アデル 絵本を読む
中村颯希先生の「東の魔女のあとしまつ」の二次創作作品です。時事系列としては10.勇者、覚醒する(2)の少し後の話です。
お楽しみいただけますと幸いです
素晴らしき原作↓
Nコード:N8570JU 東の魔女のあとしまつ 中村颯希
https://ncode.syosetu.com/n8570ju/
「というわけで、絵本を買ってきたわ」
「本当に効果あるの?」
「育児書にも書いてあったし、確かにやってみる価値はあると思います」
『アデルの家』にてアデル、マルティン、エミリーの3人は密談を交わしていた。議題はもちろん「アデルが復讐されてなぶり殺される未来をいかに回避するか」である。
先日、勇者として覚醒したレイノルドの圧倒的な魔力を見た3人は、甘やかして魔力の成長を妨害するプランがうまくいっていないことを悟り、次の作戦を考えていた。それが、『情操教育で優しい心を育んで許してもらおう』作戦だ。
アデルの本棚に放置されていた育児書に、子供のうちに絵本の読み聞かせをすると情操教育によく優しい子に育ちやすいと書かれていたのをみて思いついた作戦である。早速アデルは町で絵本を買ってきた。できたら知っている話が良かったが、古本屋が立ち読み禁止で、あまりお金もないので、異国の知らない昔話になってしまったけれど。
しかし、我ながらいい考えだとアデルは思った。大きくなったら絵本の読み聞かせなんてできないし、今がベストタイミングのはずだ。
仮に情操教育がうまくいかずに復讐が実現したって、絵本の教訓が許しや寛容さとかなら、読み聞かせのことを思い出して手心を加えるくらいはしてくれるかもしれない。
『さーて、レイノルドに読みきかせする前に試し読みしとくわよ。魔力つかわせちゃってごめんねエミリー!やっぱりこの喉で長い文章はなすの結構負担でさー』
『いいえ、師匠の役に立てるならぜんぜん。それより、可愛い表紙ですね。薪を背負ったたぬきと、ウサギが仲良さそうに散歩しています』
『そうでしょそうでしょー!そこが気に入って表紙買いしたんだから。きっと仲良くキャンプでもして、目玉焼きを食べたり苺を食べたりする話よ』
『そんなほのぼの話なのかな?昔話ってなにかしら教訓とかある重い話も多いけど』
だが、アデルはちっちっと指を振り取り合わなかった。
『なにいってんのよー「カチカチ山」なんてかわいいタイトルなんだから、そんなわけないない!それじゃあ、じゃさっそく読んでみるわねー。えーとなになに」
おじいさんは からかってきたたぬきを つかまえました わるだぬきめ なべにして くってやろう
『罪に対して罰が重すぎない!?』
アデルは絶叫した。確かにタヌキは悪いことをしたが、処刑されるほどだろうか。なんだろう、すごく自分と重なってしまう
『いや、でもおばあさんが縄を解いてくれるみたいだよ。料理の手伝いをしてくれるなら縄を解いてあげようだって』
『そ、そうよね。そんな殺伐とした話になるわけないわよね、絵本だもの。』
『優しいおばあさんで良かったですね。』
エミリーは2人からちょっとだけ手を話して思った。このお人好しですぐ人を信じるおばあさん、まるで師匠みたいだと。
この狸も、自分みたいに、師匠のような優しいおばあさんに感謝しながら幸せになっていくのだろうと
たぬきは きねで ばあさまをうちころし にげてしまいました
『許さない!絶対に許さない!!この恩知らず!』
『エ、エミリー落ち着いて』
『そ、そうだよ、気持ちはわかるけど。狸も殺されかけたんだ......ここから狸が悔い改めて、和解する話かもしれないじゃないか』
マルティンは考えた。エミリーの気持ちもわかるがこれは絵本、復讐をよしとするはずもなく、何か良い教訓を得られる話になるはずだ。
うさぎはいいました ぼくが たぬきを やっつけてやります
『復讐の連鎖じゃないかー!というかウサギとおじいさんってただの友人だよね??』
『いいわようさぎ、あんな恩知らず、徹底的にやってしまいなさい。』
『やっぱり復讐の話なのー!?』
アデルは祈った。
せめて、たぬきに情状酌量の余地を。
命ばかりは助かりますように。
うさぎは たぬきを やけどさせ きずにしおをぬりこみ かわのそこへしずめてしまいました おしまい
読了後、場にいたままれない空気が流れた
「......お百姓さんが畑をあらす害獣への怒りで書いた話なのかな」
マルティンはこめかみをおさえた
「この終わり方は予想外ですね……」
エミリーもさすがに顔を引きつらせている
「た、たぬき......ちょっとした罪をきっかけに、そんなひどい死に方を……」
アデルに至っては自分に重ね合わせて白目をむいている。
ちょっと畑仕事を邪魔しただけで処刑される未来につながってしまうなら、教会から勇者を拉致した自分はどうなるのか。すくなくともたぬきよりもマシな最後が迎えられるとはおもわない。
「で、でもこのやるせなさが逆にレイノルドの情操をはぐぐむかもね、さすがだよ師匠」
「そ、そう、かな……っ?復讐を考えている子がこの話を思い出したときも、思いとどまる方向に考えてくれるかな......はは......!ははは......!」
「そうですよ師匠、あはは」
「「「あはははは」」」
そんなはずがない。
だがもう、笑うしかなかった。
3人は同時に真顔になった。
「この本は返品しましょう」
「「賛成......」」
こうして絵本による情操教育はお蔵入りとなる。
まあ、それは彼女らの勘違いで、仮に読み聞かせていたところで、レイノルドはアデルに感謝こそすれ、復讐など毛先ほども考えることなどないのだが。
ただ、7年ほど先の未来で、大切な人の仇は徹底的に懲らしめるウサギを思い出し、レイノルドがより苛烈な行動をとることはことはあったかもしれない。結果的にお蔵入りは正解だったといえるだろう。
お読み下さりありがとうございました
面白ければ99.9%中村先生のおかげです
それはそれとして、評価、感想、ブックマークなど頂けますと筆者の次回の二次創作作執筆がはかどります
ちなみにカチカチ山は和解エンドもあるようですが、原作に近いほど......
まあ、主役の詰めの甘さと、ユーモラスな掛け合いが楽しい話ですからね
あれ、そんな話最近どこかで読んだような......
あと、以下は筆者のオリジナル小説です。中村先生の作品に影響を受けています
もしよろしければ、中村先生の次話発表までのつなぎにでもどうぞー(露骨な宣伝)
慈愛の公女は幼女にときめく
N6875FP
https://ncode.syosetu.com/n6875fp/