第五話 実戦
女性の悪霊の周りから無数のハサミのような刃物が浮かんでくる
「食らいなさい」
ハサミのような刃物は武綱に向かって次々と飛んでいく 武綱が攻撃を跳ね返す
「おそいな、その程度で拙者を消そうとしたのか?」
女性の悪霊は少しムカつきながらもニヤリと笑う
「ふっ、これだけだと思わないことね!」
両手を地面につけて力を込める 武綱の下から地面を突き破り大きなハサミが挟んでこようとする
大きなハサミは武綱を完全に捉えて挟み壊そうとする
「そんな使い方もできるんだな、その文房具」
「文房具じゃないわ、立派な凶器よ? そのまま砕け散りなさぁい」
大きなハサミから金属と金属が軋むような音が響く
「もう少し強くできないか?マッサージにもならないんだが」
女性の悪霊は驚く
「はっ、なに?痩せ我慢でもしてるのぉ?」
「貴様の目は節穴か」
次の瞬間、大きなハサミが武綱の硬さに耐えられず砕け散ってしまう
「な、なに?!」
「せっかく凝ってたのに残念だな」
「くっ、ここまでとはね こうなったらあれを使うしか無さそうね」
女性の悪霊が指をパチンと鳴らす すると、謎の霧が3階中を満たす
「なんだこれは?」
「苦しいでしょ?何も見えないでしょ 超特別に馬鹿なゴミに教えてあげる」
「これは催涙スプレーを何倍も強化したものよ 外はそんなに使えないけど中だったら誰も私に太刀打ちできないのぉ 」
武綱がため息をつく
「貴様は本当に馬鹿なのだな 拙者は刀だぞ?こんなの効かぬ」
女性の悪霊は驚く
「そ、そんなの反則じゃない!」
「それに、さっきからゴミゴミ言ってるが拙者がこの姿にしかなれないとでも?」
「な、何が言いたいのよ」
武綱の周りに水色に光る無数の魂のようなものが飛びまわっている
「霊力というのはコントロール次第でなんでもできる 例えばこんなふうにな」
武綱が水色に輝き女性の悪霊はあまりの眩しさに目をつぶってしまう
「くっ…」
光がやみ、女性の悪霊がゆっくり目を開ける
そして目の前に立っていたのは侍のような長髪で髪を結んだ男性
「あ、あなたは一体…」
武綱がニヤリと笑う
「驚いたか? まぁこの姿は10分程度しかもたないがな」
女性の悪霊が後ろにとんで距離をとる
「姿が変わったごときで調子に乗らないでくれる?」
上 下 右 左 四方向から大きなハサミが武綱を襲う
「さて、この姿で戦うのは数百年ぶりか まずは肩慣らしに一太刀」
武綱が刀を床に刺す 下のハサミは砕けその他のハサミは刺した時に発生した風圧と剣圧で吹っ飛ぶ
女性の悪霊は目の前で起こったことが信じられない
「ありえない…なんでよ!なんでなのよ! あなたも刺されればいいのよ!」
女性の悪霊は今までとは比べ物にならないほどの大きなハサミを武綱に向かって刺そうとする
武綱が独自の構えを見せる
「刺す?刺すというのはこういうことを言うんだぞ」
「天然流 一の極 鷹閃」
武綱が地面を蹴り刀を前に突き出す 刀とハサミの先端同士が直撃し刀がそのまま貫通してハサミを粉々にし女性の悪霊の頭に突き刺さる
「あっ…」
女性の悪霊が霧のように消えていく
武綱が元の姿に戻る
「これでこのショッピングモールにいた悪霊は全滅か
それにしても悪霊が想像以上に強くなってるな 玲夜も強くしないとまずいかもな」
武綱が2階に戻り座っている玲夜と合流する
「お、武綱!無事に倒せたんだな」
「あぁ、悪霊は全滅したしさっさとここから立ち去るぞ」
「あー、俺ボロボロで歩けねぇや…」
「仕方がないな」
武綱は再び人型の姿になり玲夜をおんぶしてショッピングモールにあったリュックに食料と水を詰め込みショッピングモールから出る
玲夜は家の中の寝室で目を覚ます
「うぅん?」
「やっと起きたか」
「武綱?てかさっきの姿なんだったんだよ?」
「霊力というのをコントロールしたらあのくらい容易くできる」
「そ、そうなんだ 」
玲夜が体中を見渡し気づく
「あ、あれ 痛くない なんでだ?」
「試しに霊力で貴様の体を治療してみたんだ まさかこんなに上手くいくとは思わなかったがな これならショッピングモールの時に治療すれば良かったな」
「霊力ってすげぇな」
「まぁ使い方次第では色々できるからな その代わり体力の消耗も激しいがな」
「霊って体力なんかあんのか?!」
「いや、体力はない だが霊力を使うとまるで体力を使ったような感覚になるんだ」
「なるほど」
「悪霊たちも霊力を使って玲夜と戦ったように刃物のようにしたり火炎放射器のようにしたりすることができる」
「俺も霊力あるのかな?」
「そのことだが貴様は謎が多い 守護霊と会話はできないのか?」
「会話できるよ だけど目視はできない」
「ふむ、なぜ守護霊を二体も使えたのかその守護霊に聞いてみるのはどうだ?」
「わかった」
玲夜は頭の中で守護霊を呼びかける
「服部さん!」
頭の中に直接声が伝わってくる
「うん?どうした?ボクシングを習いたいのか?」
「い、いや、聞きたいことがあるんです」
「なんだ?」
「どうして俺の守護霊になれたんですか?俺はすでに守護霊がいたのに」
服部は頭を傾げるように困る
「正直、俺もよくわかんないんだよな 焼死しかけた夢見ただろ?」
「は、はい、なんでそれを?」
「実はお前が焼死しかけた夢の中に俺もいて、お前を見てたんだよ しかもあの夢は間違いなく俺の経験だった」
「そして、夢が終わったら俺の声が届いててお前の守護霊になることができたんだ」
幼い男の子の声が玲夜の頭の中に響く
「ぼ、僕もだよ!お兄ちゃんが溺れてた夢 僕が経験したこととそっくりだった!」
玲夜が驚く
「二人の経験を俺が体験したってことか?それによって守護霊になることができた?」
「あぁ、俺たちがわかるのはこのくらいだ お前が夢を見る前は守護霊界にいたし」
「わかった、二人ともありがとう」
玲夜が武綱にさっきわかったことを話す
「なるほど、つまり守護霊の死に様を経験して力を手に入れたというわけか」
「加害者には被害者がつきものだからな 戦っていくうちにさらに多くの守護霊の力を手に入れることができるかもな」
玲夜が嫌そうな表情になる
「いやぁ、焼死に溺死に二度と体験したくないことばっかだったんだけど…」
「ふん、痛みを知れば見えてくるものもある 痛みを知らずに強くなった者などいない」
玲夜が覚悟を決める
「そうだよな、俺は強くならないと 犠牲者が出ないためにも」
「そうえば外はどうなってるんだ?」
玲夜がスマホを手に取る
ネットには悪霊から守ってくれる守護霊の力を使う者が注目されている
「守護霊の力に目覚めてる人が増えてきてるのか」
「運良く霊性条件を達成させたようだな」
一つの記事が玲夜の目にとまる
「日本政府が守護霊の力を使う者を募集?一緒に世界を救いませんか なんだこれ?」
「政府も本格的に動き始めたみたいだな」
「それじゃあ拙者らも動くとするか」
「動くって?」
「強くなるための修行だ あと、玲夜はその募集に応募するな もし無数の守護霊の力を扱えることがバレて公になったら面倒だからな」
「わかった」
「ではいくぞ、実戦と鍛錬へ」
玲夜は着替えて武綱と一緒に家を出る 家の近くの自然が広がる場所に移動する
「鍛錬ってなにするんだよ?」
「まず貴様の守護霊にボクシングを教えてもらい磨きをかけろ はっきり言って欠点がありすぎる」
玲夜は落ち込んだ表情で渋々受け入れる
「ひどいな…服部さん!ボクシングを教えてください」
玲夜の頭の中に声が響く
「うーん、まずはランニングからだな、体力作りが基本中の基本だし」
「とりあえず、あそこの公園までいこう」
目指す先は玲夜のところから5キロは離れているであろう公園
「うわぁ、キツそう」
「スタート」
「も、もう?!」
武綱が玲夜に声をかける
「拙者はここで待っている だから往復してこい」
武綱の言葉に玲夜は絶望する
「ま、マジかよ…10キロじゃねぇか」
「あと、守護霊の力を使うのは禁止だ」
玲夜が慌てる
「ええ、でも悪霊に遭遇したらどうすんだよ」
「その時は拙者が助けにいく」
玲夜は武綱の言葉が信じられない
「はぁ?数キロも離れてるかもしれないのにわかんないだろ」
「拙者は数十キロ離れていても気配を捉えることが出来る」
玲夜は目が飛び出しそうになる
「う、うそだろ?!」
「それに拙者は5キロなど秒でつく」
玲夜は何も言い返せずただうつむく
「わ、分かったよ 走ればいいんだろ?」
玲夜が走り始める 十分後、玲夜は息を荒らげている
周りは森で木と葉っぱしかなく地面は砂なので足場も悪い おまけに微妙に高くなり続ける坂道
「はぁはぁ、もうキツイ 最初から10キロはしんどいよ」
玲夜の頭に声が響く
「おいおい、まだ2キロぐらいだぞ」
「ま、マジかよ?!」
武綱が玲夜の気配を追跡している
「悪霊が一体、玲夜に接近しているがその近くに守護霊もいるな しかもこいつかなり強い」
「こいつの強さ気になるな 他の守護霊はどれほどのものなのか」
武綱は凄まじい速さで玲夜に向かって突進する 玲夜と20メートルほど離れたところで立ち止まる
玲夜が走っている最中、ようやく平坦な道が現れる だが目の前に真っ黒な何かが立っており思わず自分の足にブレーキをかける
「おおっと、うん?なんだあの人 いや、人じゃない?」
服部が険しそうにしている
「その通り、だけど…見る限り 前戦った黒井より強ぇぞあいつ」
玲夜が冷や汗をかく
「えぇ、勝てんのか?」
「わかんねぇ…」
武綱が悪霊を見つめている
「あいつは3階で戦った奴と一緒ぐらいの強さだな ちょうどいい、少し早いが実戦だ」
玲夜が謎のドヤ顔をする
「まぁ、でも武綱が何とかしてくれるでしょ なっ!武綱!」
武綱は来ず、代わりに寒い風がくる
「なんで来ねぇの?! あーもう!このシーン何回も見たぞ!戦わないと助けにこないやつ!」
「もう!やってやるよ!どっちにしろ実戦もしないといけないからな!」
服部が笑う
「ははっ、全力でサポートしてやるよ」
悪霊が口を開きこちらに近づいてくる 身長は2メートルはあり上半身が異様にでかく下半身の大きさと合っていない
「さっきからなに一人で喋ってるんだよ? まぁいいや お前を殺せば80人目だ」
悪霊が不気味に笑い出す
「あともうちょっとで生き返れるんだ!生き返ったら…はは…想像しただけでたまんねぇ」
悪霊の言葉に玲夜は鋭く睨む
「79人殺したのかお前」
悪霊がニヤリと笑う
「あぁあ、そうだよぉ!あの泣き顔…生前のことを思い出すんだぁ ひゃひゃ」
相川蓮容疑者 生前は鈍器のようなもので男子中学生を2人殺しており殺人罪と判決され無期懲役を言い渡された殺人鬼
「さぁて、お前はどんな泣き顔みせてくれんだぁ?」
相川の片腕が変形しどんどん肥大していく まるで粘土のように形が変わりハンマーのような形状と化す
「おらぁ!」
玲夜の頭上から巨大なハンマーが落下する 玲夜は足から水を出し後ろに飛ぶ 相川の片腕はそのまま地面をえぐり亀裂を走らせる 砂埃が舞い威力が目に見える
「こりゃあ、1発でも当たったらやべぇな…」
相川が声を荒らげる
「逃げてんじゃねぇよ!」
相川は前に飛び玲夜に向かって横から片腕を振りかざす
玲夜は足から水を出し水圧を上げ前に飛び相川の片腕を回避する 相川の後ろに着地して炎を纏った拳で右ストレートを放つ
「79人分の悲しみをくらえ!クソ野郎!」
玲夜の右ストレートが相川の顔面を捉える だが次の瞬間玲夜の拳に激痛が走る
「ぐっ…!」
相川がニヤリと笑う
「あぶねぇなお前、守護霊二体持ちか 聞いたことねぇが大したことないな」
相川は額をハンマーのように固くしておりそれで玲夜の右ストレートを受けて直撃を避けていた
玲夜が自分の拳を見つめる
「クソッ、右の拳が使えなくなった」
服部がアドバイスする
「右が使えなくなっても左がある まずはジャブで様子見を!」
相川が次の攻撃を仕掛ける
「そろそろ終わらせるか」
玲夜の頭上から大きなハンマーが降ってきてそれと同時に横から相川の片腕が飛んでくる
「や、やべぇ…間に合わない…」
直撃しようとしたその時、玲夜が何者かにとんでもないスピードで担がれ相川の攻撃の隙間を通って回避する
武綱はとんでもないスピードにも限らずそれを捉えていた
「玲夜と同じ水を使っているな だがあれは桁が違う」
何者かが相川の後ろで玲夜に話しかける
「大丈夫?君 ケガは?」
玲夜が目の前にしたのはオシャレなメガネをかけており少し長髪で凛々しい男性だった
相川がその男性を睨む
「誰だぁ、てめぇ」
男性は振り返り相川の方を向く
「んー?僕はね、君みたいな醜いやつを倒す者さ」
相川が激怒する
「てめぇ!決めた!お前から殺す」
男性は煽るように笑う
「君が僕を?無理無理! ははっ!夢のまた夢だよ」
「なんだと?」
玲夜が男性に問いかける
「あ、あの、あなたは一体何者なんですか…?」
男性は前を向いたまま答える
「君には特別に教えてあげるよ 僕は悪霊退散部隊 第七祓隊所属の 副隊長 青柳凛だよ」
「悪霊退散部隊…?もしかして!あの日本政府が募集してた…」
「そう、正解!よく知ってるね」
相川が驚く
「悪霊退散部隊…もう動き始めたのか」
「あれ、聞かれちゃってた?それに僕のこと知ってるの?」
「あぁ、知ってるさ 嫌でも耳に入る 悪霊の天敵だってな」
「それなら話が早いね!さっさと君には消えてもらうよ」
「はっ!やってみろよ!」
相川が青柳に向かって片腕を振り回す…!




