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ありきたりの小説  作者: 牧亜弓
小便の声 あるいは 鬱の原因
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ほとばしる小水の最重要文芸批評 そにょ4


 鈴木克己は、尿を垂れ流しながら、この小水の声は、人々に惜しまれつつも亡くなった、父の鈴木独歩の声なのではないかと思い始めてきた。確かにそんな節はある。


「チョボチョボ。じゃ、そろそろ幽霊について語りましょうか。あれは、「もの」の不在なんですね。その場所に違和感があるってことなんですよ。交通事故多発地帯とかね。崖下注意とかね。人は、違和感をキャッチしますね。生存本能ありますから。それを幽霊という形にして、人々は忌避しているわけでしょ。だから、亡き人の恨みの声じゃないのよ。そんな暇なことをしている幽霊なんていないのよ。わかる?ものがなくなるんです。だから、物悲しいわけなんですね。その場に、悲しみのオーラ、つまり空洞が発生しているんですよ。それを語るのが、物語なわけですよね。つまり、物語というのは悲劇が初めて。ってことになりますよね。古事記というのが、天津神に国津神が追われてゆく物語であり、平家物語が失われゆく平家の物語な訳でしょう。源氏物語も、光源氏が失われてゆく過程を描いているわけですよね。外国だけど、プルーストさんが「失われし時を求めて」ますよね。で、般若心経もそうなわけでしょ。色即是空空即是色。あれは、ないということを定義していますでしょう。ないことって、大切なんですよ。ただし、日本人はこれを唯物史観という間違っている思想とごっちゃにしてしまった。あるない。ではなくて、そこは曖昧なんですよ。キッチリと線は引けません。幽霊は死んでません。あれは、生きている人間が見た、何らかのものの空虚なわけでしょ。何かはわかりませんけどね。ないものだから。このない世界ってのは、涅槃って言っても良いんですけど、涅槃のネガですよね。地獄と言っても良いですけどね。何でも良いんですよ。もはや。ただし、曖昧なものがあるんです。で、場所がそのものによって満ちている。バランスがあるってことです。このバランスを乱すと、超常現象にもなりますし、喧嘩にもなりますね。能ってのは、静かな空間に、ひしひしと亡き者の恨み言を響かせているわけでしょう。あれこそ、ものがたりなんですね。失われてしまったものを語るわけだから。喜劇ってのは、その反転なんですね。過剰なるもの。常識を外れたもの。それをまあ、脱構築と言っても良いのかなあ。チョボチョボ」

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