第1話 鏖
※読む時の注意点
「」は口で言ったセリフ
『』は心で言ったセリフ
プロローグ
50年前、突如全世界が曇天に包まれ、世界各地に巨大な裂け目が現れ、そこから無数のモンスターが降ってきた。
人々は後にそれを、"異界侵略"と呼んだ。
モンスター達は次々と各国の都市を壊滅させ、侵攻していく。
落雷が降り注ぎ、大地は割れ、海は荒れる。
そして、一ヶ月も経たないうちに世界の殆どは、モンスターによって占領された。
なんとか侵攻を防いだ国々は、巨大で強固な防壁を築いた。
一方で戦いに敗れた国々は、年月が経つほどに豊かな自然が広がり、緑に包まれた。
それを見た一部の人々は、「これは人間が神の逆鱗に触れた結果だ」とも言った。
だがその内に、人間の中に不思議な力を持った者が現れるようになった。
力を持った者達は、侵攻してくるモンスター達を退け、占領された国々へと足を運び、モンスターを倒し、土地を解放していった。
その姿から彼らはいつしか"解放者"と呼ばれるようになった。
『僕の名前は八雲京雅、どこにでもいる普通の高校生、ではなく、周りよりもほんのちょっとだけ強い高校生だ。よく日本人は謙遜するけど、僕は本当にちょっと強いだけだから謙遜でもなんでもない。僕の周りはE~D級奪還者、でもって僕はC級奪還者。本当にそれだけだ。』
京雅が町の中を歩きながら心の中で話す。
そして、とても巨大な壁の前で速度を緩める。
「あ、京雅だ!!」
「本当だ!京雅ー!!」
京雅の同級生が声をかける。
「みんなおはよう〜。」
京雅が手を振りながら軽く挨拶をする。
「そろそろ時間だー。出発の準備しとけー。」
先生(堂森敦也)が皆に呼びかける。
「先生、全員準備完了しました。」
女子学級委員長が、小走りで駆け寄り報告する。
「よし。お前ら、今日は日本から中国まで遥々来ている訳だ。知ってるとは思うが、今日は"解放者育成第五学園"毎年恒例の野外実習だ。学校の行事とはいえ、一歩間違えれば命の危険もある。うちのクラスには我弥や八雲みたいなC級もいるが、くれぐれも油断するなよ。」
敦也が注意喚起する。
「先生w今日はE級占領地に行くんですよねw命の危険なんかないと思うんですけどww」
一人の生徒(我弥魏郎)が生意気な口調で話す。
「我弥、確かにお前はC級で他の奴らより少しはやるようだが…。俺も長く奪還者をやってきた。その中で低レベルの占領地を舐めてかかった奴らがどれだけ多く失敗してきたか、お前には想像できないだろう。まぁ、さっきも言ったが油断はするなよ。」
敦也が鋭い目つきで語る。
「へいへい、気をつけまーす。」
魏郎が適当な返事をする。
『魏郎の奴、相変わらずだなぁ。』
京雅が呆れた顔をする。
「京雅♪」
一人の生徒(野都康祐)が京雅の肩を組んでくる。
「おぉ!康祐!」
京雅が反応する。
「一緒に行こうぜ。」
康祐が肩に組んでいた腕を下ろす。
「それじゃあ出発するぞ。ゲートを開けてくれ。」
敦也が門番の人に呼びかける。
すると、ガコンッという音がして、巨大なゲートがゆっくりと上に収納される。
ゲートが上がり終わると、そこから見えたのは広大な森林であった。
「おぉ、でっけぇ木だな。意外と占領地って綺麗なんだな。」
康祐が見とれる。
「そりゃあね、元からここは大自然、緑はいつでも緑のままだから。でも、街だった場所とかは授業で習った通り廃墟みたいになってるけどね。」
京雅が知識を語る。
「へぇ…、あ!もうみんな進んでるぞ!俺達も着いて行こうぜ。」
康祐が前を指差し、2人揃って進んでいく。
出発からだいぶ進み時間も経ったたとき、ケモ耳と尻尾が生えた少女(犬飼真梨)が
「みんな止まって!!右100m先にモンスターの群れがいる!!」
と叫ぶ。
「お前ら焦るなよ。訓練通り冷静に対応するんだ。」
敦也がみんなに呼びかける。
「ふっ、やっとか!」
魏郎がニヤつきながら両手に短剣を握り、戦闘態勢に入る。
それと同時に他のメンバーも武器を強く握る。
そして一瞬の静寂が満ちたその直後、茂みから無数の矢が京雅たち目掛けて飛んでくる。
「シールドバリア!!」
タンク職業の生徒たちが一斉に叫び、前方に複数の大きな盾が出現して、矢を全て防ぐ。
そして、茂みの中から無数のゴブリンが飛び出してくる。
「はぁ?ただのゴブリンかよ、まぁいいか。」
魏郎がイラついた顔をし、その直後に力強く踏み込み、ゴブリンの群れに突進する。
「乱撃!!」
そう言うと、魏郎は高速で両手の短剣を振り回す。
すると、ゴブリンたちはあっという間にバラバラに切り刻まれた。
「ちっ、こんな低級どもじゃ準備運動にもなんねぇ。」
魏郎が刃についた血を振り払いながら小言を吐く。
「それにしても珍しいな、ゴブリンたちが住んでいたのはここより深い森の奥のはず、縄張り意識が強いコイツらがこんな群れで巣を離れるなんて。」
康祐が死んだゴブリンたちを見ながら話す。
「確かに…、ゴブリンたちが巣を離れるのは決まって資源が乏しくなった時の引っ越しか、自分たちでは歯が立たないモンスターが出現したかのどちらかのはずです。この森は見た感じ、生活に必要な資材も食料も豊富にあるようですから前者は無い、つまりは後者。」
学級委員長が考察する。
「てことは、この先にゴブリンより強い奴がいるってことか?」
一人の生徒が結論を言う。
「ふっ、それなら俺が一番乗りだ!!」
魏郎が興奮した表情で森の奥へと駆けていく。
「おい待て我弥!まだ行くと決まったわけじゃないぞ!」
敦也が呼びかけるが、魏郎は聞く耳を持たない。
「ここでも先走りやがった。委員長、コイツらはお前に任せた。俺は我弥を連れ戻してくる、しっかり見とけよ。」
敦也も魏郎を追って森の奥へと駆けていく。
「はい、わかりました。」
学級委員長が返事をする。
『魏郎の奴、ここでも問題起こすのか?はぁ、また先生の機嫌が悪くなるぞ。』
京雅が心の中でため息を着く。
その頃、魏郎は森の中を全力で駆け抜けていた。
『ふっ、この先に俺を楽しませてくれる奴がいる!!最高の気分だぜ!!』
と魏郎が興奮を隠しきれないでいると、突然大きな手に全身を掴まれた。
「があ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
魏郎の断末魔が、森中に響き渡る。
「何?今の声…。」
一人の生徒が不安そうな顔をし、他の生徒もザワザワと混乱する。
『不味いな。我弥に何が起きたんだ。』
敦也が駆けながら心の中で呟く。
すると、敦也が急に止まる。
目の前には怪物が背を向けて座っていた。
「コ、コイツは…!」
敦也が動揺する。
『まずい、早くアイツらに知らせなければ…!』
と、敦也が引き返そうとした時、謎の怪物によって襲われた。
一方、残された生徒たちは皆が動揺していた。
「怖くない?」
「何かあったのかな?」
皆それぞれでどよめく。
「さっきの叫び声ヤバかったな。」
康祐が京雅に話しかける。
しかし京雅は、アゴに手を当てて何か考え事をしているようで、全く聞く耳を持っていなかった。
『さっきの叫び声からして魏郎は限りなく死んでる可能性が高い。魏郎が殺られたということは先生でも勝てない相当な強敵だと考えるとが自然。みんなを逃がす方向で行くか。』
京雅が考えを巡らせる。
「みんな静かに!!なにか来る。」
真梨が皆を静める。
その直後、静寂を踏み潰すかの如き地鳴りが、ドスン…ドスンと一定間隔で聴こえる。
そして巨大な影が木々の隙間から近付いてくる。
次の瞬間、体長7mはある一つ目の巨人が口をクチャクチャさせながらのそりと顔を出し、森から出てくる。
そして、その怪物が両手に握っているものを見て、全員が例外無く身動き取れず固まってしまった。
そこにあったのは、顔の半分が無くなった魏郎と明らかに足が無くなっているように見える敦也だった。
一目で2人とも絶命していると解った。
「アレは…!サイクロプス!!」
康祐が驚愕する
その時、サイクロプスの目に光の粒子が集まっていった。
「みんな逃げて!!」
京雅が叫ぶ。
その瞬間、目から光線が放たれ直撃した場所は大きな爆発が起こった。
ある程度実力のある生徒はそれぞれで回避していたが、恐怖で身動きが取れなかったままの生徒は跡形もなく消し飛んだ。
生徒の3分の2は今の攻撃で散った。
『マジかよ…』
康介がサイクロプスを睨みながらそう心の中で呟く。
「怯むな!!相手は強敵だが、これだけの人数が居るんだ!!必ず倒せる!!」
一人の生徒が皆を鼓舞する。
「そうだ!!」
「俺らの努力は裏切らない!!」
「う、うぉー!!」
それに応えるかの如く、生き残った大半の生徒がサイクロプスに突撃する。
「ダメだ!!相手はA級だよ!!圧倒的すぎる!!勝てるわけない!!」
京雅が皆を止めようとするが、言うことを聞かない。
そして一人の生徒が剣を構えて飛び上がり、サイクロプスに一撃を入れようとした瞬間、急に地面に激突し即死した。
「な、何が起こったんだ!?」
皆が困惑する。
『速すぎる!!C級の僕にはギリギリ腕が動いたのが分かったけど、あいつらは何も見えなかった筈だ。逃げるタイミングも失った、このままじゃ鏖にされるぞ!!』
京雅が命の危機を感じる。