第2話 覚醒
「止まったら死ぬ!!みんな足を止めないで!!」
京雅が叫ぶが相手は類を見ぬ強敵、直ぐに動き出せなかった奴らを相手は見逃さない。
サイクロプスは魏郎と敦也を豪速で投げ飛ばす。
その投擲は地面に大きなクレーターを空け、風圧だけで周りの生徒が吹き飛んだ。
直撃した何人かは内蔵がグチャグチャになり、身体中の骨が粉々に砕けて即死した。
『こうなったらやるしかない!!このメンバーで勝てる確率は万に一つもない程度、それでもやるしかない!!』
「委員長!!僕達にできる限りのバフをかけて!!近接職のみんなは細かい動きをしながら連携して攻撃を加えて!!遠距離職のみんなはアイツの攻撃範囲外から動きを制限して!!魔法職のみんなはデバフ効果がある魔法を積極的に打って!!回復職のみんなは常に近接職を回復させて!!防御職のみんなは固まってアイツの攻撃を防いで!!みんなあまり無理はしないで自分の命を最優先に考えて!!」
京雅が全員に適格な指示をする。
そして、バラバラだったみんなが結束して反撃の体制をとる。
最初に動いたのは魔法職。
様々なデバフでサイクロプスは動きがかなり鈍るが、まだその動きは素早い。
次に、遠距離職が遠くからチクチクと攻撃を加え、動きを制限すると共に相手の目を撹乱させる。
次の瞬間、近接職が一斉に踏み込み、つま先から頭頂部まで変則的な攻撃を加えていく。
サイクロプスはその物量に魔法職のデバフも重なって、上手く攻撃を与えることが出来ない。
しかし、こちらもサイクロプスの強靭な肉体に深手を負わせることができず、体格差も相まって小さな切り傷を入れることしか出来ない。
その時、サイクロプスが一人の生徒に一撃を加えようと拳を振りかざす。
その生徒は一瞬反応が遅れ、無情にもそこを大きな拳が襲おうとするが、間一髪3人の防御職がギリギリのガードに成功する。
そんな展開が十数分続き、みんな疲弊していたがサイクロプスも明らかにダメージが入っているようだった。
「よし!少しづつだけどこれなら勝てるかもしれない!!」
康祐が希望を抱いた目を見せ、他のみんなも表情が変わっていた。
「みんな今だ!!」
京雅の合図と共に魔法職が最大出力の攻撃魔法を放ってサイクロプスがよろけた瞬間に、近接職が一斉に飛び上がり、全員で目を突いて相手の視力を奪う。
「みんな!!最後の魔力を僕に頂戴!!」
その場にいる全員が京雅に向けて魔力を注ぐ。
そして、京雅が全身の魔力を練り上げ、全霊の魔法を放つ準備をする。
「これが…僕達が放てる最強の一撃だ!!くらえぇぇぇ!!!火炎球!!!」
京雅が特大の火球をサイクロプスに向けて放つ。
「グオオォォォォォ!!!」
だが、その一撃もサイクロプスはギリギリ耐える。
その瞬間、瀕死のサイクロプスの目に、鋭く光る剣を構えた京雅が映る。
「驚いたか?俺は職業が2つあるんだよ。さっき見せたのが魔法使いでこの姿が剣士だ。まぁ、職業が弱すぎるうえに性格も変わってしまうけどな。」
京雅が飛び上がり、剣を強く握り締めて振りかぶる。
「これで正真正銘最後の一撃だ!!!剣閃!!!」
京雅はサイクロプスの頭上から豪快に剣を振り下ろして一閃し、見事に身体を切り裂いた。
サイクロプスからは大量の血飛沫が吹き出し、声を上げることもなくドスンと地面に倒れ、そのまま灰のように散った。
「勝った……んだよな。」
「そうだ…俺たち勝ったんだ!!」
「うおぉぉぉぉぉ!!!」
「やった!私達助かった!!」
皆がお祝いムードではしゃいでいる。
「やっぱお前は凄いなぁ!!」
康祐が京雅の肩をガシッと組み、頭をわしゃわしゃする。
「いやいやそんな、みんなが居たから勝てたんだよ。」
京雅が謙遜する。
「そこは素直に喜んでいいんだよぉ!!」
康祐が京雅の肩を掴み、グワングワンと激しく揺らす。
その瞬間、既に限界を超えていた京雅は疲労がドッと押し寄せ、パタリと倒れる。
「うわぁぁ!!康介が京雅のこと殺したぁ!!」
一人の生徒がふざけて騒ぐ。
「こいつがこんなんで死ぬかぁ!!」
康祐が食い気味でつっこむ。
そんな空気の中、突如パチパチパチという音が響く。
「はっはっはっは。サイクロプス一匹倒したくらいで随分と喜んでいますねぇ。」
優しい顔をした男性が拍手をしながらこちらに近付いて来た。
その顔は、どこか胡散臭く信用出来ない様子だった。
「ア、アイツ!!俺知ってる!!中国の大犯罪者!!劉 浩然だ!!」
一人の生徒が男を指差して言い放つ。
「ご名答!!朕は頭が良い子大好きだよぉ。でも、正体をバラされちゃったらムカつくなぁ。」
そう言って笑顔で生徒目掛けてナイフを高速で投げる。
そのナイフは生徒の眉間に深く突き刺さり、バタッと倒れる。
「嗚呼もう!魔力も無いっていうのに!神様はホントにいるのかよ!」
康祐が諦めたように空を見上げる。
「ははっ。神なんているわけないよ。この僕が自由なのが証拠さ!」
浩然が笑顔で話す。
『僕はもう…限界みたいだ。』
京雅が倒れたまま心の中で呟く。
そんな中、一人の生徒が浩然に剣を向ける。
「おっと、反撃なんて考えない方がいいよ。だって君は、僕に遠く及ばないんだからね。」
浩然がそう言い終わる頃には生徒はバラバラに切り刻まれていた。
『今のは、僕でも見えなかった。つまりアイツは、A級より遥か上位の存在、ていうことはS級。こんなの勝てるわけない。』
京雅は半ば諦めていた。
他の生徒たちも絶望した表情を浮かべていた。
「ははっ。君達のその顔が見たかったんだよぉ!朕が好きなのは戦いじゃない!一方的な殺戮ショーだよ!!」
浩然がそうニマリと笑うと、一瞬のうちに京雅以外の残った生徒たちを楽しみながら残酷に殺した。
「キャァァァァ!!!」
「嫌だ…やめて…。」
「死にたくない!!死にたくない!!!」
「ぐぁぁぁぁぁ!!!」
様々な断末魔が聴こえるその空間は、最早地獄と呼ぶのも生ぬるい程に凄惨な光景がながれた。
『はぁ、勝ったと思ったら結局これかよ。最期に僕は何も守れなかった。』
京雅が動けないまま涙を流す。
「はっはっはっは!!どう?自分以外のお友達が朕にじっくりと殺されるのをただ見ることしか出来ない気持ちはぁ?」
浩然が、京雅の顔を覗き込みながら嫌な笑顔を浮かべる。
『僕にはもうアイツを道連れにする気力もない……そうだ、早く僕を殺してくれ。そしてお前を呪い殺して地獄に引きずり落としてやる…。あぁ、もっと僕に力があれば、今すぐにでもアイツを殺したい。』
京雅が絶望仕切っているその時、心臓が水色と黄色の入り交じった眩く光っているのを感じた。
その光のオーブは身体からすうっと抜けていき、空中で止まった。
『あれは…、僕の魂なのか?まさか本当に何も出来ないで死ぬなんてなぁ。』
次の瞬間、オーブが強い光を放ち京雅が思わず目を手で覆うと、次に見た時には丸かったオーブはXの形に変形していた。
『なんだ?形が…、変わった?そんなことより、まだ意識がある!まだ死ぬな!早く起きて、せめて道連れにしてやる!!』
京雅は魂と思われるものに手を伸ばしてガシッと掴み、自分の心臓部分に入れ込んだ。
その瞬間、強烈な衝撃が全身を駆け巡り、心臓の鼓動が爆発的に速くなって身体中から力が湧き出るような感覚になった。
『この感覚、今まで感じたことがない!!何でもできそうな全能感!いける!!今の僕ならアイツも倒せる!!』
京雅の目に希望の光が宿る。
「じゃあ、そろそろバイバイだねぇ!!!」
と、浩然がナイフを振り上げ、京雅を勢い良く抉りにかかる。
次の瞬間、ナイフは地面に深く突き刺さり、そこに京雅の姿はなかった。
「へぇ、まだ動けるんだ。」
浩然が後ろを振り返ると、纏うオーラが変わった京雅が杖を持って佇んでいた。
「ごめん、借りるね。アイツは絶対倒すから。」
京雅が穏やかな目で倒れている生徒にそう言うと、怨念の籠った目をして浩然の方を向いた。
『纏うオーラが変わった。コイツ、何かしたな?』
浩然が口角を上げる。
その瞬間、京雅が無言で先程のような火球を、軽々と2、3発放つ。
「えっぐい攻撃してくるじゃぁん!!」
浩然が興奮しながら素早く躱しきり、まるで消えたようなスピードで京雅に向かって突進する。
ガキィィィン!!という鋭い音が響き、ナイフの刃は京雅の防御魔法によって止まっていた。
直後、浩然に巨大な雷が落ちる。
だがその不意を突いた攻撃も軽々と躱してしまう。
「ははっ!ホントに君、こいつらの仲間なの?それにしちゃ強くない?」
浩然が余裕を見せると、次の瞬間京雅が消えたような突進を見せた。
「馬鹿なのかな?魔法職が近接戦闘出来るわけ…。」
浩然が気を抜いたように構える。
それを見た京雅は武器を大きく振り上げる。
その時、浩然は京雅が持っているものが杖ではなく剣に変わっていることに気がついた。
『なるほどね!職業二つ持ちか!!』
浩然は大きな不意を突かれたが、それすらも躱す。
しかし、浩然の胸には斜めに傷が薄くついていた。
「ホントに君は面白いね!!」
浩然がそのまま京雅に反撃をしようとしたその時、京雅の後ろから声が響いた。
「浩然!!」
数人の解放者が浩然に向かって走って来ていた。
「おっと、あいつは面倒くさいな。じゃあね、職業二つ持ち君!」
そう言いながら、浩然は森のほうに逃げて行った。
『ま…て…。』
京雅は追いかけようとするが、急に視界が暗くなり糸が切れたようにパタッと倒れる。