「龍」。遷姫、さつぱりした、と云ふ面持ちで‐「イゝダラウ。仲直リ、スルヨ」
【ⅶ】
勿論、それ以降、白虎が遷姫・及び「龍」に無礼を働く、と云ふ事はなかつたし、ペアダンスのショウ(?)は敢行され、皆やんやの拍手喝采で迎へたのは、云ふ迄もない。
「だがな、ジェンダーが...」一人カンテラ、浮かぬ顔である。
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〈洗鯉食の細きは見てをれぬ 涙次〉
ジェンダー論爭の渦中で悩むカンテラつてのも、また一興、なのかな。あ、さうさう、今回は収支、プラマイゼロね。笑。ではまた。ぢやあね!!