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プロトタイプ  作者: アラ
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 翌日。小鳥の囀りに起こされた一雷精は伸びをしながら半目の瞳をごしごしと擦りながら起き上がる。窓を見てみると明るい陽光が差し、部屋を照らしていた。


「おはようございます」


 声の降りかかってきた方向に首を向ける。既に起きていたフィアルが両手に沢山の料理を抱えていた。


「おはよう……これも君が作ったの?」


 自慢げに首を縦に振っていた。昨夜は魚介類中心の献立だったが、今回はパンのようなs食べ物と野菜類が多い。今朝はさっぱりとしたものを取りたいという心境はこの世界でも同じのようだ。


「食べ物の調理だけでなく宿の掃除までやらされてしまいました。あはは」


 それって……ただ働きじゃないかと言いそうになるのをグッとこらえる。折角面倒を見てくれている相手にそんな失言を放つのは流石に失礼だ。

 人当たりの良く、温厚な印象を受ける彼女だが一雷精の遠慮のない言葉を聞けば流石に怒号するだろう。今までそのストレートな言葉で数々の人間を怒らせてきたのだ。自省しなくては。


「そうか。大変だったね」


 ゆっくりと身を起き上がらせる。体は昨日の疲労が嘘だったかのように軽やかだ。なんでもできるきがした。


「そうですね。大変でしたけど、良い情報が手に入りましたよ」


 空に浮かぶ太陽にも劣らない明るい笑みを一雷精に向けると、フィアルは机上に品物を並べ始めた。流石に見てるだけでは心地が悪かったので手おうと試みたが、その度にフィアルに精されてしまう。


「ここは私がやりますので。どうぞ、精様はお座りになってください」


「う、うん」


 大人しく鎮座をする。出来立てほやほやの料理は非常に合成で、昨夜夕食を抜いたせいか、眺めているだけで食欲がわいてくる。


 あとは食べ方の習慣の差異を危惧していたが、運のいいことに、エリアリーでも食事はお箸を使って食べるらしい。目の前に木製の二つの棒が置かれている。


「じゃあ、食べようか・いただきます」


 手を合わせて一雷精は母国のお決まりの言葉を呟くと、手近の料理にかぶりついた。口内に広がる未体験の味は絶品の一言に尽きた。食生活の面も問題なさそうだ。


「ありがとうフィアル。素晴らし――」


 正面で礼儀よく正座をしているフィアルに視線を向けると、思わず行動を目にした。


「この運命を授かり、己で高めて魔法へと昇華する。損日々に鍛練を希望し、我らは幾百年の時を消化、そして大地に恵み、天空の産物、それ以外に散らばる数々の生き物に感謝して生きる意味を見出すことへのレールを引き……」


 両手を合わせながら、フィアルはぶつぶつと訳の分からないことを口走っていた。


 え? これがエリアリーでいういただきますなの?


「あの、フィア――」


「その閉ざされた道標も我らは迷わず信じて突き進むことができるはずだ。空を愛し、食物に愛を捧げる。それこそが胃に声明を運び、自らの糧にするという意味であるのだ」


「え……まだ続くの」


「慈愛に溢れしものよ、生命の偉大さをしれ、残された食物よ、糧になる喜びを見いだせ、さもなければ次へとつなげるきっかけがなくなる。大天使の言い伝えを守れる者よ、今日も日々に喜びを見出すのだ」


「……」


 ご飯、冷めるよねこれ。


「両手を合わせて食すのだ」


 最後に言い終えると、フィアルは何事もなかったかのように料理を皿に乗せる。


「あの、さっきの呪文みたいのはなんなの?」


 もぐもぐと可愛らしくパンらしき物体を飲み込むと、フィアルは答えた。


「ご飯を食べる時に言う決まりの言葉ですよ。大天使様に感謝を込めた言葉です。この世界の人間はみんなやっていると父上が言っていらしたので、私も欠かさずやっております」


「そうなんだ……へえ」


 大変だなあとか、一度かむとやり直しになるのかななどといった口外にするほどでもない感想しか思い浮かべなかった。自分の語彙能力に悪態をつきつつ、一雷精は橋を進める。



「おー。広いな!」


 見渡す限り人で溢れている街を見渡しながら、一雷精は歓喜の声を上げた。

 東の地方随一の面積を誇る大都会、【都央の国】

 一雷精がこの世界へ転移してきた【始まりの国】の隣国にあたるこの国の特徴は、何といっても人員の数と、質のいい武器や食料だという。


 フィアルによれば、この世界にはギルドという折檻所で冒険者という職業についている者も多々いるため、世界中の猛者たちがより値打ちのいい武器を求めて【都央の国】へ訪れるらしい。


 ギルドだなんて漫画でしか知らなかった一雷精にとってはこれ以上ない魅力のある職ぎぃうだったが、他の人間よりも群を抜いて高位の運階級フェイト・ランクを誇る英雄人と革命人だけはバランス崩壊という障害を防ぐために入団禁止となっているらしい。


 両雄の血を引くものは主にギルドをまとめた役員や、発展途上の国のおさとなって政治に明け暮れたりしているようだ。中には全世界湯数の犯罪者を収益する監獄の獄長を務めている英雄人もいるらしい。

 誰もがその運命に会った重役についている。


 二つの種族は破格の運命なだけあって規定となっている人生も壮絶なものとなっているらしい。中でも、英雄人に至っては最後は必ず民を守る盾となって戦争で死ぬのが宿命らしい。

 まあ、願いを叶えれば直ぐこの世界を脱出する予定である一雷精にとっては関係のないことだ。


「で、どうしてこの国に七人の守護者ガーディアンズセブンがいると踏んだの?」


 すれ違う人々に視線を巡らしながら、一雷精は問うた。

 二人の目的はギルド入団でもなく、貴重な武器を手に入れることで見なければ観光でもない。

 予言に記された通り、七人の守護者ガーディアン・セブンに会い、もう一人の八人目と決闘をすることだ。


 いったい彼女はどういう根拠があってこの場に七人の守護者がいると推測したのだろう。


「女将さんからの情報では、つい最近七人の守護者の中の一人が、今まで使っていた防具を壊してしまい、新しい防具を探していたらしいです。そして、今日は名のある武器職人さんが作った新作の防具が市場に流れる日です。可能性としては低くありません」


「成る程ね。良い物を買おうと今日を狙ってここへ訪れたかもしれないということか。でも、この人だかりだ。特定なんてできるの?」


 改めてみても莫大な人数だ。この中で一人を発見するだなんて不可能に近い。砂漠の中に紛れている金貨を探すくらい途方もない労力がかかるだろう。

 いいや、金貨という存在を認知している者なら時間はかかるろうし、確率は低いだろうがそれでも奇跡が起こればなんとかなるだろう。


 しかし、七人の守護者の(ガーディアンズセブン)を探すとなと話は別だ。一雷精は彼らのことを何も知らない。七人の顔も声も服装も一切既存の情報がないのだ。

 例えフィアルが知っていたとしても、彼女一人でこの人数をさばけるかどうかはわからない。


「そうですね。お顔は写真でしか見たことがありません。知り合いであれば魔力を感知して見つけ出すこともできたのですが。でも、一つだけ方法があります」


 そう言うと、フィアルは人混みの奥の方に指をさした。


「あそこに防具店が集中しています。新作が売られるのは一時間後です。その間に防具店周辺で待機していれば、ひょっとしたら会えるかもしれません」


「待機って? まさかずっと立って見ているだけ? それってあまり意味ないんじゃないかな」


「じゃ、じゃあ何かいい策があるんですか?」


 うろたえながら策を求めてきたフィアルに対し、一雷精はニヤリといやらしい笑みを浮かべて答えた。


「あそこで周囲の人間の目を引くくらい暴れればいいんだよ」


「え!」


 驚きを超えて呆れかえっているフィアルに気にすることなく、一雷精は口を開く。


「勿論、人も店も傷付けないさ。ただ地面に電撃をぶつけるだけ。そしてパニックを起こさせるんだ」


「でもそれって、野次馬の方々が増えてさらに探しにくくなりませんか?」


 もっともな意見だった。しかいs、一雷精は顔色一つ変えない。その難所を打開するだけの作戦を、既にねってある。


「そこで七人の守護者ガーディアンズ・セブン出てこい! と言えばいい。何なら、俺は八人目だと言ってもいだろうね。予言魔道書を持っていないただの庶民は八人目の意味を知らないから、その台詞だけじゃ俺が地球人だということもバレないだろう」


「なるほど……随分と体の張るようなことをしますね」


 呆気にとられているフィアルを一瞥すると一雷精は再度防具点が並び立っている通りに視線を映した。


「あと一時間。その間に覚悟を決めておこう。あと、万一のことを考えて情報収集も行おうか」


 ギルドの冒険者たちが集う街で暴れるのだ。当然無傷ではすまないだろう。万一にうまくいって七人の守護者ガーディアンズ・セブンを誘き寄せられたとしても、彼に檄を飛ばされてしまうかもしれない。殴

 られるのも怒られるのも嫌いだが、嫌なことから逃げているだけでは到底予言を遂行などは出来ない。


「怖くはないのですか?」


 顔をこわばらせる一雷精を配慮しての言葉だった。気にかけてくれるフィアルに胸中で感謝しつつ、一雷精は硬い表情を綻ばせていった。


「怖いさ、でもこんなところで立ち止まるにはいかない」 


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