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置かれた場所で

 季節が巡り、僕はスクールに入学した。

 石造りの王都の端にある石造りの重厚な学校。バークレー領の広い草原や青い空とは全く違う環境の上に人も多く、早くも息が詰まりそうだ。

 

 入学式後のオリエンテーションが終わった頃、カインの兄のシモンが入学早々に挨拶に来てくれた。カインと同じハニーブラウンの髪に青い瞳。しかしカインより柔和な顔で背が高く、確かにカインによく似ているが、どちらかといえば父親のシード子爵寄りだろうか。

 シモンはすでにスクールを卒業しているが、まだ文官の研修期間で時間があるとのことで学園内を案内してもらったのだ。

 

 シモンはかなりの学生や教師と言葉を交わしており、人脈も人望もあるようだ。そこも父親のシード子爵に似ているのだろう。

 その柔和さとカインに似ているのもあって、息が詰まりそうな中で少し安心した。

 

 僕の住まいが王宮にもあることもあり、見かけたことがある子息は多い。下位貴族には知らない顔もあるが、スクール内は平等だということで挨拶を交わす。そこでもシモンが役に立ってくれた。

 平等とはいえ、王族に準ずる公爵家嫡男の僕に近づきたい者は多い。シモンがやんわりと対処し、時には牽制する。僕の近侍にもアドバイスをしてくれて頼りになる。


 *


 大勢に囲まれて少し疲れた頃、シモンが人気の少ない庭の方へ誘導してくれる。


「フィリルさま、お疲れでしょう。あちらに休憩室がありますので休憩しましょう」


 校舎とは別棟の喫茶室では様々なスイーツが紅茶などとともにサービスされている。貴族専用のスペースなのだそうだ。その中でも僕たちは高位貴族のための個室へと案内された。


「カインが言っていた通りでした。フィリルさまは纏う空気が違うので貴族だらけのスクールでも存在感が違うだろうと」

 纏う空気が違う……か。

「そうかな」

「そうですよ。だってここに来るまで大変だったじゃないですか」

 喫茶室に入ってから個室に入るまで、ほとんどが上級生だったと思うが、ずっと注目を浴びていた。

 

「それは私個人としてよりバディストだからじゃないかな」

「いえいえ、フィリルさまの周囲はなんだか輝いています。オーラがあります」

 僕は首を傾げた。

「オーラ?」

「はい」

 シモンは微笑みながら頷いた。


「そういえばシモンは外交部志望だと聞いたのだが」

「はい。研修後に配属先が決まるので、まだわかりませんけど。いずれは父の跡を継ぐことになるでしょうが、色々見識を広げたいと思っています。あ、弟を警備兵として雇って下さったことに感謝しています。子爵家の次男が労せずして職に就けたのはありがたいことです」

 シモンは目を伏せて頭を下げた。

「いや、カインは才能があると思う。剣の腕も上がってきているよ。そのうち警備隊だけではなく、軍の方の兵士にも引けを取らなくなるだろう」

 

 領地貴族は、それぞれ軍隊も組織している。有事の際には国に従って行動することもある。屋敷や街を守る警備隊は軍隊と合同で訓練をすることもあるが、カインは父の側近のシード子爵の次男であるため、将来は騎乗しての父や僕の護衛となる予定だ。

 

「ありがとうございます。私は剣は全然なのです。本当は学問もカインの方が私よりよくできるんですよ」

 シモンの表情に卑屈さはなく、純粋に弟を思っていると見てとれた。


 *


 カインはバディスト家の警備兵として、鍛錬を積みながら憲兵と同行して街の治安のために警邏をしたり、揉め事の仲裁をしているらしい。

 シルヴィは家業である商会の手伝いを始めたそうだ。僕たちと勉強したことを活かして帳簿をつけたり接客をしているとのこと。


 僕がスクールでまだ学生という身分でいる間に二人は仕事を始め、少し置いていかれたような気分になる。


 少し焦りをシモンにこぼすと「わかりますよ、でも」と微笑まれた。

「フィリルさまは近い未来、バークレーの、いや国を背負う立場にあります。そのために学ぶことは膨大にありますよ。法律はもちろん経済も語学も。今はその準備期間なのです。大勢のカインを守るのも大勢のシルヴィを守るのも、未来のフィリルさまなのです」

「……!」


 目が開かれる思いがした。

 将来、自分が置かれる立場や王族の一人として、自分の判断が大勢のカイン(軍人)、大勢のシルヴィ(国民)の運命を決めることもあるのだ。


 僕は僕の置かれたこの場所で最善を尽くさなければならない。

 目的が明確になり、僕は迷いを振り切って貪欲に勉学に打ち込むようになった。

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