洋子の家まで
市街地の喧騒を離れ、細い路地を進むに連れて、空気が変わっていくのを感じた。舗装された道のアスファルトは、日差しを反射して熱を帯びていたが、路地の両脇には生い茂る木々の影が、快適な涼しさをもたらしてくれる。まるで街の喧騒から逃れるための隠れ家のようだ。
路地を曲がると、洋子の家がある通りに出る。ここは住宅街で、低いフェンスを持つ一軒家が並び、ほのかに漂う家庭の温かい香りが心を和ませる。手入れの行き届いた庭には、色とりどりの花々が咲いている。特に、紫陽花が青紫の花びらを揺らし、小型の蝶々が軽やかに舞っているのが見える。その光景は、静かな嬉しさを伴う。
まっすぐ進むと、洋子の家が見えてきた。白い壁に、淡いピンク色の屋根。窓にはカーテンがかかり、外からは少しだけ中の光が漏れている。玄関のドアは淡い木の色をしていて、どこか親しみを感じさせるデザインだ。ドアノブを見つめると、何度も触れる感触や、何気ない日常が鮮明に思い出される。
その瞬間、心臓が少し早鳴りした。洋子に会うのはしばらくぶりだった。久しぶりの再会に緊張感が走る一方、過去の楽しい思い出が頭の中を駆け巡った。彼女と過ごしたあの夏の日々。そして、無邪気に笑い合った瞬間が、ただの記憶ではなく、これからの再会へと繋がっていく熱を持っている。
通りを歩いていると、近くの木々の間から聞こえてくる小鳥のさえずりが心を和ませる。陽射しがまぶしく、足元の石畳が少し熱を持っていたが、それすらも心地よく感じた。小さな表庭には、洋子がよく世話をしているという言葉が思い出され、無意識に微笑んでしまう。
やがて、家の前に立つ。ドアの前で深呼吸をし、心を落ち着けてからノックをした。木のドアは、少し重たく感じる。返事がないまま数秒待っていると、内部から足音が近づいてくるのが聞こえた。ドキドキする鼓動と一緒に、暖かな空気がドアの向こうから流れてくるような気がした。
「誰だろう?」と心の中で問いかけながら、待ち焦がれた瞬間を楽しむ。ドアが静かに開くと、洋子が顔を出した。彼女の笑顔は、記憶の中で再生された過去の輝きをそのまま映し出している。ふわりとした明るい髪と、クリクリとした目が、俺を見つけた瞬間にぱっと輝いた。
その瞬間、喧騒から離れていたこの道の旅が、全ての意味を持った瞬間に変わった。彼女への近づきが、過去と未来をつなぐ架け橋のように感じられ、心が高鳴る。厳しい日常から解放された瞬間、洋子の存在が、俺の日々にいかに特別なものだったのかを再確認させてくれた。俺たちの再会は、まさに新たな物語の始まりだった。