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東の町のしょうせつか

あけましておめでとうございます


本作は以前投稿していた「乙女の夢のあとしまつ」を大幅に改変したものです

詳しい経緯は活動報告に記載しましたが、要約すると「中村先生はやはり神」ってことです


新年早々、この作品にたどり着いてくださった中村先生ファンの鏡に本作を捧げます

各作品(全14種)の名言の、引用、流用のつまった福袋としてお楽しみください


指示系列は11.アデル、懊悩する(1)の半年ほど前、レイノルドが15歳の時のお話です

オーケー、落ち着くんだベイビー。

やっこさん、こっちが小娘だからってちょいと調子に乗っているようだな。

ここは一発、派手にぶちかましてやろうぜ。


前後左右を下級魔獣に包囲された少女の脳裏で、てんで役立たずのアメリカンが騒いでいた。


(いや、無理!)


ラム・カサキツナは自分で自分に突っ込みを入れた



彼女は聖フォルツ王国の東端の町・エーベルトにある商家の娘だ。趣味は読書と、物語を書く事。

16歳だし、もう大丈夫だろうと父親から依頼され、1人で近隣の村へ品物の配達に向かったラムだったが、地図がうまく読めず魔物の出るエリアに立ち入り、そして包囲されていた。


彼女は文系脳だった。


冒険小説が大好きだが、自身は戦う術を何も持ち合わせていなかった。現実は非常である。

どう考えても助からない。

死を覚悟するには十分すぎる状況だった。


(ああ!でもひとつ欲張るなら、せめて極力楽に死ねますように!死後は楽園へ行けますように!生まれ変わったら理系脳で優しい旦那をつかまえられますように!あとファンに愛されながらヒット作を連発する作家になれますように!代表作は300万部以上売ますように!)


目をつぶり、ひとつというには少々欲張りな願い事を並べ立てる。


――





あれ?全然魔物が襲ってこない


あと、小春日和だというのに寒い


一体どうしたのかと恐る恐る目を開けると……辺りは氷の世界となっていた


ラムの半径1mほどは、以前のまま

しかしその周囲半径30mほどがドーナッツ状に凍り付いている。魔物も。


ヘイ、ラム。これは一体どう言うこと。

私達には何か隠れた力があって、命の危機にそれが目覚めたとでもいうの。


「どうも……ラム・カサキツナさんですよね?」

「へっ?」


 背後より、唐突に掛けられた声に、ラム間抜けな声を上げた。


そこには、暴力的な美貌と宝石のように美しいアイスブルーの瞳を持った一人の青年がいた。


「助けにきました」


 青年が、最高級の天鷲絨(ビロード)のように滑らかな声でそう言った時、ラムは新しい物語が始まったと思った。



※※※


青年はレイノルドと名乗った。


 彼は偉大な師に頼まれてラムを助けに来たのだと説明したが、師匠の名前は明かしてくれなかった。


 なにか深い事情があるのだろう。


 現実は小説より奇なりというが、少なくとも

 「たとえ女性でも自分以外の人に師匠の名前はよんでほしくない」

 みたいな理由ではないはずだ


 ラムも、自分を助けてくれる相手に心当たりなど無い。


 当然だ、会ったこともないのだから。


アデルがエラに依頼され、女性には買いにくい物品の購入へ行った時に、ラムの父が「お使いに出した娘が魔物に無残に殺された」と嘆く様子を予知で見て、「無残に殺された」あたり他人事とも思えず、お人よしも相まって助けようとしたことなど知る由もない。


「だいぶ歩いたと思いますが、疲れや脚の痛みはでていませんか?」


「は、はい……!」



師匠からの依頼は「魔物に襲われるのを助ける」までだというのに、レイノルドは、親切にも目的地までの同行を申し出てくれていた。


目的までの道はわかるかと問われ、ラムが地図をみながら正反対の道を示した時、レイノルドが「何曜日に捨ててやろうかこの生ごみ」的な視線をしていた気もするが、きっと気のせいだろう。


(もしかして、一目惚れされちゃったとか?それで、ここから彼との冒険の日々がはじまったり……)


興奮で熱に浮かされた状態のラムは、そんな頭の悪い妄想をした。

熱で朦朧としてこそ限界の向こう側へ踏み出せるのだから。



「あ、あの、本当にありがとうございました」


「いえ、お気になさらず。本当にご無事でよかったです」


レイノルドは愛想よく答える。彼ときたら、5人どころか五千人力はあるのではないかという強大な魔力を持つだけでなく、すっと相手の懐に切り込んでいく気さくさや、言葉一つで相手の喜ばせるセンスまで完備しており、他愛ない雑談にも品よく応じてくれる。


顔だって、自分の好みとは少々違うが、美形と言えるだろう。


ちなみにラムは理想の顔はという話題で母から

「ラムちゃん、それはない」

と真顔で言われたことがある。ダンディな大道芸人のどこがいけないのか、未だに解せない。


(そういえば、売り子の娘の間で噂になってたっけ。時々町に、神秘的な顔立ちをした魔女が来るとき、すっごくカッコイイ弟子がついて来ることがあるって .....私は会ったことないけど、彼のことだよね。)


ラムは思った。一目惚れした訳ではないが、こんな優良物件には二度と出会えないだろう。それに、()()()()の英雄だって顔で相手を選んだのではなく、冒険の中で人間性に惹かれて愛をはぐくんだのだ。


そう、ラムは子供の頃に絵本で読んだ、ある物語にあこがれていた



 むかし、遠い国にいたという、金髪碧眼の細剣使いの女の話。ミルクのように甘そうで柔らかな肌を持つ、とんがり耳の英雄の話だ


 たった4人のパーティで魔王を打倒した英雄

 その物語を聞いた時は心を踊らせたものだ。


年上の幼馴染と一緒に、魔王との戦いに目を輝かせて「勝利のために必要なものは、いつだってたった三つ。友情・努力・勝利だぜ!」なんて興奮していた


そして、魔王を倒した後の、「一緒に戦っていた大剣を扱う戦士で、狼のように鋭い瞳が印象的なすさまじい色男と結婚して相思相愛で幸せに暮らしましたとさ」という結末には胸をトゥンクさせた


ラムは思った。

私はこれから、かの英雄の様になるのだ。


なに、かの英雄と私は、せいぜい顔とスタイルと性格と戦闘力の有無と声と年くらいしか違わない。


それはつまり何もかも違うということだったが、ラムの脳はその残酷な現実を無視した



そして決断した。


(冒険と、恋の航路に面舵いっぱぁああい!!)




「あ、あのレイノルドさんは、大切な宝物とかってありますか?」


ラムはまず、相手の好きなものをきくことから、レイノルドと親密になろうとした。

コミュニケーションに自信があるわけではないが、昔読んだ本にはそんなことが書いていた気がする。


出来ることをするほかありません!声を出していきましょう!


「ええ、ありますよ……これです。昔、大切な人から頂いたものです」


レイノルドは、懐から赤い女物のスカーフをとりだした。噴水に手を伸ばし林檎の的当てを楽しむのがこの世の快楽と思っている少女が好みそうな、まるで野苺を連想させるような、かわいい赤色のスカーフ。


 思い人がいるのかと、ラムは一瞬気落ちするが、話を続ける。


「昔……ということは、その方とは最近お会いできていないんですか?」


「ええ、長いこと会えていません。本当に長い間……」


レイノルドの顔が曇る。


その様子を見てラムには想像がついた、大切な人は昔、レイノルド君をかばって死んだんだ。で、それが奇しくも初恋の幼馴染で、スカーフはその形見、これだよ!


1ミリもあっていない

込められたメッセージを読み取るのは鑑賞する側の技量ですね


スカーフは2年前の10月7日に、師匠にお願いして頂いたおさがりのものだ。そしてレイノルドにとって仕事のため2日ほど師匠と会えないのは「本当に長い間」なのだが、そんな事情にラムが気づくことはない。


 辛いことを思い出させた罪悪感に少々胸が痛むが、同時に彼の傷心はチャンスだとも思った。一緒に冒険をする中で男の心の傷を癒し、いずれ恋仲になる展開は物語の王道なのだ。


女は時に、狐の様に狡猾。


 ――欲しいものがあるときは、なおさら。


逃がしはしませんよ……



「ところで、レイノルドさんの師匠ってどんな方なんですか?尊敬しているみたいですけど、どんなところが素敵なのか教えてほしいです。」


ラムは話題を変えることにした。

好感を得るには相手の好きな話題を振るのがいいと(以下略)


「……っ!喜んで!では、すこし長くなりますが聞いてください」


そこからレイノルドの様子が変わった


※※※


「……というわけで、少なくとも、師匠は教会が喧伝しているような卑しい存在ではなのです。本当に他人のためばかりに心を砕く、高潔な人物で……と、もう目的が見えてきましたね。」


「あ、はい……」


師匠の話題を振ってから町に着くまでの間、レイノルドは、師匠の布教活動を続けた。

それはもう熱心に、延々と。



話を聞く中でスカーフの元の持ち主と師匠が同一人物ということも判明した。

ラムは、冒険と恋の航路に舵をきれる感じではなくなった道中で、熱っぽく語るレイノルドみながら悟った


シャバには、7つの大罪よりもよほど執念深くて厄介な美徳があることを


そして、自分の新しい物語は始まる前に終わったことを



「まだまだ師匠の魅力をお伝えしたいですが、この後大事な用があるので僕はここで失礼します。」


レイノルドはそれだけいうと、あっけに取られるラムを置いて去っていった。


その場に残されたラムは、1人思う



 会ったことはないが、聞いたことがある。


ときどき町に、薬草を売りにミステリアスな黒髪の魔女が来ることがあると。


町娘には魔女を悪く言うものもいたが、レイノルドは高潔な人だという


 その女性がどんな人物なのか、本当のところはわからない。


 ただ、とりあえず命の恩人から聞いた話として書き残しておこう。いつか何かの役に立つかもしれない。


ラムは、そう思ったのだった。


 






 

 その半年後、「東の魔女」が処刑される事件が起き、勇者が激怒した結果、流通経路がつぶれた。


 生活が大変になったが、その数年後ラムは少し年上の幼馴染の男と結婚した。

 少し前まで商人見習いだった男が、晴れて一人前になったタイミングでラムに求婚したのだ。

 驚いたが、嬉しかった。


 ルックスは普通だし、愛情表現も、やってはくれるが月並みの男だ。

 だが、ヤンデレではない


 家庭より仕事に夢中になることがあり、さみしい思いをしたこともある。

 だが、顧客が好物と知れば苺を差し入れるような商売上手で、頭角を現していった。


 流通面の不便さはいかんともしがたく、しばしば困難にも襲われたが、2人は協力して立ち向かった。商売に活かそうと教養を学び、愛を育んだ。頭に入れた教養と、心に込めた愛は、誰にも奪われない財産となった。


 そして処刑より7年後、東の魔女の慈悲により孤立が解消されエーベルトの人々は喜びに沸いた。どうやら、東の魔女はレイノルドの言っていた通りの高潔な人物だったらしい。


同時に、聖フォルツ王国民は思った。


「必要な時に気づけなくて、ごめんなさい」


7年前、自分たちは愚かで、無頓着で、そしてそれが引き起こした事態は、もう二度と取り返すことなどできない。


けれど願わくば、今度こそ。


彼女には幸せになってほしいとーーそう思った。



それからさらに数年後、東の魔女の数々の偉業と、ドラゴンを退治した勇者の働きかけにより、国は大きく様変わりし、金髪碧眼以外の魔力持ちも暮らしやすい国になっていた。


そこでラムは、昔からの夢であった本を書いた。


かつてレイノルドの話を書き留めておいたノートと、人々から伝聞したアデル達の偉業をもとに書いた、冒険と恋のセミフィクションだ。


タイトルは「東の魔女のあとしまつ」



歴史に残る傑作だった。

文系脳の彼女には作家の才能があったのだ。


それを、旦那と共に開拓した流通経路と、培ってきたノウハウで売って、大金持ちになった。


同じころ、東の魔女の左手薬指には、まぶしい宝石を乗せた金の指輪が嵌った。

その日を境に、勇者レイノルドが絵画や小説に書かれる際には、決まって東の魔女が、まるで精霊の様に書き込まれるようになる。

 ――聖フォルツ王国の民が「脳内補完」の概念と出会った、それは記念すべき瞬間であった。


ラムは今までの事を思い出してそのすべてに感謝しつつ、生まれてきた子供たちに東の魔女の話を聞かせて育てた。そして思う。これから自分がすべきことは、教会めざまあみろと溜飲を下げることでも、東の魔女に対して妙に罪悪感を抱くことでもない。


彼女を見習って滅私奉公の精神で人のために尽くしつづけることだろう。

誠意には、誠意を。


ラムは本を大量に複写し、教育施設や孤児院に無償で寄付した。タダ同然の値段で売りもした。

そうして、国中で「東の魔女のあとしまつ」は子どもたちに聞かせる話の定番となった。やがて、本は国外にも輸出される様になり、その累計発行部数は聖主教の聖書を超える。



そして「東の魔女」は「無欲の聖女」や「薔薇の天使」と並び、世界三大聖人の一人として国境や時代を超えて後世まで長く語り継がれ、「東の魔女のあとしまつ」は遠い未来で漫画化や映像化されたりもするのだが……。


それはまた、別の話である。






禍福はあざなえる縄のごとし


いいことがあっても続かず


悪いことがくることもある


勘違いして、からまわることだってあるかもしれない




しかし、その次には必ずまた良いことがくるのだ


そして、最後は必ず幸せな結末が訪れる。


慈悲深い創造主(中村颯希先生)によって丁寧に生み出された世界(物語)は、そういうふうに、できている


こそこそ裏話


(1)オリキャラの名前は尊敬する先生のアナグラム

   ラム・カサキツナ→ナカムラ・サツキ


(2)「五千人力」はふつつか悪女の新作書下ろしLL

    中村先生のXから辿るか

    ふつつか悪女のX公式から探せば読めるよ!


※ お話は、理不尽な孫の手先生の名作「無職転生-異世界行ったら本気だす-」NコードN9669BK 無職転生の第19章青年期 配下編 間話「お仕事の一例」に創作意欲を刺激されて書いたものです。


文系脳で冒険に憧れるキャラ〜自分で本を書く展開等で、酷似しないお話にはできたかなと個人的には思っています。パンツも嗅いでないしね!

冒頭で女の子が助けられるは同じですが、そこに関してはオマージュと言う事でご容赦頂ければ幸いです。


小説における著作権とか盗作にならないかとか、色々調べて注意を払った上で投稿しましたが、もし何か問題がありそうなら遠慮なくご指摘下さい。その場合、全責任は私にあることを明記しておきます。尊敬する両先生にご迷惑をかけることだけは避けないとね!

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東の魔女のあとしまつ
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