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プロトタイプ  作者: アラ
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 眼が覚めて最初に目にしたのは砕け散ったシャンデリアの残骸ではなく、金髪ツインテールの大きな胸元だった。先程まで幸せな気分で夢をみていただけに、いきなり残酷な現実を突き付けられて軽くショックを受けている。


「精様……ご無事でしたか」


 目線を胸より上の位置に向けると、フィアルが安堵の息をついて自分の名前を呼んでいた。安心しきったように微笑むと、一雷精の頭を優しく撫でる。


 起き上がり、周囲を見渡すと、見慣れた殺風景な部屋と、質素な布団と枕が置かれていた。ここがアグス家だと二秒足らずで認識する。


「無事でよかったです 精様!」


 両眼に涙を滲ませながらフィアルは一雷精に抱きついてきた。おいおいなんだこの展開? もしかしてこいつ……俺のことが……


「悪いなフィアル。俺には心に決めた女の子がいるんだ。多分、向こうも同じ気持ちだろう。わかってる。

 俺の男心と逞しい肉体に、異性が胸をドキドキさせていることなんてわかってるんだ……だけど」


「まあ酷いですわ。頭を強く打ったのですね。ついでに目も悪くしたようで。たくましい肉体なんてございません。女性の中でも非力な方でしょうに……」


「俺は元気だよ。離せこの野郎。誰が女性の中でも非力だ。一応、握力だけは九十あるんだぞ」


 一雷精の頭と目に触れているフィアルの手を握る。途端、小さな悲鳴が彼女から聞こえた。


「痛いじゃないですか。潰れたらどうするんですか」


 頬を仕返しとばかりに抓ってきた。互いに涙目になる。


「離せよ。全く、これからはラリアさんもフクレイもいないんだ。君がしっかりしてくれないと困るんだよ。足手まといになるなよ。この脳なしお色気要因」


 強引にフィアルの手を頬から離脱させる。また直ぐに反論が返ってくるのだろうなと思っていたが、フィアルは一雷精から視線をそらして気まずそうに自分の頬をポリポリと書いておる・


「え? なにそのリアクション。目をそらすなこっちを見るんだ。どうしてドアの方を見てるんだ? 誰もいないぞ こっちを見ろ聞こえなかったのかこっちだ すみません無視しないでください 精様号泣しちゃうよ? 弱い一面見せちゃうよ」


 声が掠れてきたところで、扉がキイっと開かれた。

 扉の向こうから出てきた二人の男女を見た瞬間、一雷精は驚愕の余り言葉を失った。


「お、おう。一雷精! 元気そうだな……あははは」


 逆立った金髪の少年がフィアル同様に視線をそらして一雷精に声をかけてきた。


「や、やあ一雷精。久しぶりだね……うん」


 大人びた風貌を醸し出す栗色の髪の少女も、気まずそうに声をかけてきた。

 一雷精の目の前にいたのは、地球に帰ったはずのラリアン・トンとフクレイ・エンダルだった。突然の出来事に脳が追い付かず、茫然と居心地が悪そうにしている二人を見ている。


「えっ恥ずかしい もう二度と会えないみたいなテンションだったじゃん良い最終回だったじゃん え? どうして帰れなかったの」


「実はな……魔力は十分たまったんだけどよ、肝心の帰る乗り物…つまり、ポケット宇宙船が故障しちまってな、俺とフクレイ含めて四人ほど地球に帰れなかったんだ」


「あらかじめ確認しとけばよかったじゃんか」


「できないよ。ラリアから聞いているだろ? 一回限りだって」


「ま、まあ。強制的にこの世界に居続ける必要はなくなったんだ。これからは金をためて宇宙船を買えばいい……五千万Eくらいするが……」


「高い……」


「ウルヅスも魔方陣に吸収されたし、あの忌わしい塔も撤去してもらったんだからいいどろう。意見落着じゃねーか」


「撤去? 宿泊の国のみんなにしてもらったの」


「いいや。警備部隊の奴だよ」


「警備隊の支部みたいなチームだな。大量の魔力の動き感じ取ってここへ来たらしい。まあ、宿泊の国はエリア最後の国だったから定期的に監視でもしてたんだろうな。俺とフクレイが最上階に着いた頃にはもうなんじゅうもの戦士がそこに集まってフィアルに最敬礼と、お前を死んだと勘違いして合掌してたぜ」


「警備隊は戦闘専門のだから塔などの破壊は本来お金を取るらしいんだが、エリアを襲った殺戮者を倒したことと、お前が割引券を持ってたせいもあった無料でやってくれたぜ」


「警備部隊の支部である隊のリーダーが『分岐の国』でお前に会って割引券を渡したらしいぜ。気絶したお前を睨んで『人を年寄り扱いしてたくせにたった一回の戦闘で力尽きるなんて情けないわね』とか言ってたぞ……また何かやらかしたのか?」


「ああ あのインチキ魔法少女か」


「色々あったけど、これからも宜しくな。今回の件でお前はエリアを救った英雄人としてエリアリー中に広まり、羨望の眼差しを受けることになるだろう。だが、同時にその反則的な運命魔法を妬む者や、恐れる者にも存在を知られたんだ。命を狙われるのも覚悟した方がいい。命階級 ってほどじゃねーけど俺もフクレイもそこそこ戦えるし、必ずお前やフィアルの役に立ってみせる。だから、一緒に旅をさせてくれ」


「こちらこそお願いしたいくらですよ。精様と一緒ではいろいろと危険ですから……」


「ハッハーッ 君の方がよっぽど危険で役立たずなアッパラパーだよ 君なんかよりウェルの方がいいねウェルと旅した―い……あ そう言えば彼女に愛と笑顔とち、誓いのキスを貰うの忘れてた」


「さりげなくお付き合いから結婚にまでランクが上がっているんですが 一方的な誓いはストーカーと変わりませんよ」


「あの頬の染め方は確実に俺に惚れていたもんねー。絶対俺に好意を寄せているはずさ。勘違いじゃない。第一、彼女に嫌わることをしてない。フクレイ。ウェルがどこにいるか知ってるかい?」


「リビングで国のみんなと一緒にごちそうを作ってたよ。今日は平和を祝って国全体でお祭りをするんだって。もしウェルちゃんがリビングにいなくても、恐らくセルボスはいるだろうからその時はセルボスに訪ねるといい。主人である君の命令なら喜んでウェルちゃんを探すだろう」


「うひょおおお ウェルたあああんん」



「これは相変わらずのバカ顔ですね。元気そうでなによりです一雷精殿」



「セルボスか。騎士団からみんなを守ってくれてありがとうね。ところでウェルを知らないかい?」


「英雄人の命令を受けるのが私使命ですからお礼など要りませんよ。ウェルさんなら玄関にいた気がします」


「ありがとう」


「一雷精」


 沢山の食器を抱えていたウェルが一雷精を見るや否や叫び、とてとてと近づいてきた。


「や、やあウェル。重そうだね持つよ」


「あ、ありがとう」


 緊張で若干声を震わせながら紳士ぽく二段三段と重ねられている食器をウェルから渡してもらう。そのまま二人で外へと向かい、大きなテーブルに置く。大勢の人間が既にどんちゃん騒ぎを始めていた。


「ありがとう……これも全て、一雷精達のお陰よ……」


 通常通りのく表情だったが、声音が普段よりも明るく感じられた。


「そうじゃないよ。今までみんなが頑張ってきたから、今日という日があるんだよ。俺達は、ただ大がかりなことをしただけさ」


「優しいのね――あの」


 くるりと一雷精の方へと顔を向けた。上けさせている唇が、とても色っぽい。


「んな なにかにゃあ」


 自分の鼓動が速くなっていくのを身に感じていた。体中が震え、上手く言葉を話せない。


「笑顔と愛をちょうだいとか言っていたわよね……でも、それじゃ私の気がすまないの……」


 ウェルは深呼吸を二回ほどすると、目を閉じ、唇を一雷精に突き出してきた。怖いのか、小さく背伸びをしている足が小刻みに震えている。


「それよりも、もっと良いのをあなたに捧げるわ」


「な……」


「じゃあ、ありがたく……いただくよ」


「キャアア」


 ポヨンとなんとも柔らかい感触が一雷精の両手に伝わる。


「うおああ、違うこれは事故だ」


 ウェルは咄嗟に身をかばい、怯えるように一雷精を凝視していた。このままではマズイ嫌われると過去の脳内センサーが反応する。


 右頬に重い衝撃が走る。そのまま勢いは落ちることなく体は吹っ飛び、談笑ムードだったテーブルの輪に激突した。


 沈黙が訪れる。ラリアとフクレイは絶句し、セルボスは場k称しておりフィアルは呆れるようにこめかみを触っていた。


「最低 もう二度と話しかけないで 大嫌い」


 怒り狂った表情を見せてウェルは家へと戻ってしまった。バシンと乱暴に閉められた扉の音だけが響く。


「なんだ? いったい何が起きたんだ」


「精様……元気を出してください」


「フィアル――」


「ですが、私も精様を恋愛対象としてみることはできませんね。小動物的な可愛らしさを持っていて凄い魅力的だと思いますが……異性としては最悪の部類かと」


 心にグサリと突き刺さる。飴と刃だった。もう鞭だなんて生易しいものではない。とどめを刺している。


「私もそうだね。君は女性的な魅力はあるが、男としての魅力は皆無だ。でも、君があんなスケベな行為に走らなければウェルはきっと君を選んだだろうに……はあ」


「ちなみに、私は最初からあなたがモテないことなどわかっていました。あの時、ス、スカートを捲っておきながら謝罪もせずに乏しめた恨みは一生忘れません」


 苦笑を浮かべて肩をすくめるフクレイ。頬を赤くしながら自分に指をさすセルボス。


「何だ どうなっているんだこの展開 どうして俺だけバッドエンドみたいになってるんだ 君達の評価なんて聞いてない どいつもこいつもクソ野郎だ 誰か俺に愛をくれ。もう駄目だ一人くらいはさっきのラッキースケベは事故だと認めて慰めてくれ  四十歳の腹がでてるオッサンでもいいから俺に優しくして――」


 瞬間、凄まじい速度で一雷精の女装に頬を染めていたおっさんが近付き、頬を染めながら手を握ってきた。


「あの、俺でよかったら」


「ドンとタッチミイイイイイイイイイイイイイ」


 掴んできた手を力いっぱい振り落とす。人には簡単に認められないという自分の運命魔法の過酷さを再認識した……マジかよ


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