リストカッター洋子
「あ、どうも」「はい」「あの。あたし、今からリストカットしようと思ってんですよ」「え?待って。あんた、何なんですか」「いや。だから、牧亜弓さんの作品は全部読んでいる読者の洋子ですけど」「あ、そうですか」「ええ」「で、僕のプロフィールに書いてある電話番号で電話したわけですね」「はい」「それで、なんですか」「いや。リストカットしようと思って」「なんでやねん」「だって、あたしのこと書いてんだもん」「誰がやねん」「あんたがだろ」「いや。そんなことないから」「あんたが、『ジジイの回転』で、あたしのこと書いてんだよ!」「いやいや。あれは思いつきだお。あの、ステ丸の上司の女の子のことを言ってんでしょ」「うん。それ、あたしじゃん!」「あたしじゃん!じゃないんだよ」「今、名誉毀損って、周りがあたしってわかるものを書いても該当しますので」「じゃ、それで、仮にそれがあんただったらどうするの」「今からここで死んじゃおっかなーって思ってて」「いやいや。やめてよ。そんなん」「でそ、でそ」「あんた、情緒どうなっとんの?」「いや。だから、つまり、あたしが死ぬか。あんたが、あたしの奴隷になるかって話でしょ」「え?」「どうしたの。奴隷ってワードにビクン!としちゃったの」「うん。ちょっとした」「あんた、やばいわ」「いや。あんたの方がやばいから。いきなり俺に電話してきて、奴隷になれなんて」「最高だろ」「うん。って、そう言うことじゃなくて、あんた、そんなことするわけがないでしょ」「そう。じゃ、リストカットするからいいわ」「やめろって」「だって、あたしは究極の愛が欲しいなんて、バレちゃったもん」「究極の愛の件は、歌なんだよ。あれ」「そうね」「だから、そんなのあるわけねーって、あれはギャグな訳」「あれ、ギャグだったの」「うん」「いや。そうはとれないわー。それは、作家の思い上がりや。作家はそこまでコントロールできないわ」「そうかよ。じゃあ、好きにしろよ」「じゃ、リストカットするもの」「おい」「じゃあ、奴隷になって」「なんでやねん」「ドレイ!ドッレイ!ドッレイ」「手を叩くな。どうして、奴隷に追い込んでくるんだよ。あんたが」「もう。あたし、それしか生きる術がないのよ。やでしょ。リストカットで、床が血まみれになったら」「やだけど。まず、どうすりゃ良いのさ」「あんた、乳首責めが好きなんでしょ」「うん」「じゃあ。ハサミで両方ちょん切ってあげる」「あんた、狂ってるわっ」