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混乱と選択

 シモンはカインの上司を捕まえ、行方不明となった当時の状況を聞いたが把握しておらず、ともに行動をしていた兵士たちを探し出しては情報を求めた。


 もたらされたのは、カインは足に大怪我を負っていたこと。治療を受けていたことまでは知っているが、その後はわからないというものだった。


 僕は苛立つシモンを宥めた。

「現地も追い詰められた状況だったのだろう。王都で安穏に過ごしていた私たちがこれ以上問い詰めるのはよくない。……ひとまず怪我はしているが命は無事だということがわかったのだから、公爵家から捜索を出させよう」

「……それには及びません。無事ならば自力で帰ってくるでしょう。取り乱した姿をお見せして申し訳ありませんでした」


 *


 国中が戦勝ムードでお祭り騒ぎの中、延期されていた僕とマリアベルの結婚式は執り行われた。

 マリアベルは顔を染めながらも笑顔を綻ばせる。

 僕は彼女に微笑みかける。ほんの少しの罪悪感を感じながら。


 *


「シルヴィ、バークレー領に帰るって?」

「はい。いつまでも店を留守にするわけにもいきませんので。これでも最近は頼りにされているんですよ」

 シルヴィが眉を下げながら気丈に笑う。

「いつカインが帰ってくるのかもわからないのに」

「そうよ、シルヴィさん。次にわたくしたちが領に帰る時まで滞在されては?」


 僕とマリアベルの言葉に、シルヴィは微笑みながら目を伏せた。

「いえ、兄と両親からも帰ってくるように頼りがきていますし……バークレーで待ちます」

「そうか……」

 止めることはできない。せめてもの公爵家の馬車を使ってくれと言って、固辞するシルヴィを説得して紋章のついていない馬車で送り出した。


 *


 戦後の処理も目処がつき僕も新生活に慣れた頃、バークレー領にいるシード子爵から一時帰還の要請が来た。

 食糧価格の高騰によりバークレー領の穀類が狙われているらしい。シード子爵とロバン商会会頭が目を光らせているものの、他領や王宮貴族からの圧力が増しているとのことだ。

 確かに、その目的を持って父と僕に接触してくる貴族はいる。しかし、戦中戦後の穀類の管理は国に報告しているので、どこかを優遇することはできない。

 そうやって断っていたところ、領地の方へ直接話を持って行っているようだ。

 

 だからバディスト公爵家の者が領地に赴くことにより牽制になるというわけだ。父は王弟として国王陛下を支えなければならないため、次期当主の僕と妻のマリアベルが領地に戻ることになった。


「マリアベルは戦争もあってバークレー訪問は久しぶりだったな」

「はい、婚約が決まった時に一度だけ。美しい場所でしたわよね」


 *


「フィリルさま! ご無事でなによりでございます」

「ん?」

「最近、夜間ですが小麦を狙う盗賊が現れたのです。公爵家の馬車だと知られたら……」

「ああ、なるほど。戦後の治安の悪化で警備には力を入れている。心配をかけたな」


 全ての帰還兵が復職できるわけではない。怪我や心の傷を抱えている者もいる。それに寡婦や孤児となった者もいる。

 職業の斡旋や炊き出しも追いつかない。生きるために犯罪に手を染める者も少なくないし、利用する者も現れる。

 そういった人間が、今回この領にも現れたのだろう。現にほかの小麦の産地でも盗難や略奪が起きているらしい。


「倉庫周辺の警備を固めよう。それからロバン商会にも顔を出そう」

「承知いたしました」

「……シード子爵。顔色が悪いが、大丈夫か?」

「も、申し訳ありません。もちろん大丈夫です。若奥さま、お待たせして申し訳ありません。あちらにお茶の準備がしてありますのでお休みください」

「ええ、ありがとう」


 マリアベルも心配そうな顔をして僕を見る。僕は頷き、奥へと進んだ。


 *


 お茶を飲みながら子爵から細かい説明を聞き、早速シード子爵とともに穀類の販売取り扱い窓口となっているロバン商会へ向かうことにした。


 *


「若さま! お疲れのところ申し訳ありません」

「会頭、ご苦労だったな。だいたいの話は聞いた。これからは私と父の名を利用する許可を与える。理不尽な要求には使ってくれ。もちろん、シード子爵と協議の上でだ。よいな?」

「御意」


 店に入ってきた時、シルヴィの姿が見えなかった。店の手伝いをしているかと思ったのだが。


「会頭、シルヴィの様子はどうだ?」

 シルヴィの父でもある会頭が平身低頭してポケットからハンカチを出し、額の汗を拭う。


「気にかけていただき恐悦至極でございます。シルヴィは……部屋に閉じこもっておりまして……。あ、呼んでまいりましょうか?」

「……いや、よい。カインのことでふせっているのだろうか?」

「それだけではないのです」


 その時、応接室のドアがノックされた。

「なんだ、バディスト小公爵がおみえなのだぞ」

「申し訳ありません、会頭。シスラー商会の副会頭が……」


 ロバン会頭がため息をつく。


「帰ってもらってくれ」


 *


「シスラー商会といえば近頃急伸してきている王都の商会だな。なんの用なのだ?」

 

 シード子爵が僕に代わってロバン会頭に質問をし、私がじっと会頭を見て説明を促す。


「実は、シスラー会頭の息子、副会頭からシルヴィに結婚の申し込みがきておりまして……」

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