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光が終息し、空間に元の景色が戻る。
唯一異なっていたのは、激しいうなりを挙げながら黄金色の火花をまき散らしている槍が存在していたことだ。
「これが……俺の運命魔法か」
不規則に光らせる火花は爆音を響かせるとその量を増やし、瞬く間に空間を制圧する。
「そうです」
一泊の間を置き、フィアルは解説をした。
「属性は『雷』。雷のように気ままで、自由な生き方をするあなたに多くの人は恨めしく思い、誤解をするでしょう。しかし、弱者が困っていたら電光石火のごとくそこに現れ、を下す。まあ、簡単に言いますといくら人を助けようが嫌われ続け、よっぽどのことがない限り報われることのない運命ですね。神様的な目線で申しますと、どうしてお前生まれてきたの? とでもいいましょうか」
「……ええええ 生きてるだけで犯罪者みたいじゃないか。え? さっきまでの希望に溢れたテンションはどこに言ったんだよ」
「仕方ありません。神様も嫌々だったのでしょう。よくわかります」
「はは、君のそのアンバランスな体のパーツこそ適当に作られたに違いない。神様は福笑い感覚で君を作ったんだろうよアーハッハ」
想像していたよりも残酷な運命に少しだけ動揺してしまう。見た目の神々しさと実際お内容が噛み合わなさすぎだろ・
『文句はあとで仰ってください。今は……するべきことがありますでしょ?』
一雷精は冷静さを取り戻し、眼前で口をポカンと開けているウルヅスを見つめた。急に表れたと思ったら一瞬で周りに広がりを見せた火花に面食らっている。
「ふん……英雄人の運命魔法といっても所詮は一つしかない。記憶に追っていくつもの技を手にしてきた俺には、勝てねえよ」
半ば自分に言い聞かせるように放つと、無数の長槍を召喚させ、同時に放つ。
轟音を奏で、大気を震わせるその長槍の群れの威力は、ギリギリで回避した先程の長槍とはわけが違った。マシンガンのように荒々しく一雷精接近してくる。
爆発音を響かせ、塔全体が震えた。煙が舞い、威力十分な風が対象者だけではなく周囲までもを巻き込み、天井や壁が割れる。塔がバランスを崩し、傾いた。
「ふはは……ハーッハ八ハ これでは流石に防げんだろう。油断したな英雄人 やはり弱者はお前だったなああ……」
舞い散る硝煙の中で、一雷精だけが服に埃一つつけないで立ち尽くしていた。槍から放たれる電流で作られた円状の形をした盾に、その身を包んでいる。
「英雄人に詳しいといっても、知らないことがあるようだね……ウルヅス」
槍をウルヅスの腹部に向けると、呟いた。
「英雄人に運命階級B以下の運命魔法は一切通用しない」
電流を乗せた槍で腹部を突く。あれほどの強さを誇っていた鎧はあっけなく溶け、ウルヅスの体に電流を巡らせた。
「ぐわああああああ」
情けない悲鳴をあげて身悶える。そこには強さだの弱者だの叫んでいた殺戮者の表情はどこにも存在していなかった
「これが痛みだよ。君があの人達、いいや、他の三九もの国の人間を苦しめたことと同じなんだ」
円状の盾を解除し、ウルヅスを見下ろす。電流で作られた盾にくっついていた天井の破片は勢いよく床へと落下した
「調子にのんじゃねえええ」
狂ったように叫ぶと大急ぎで一雷精から離れ、青いかめらを掴む。とてもおぞましい笑みを見せながら一雷精にそのかめらを見せた。
「今から地震を起こしてやる。悔しいがお前には歯が立たない。しかし、地震は流石に止められんだろう! ここで見とけ、地震に苦しんで死ぬあの屑共を思い知らせてやる、貴様の無力さを」
「それはさせない」
言い終える前に残像だけをその場所へ残し、一雷精は小さめの火花を身に纏わせながらウルヅスの背後へと移動した。文字道理の、瞬間移動だった。
「ぐわああ」
電流付きの槍に右肩を貫かれ、ウルヅスは這いつくばる。痺れているのか、立ち上がることすら困難そうに見えた。
「瞬はんじょふだほお、なんうあそれふああ」
「瞬間移動だと、何だそれは とでも言いたいのか?」
唇が痺れて言いたいことを発せられないウルヅスの言葉を代弁し、その答えを言う。
「違うよ。雷らしく音速で移動し、お前の背後に回ったんだ。電光石火の如き速度で悪を倒しに行く。それが俺の運命だから」
『現段階では音速ですが、運命魔法を鍛えていけば光速で移動することもできます』
フィアルの忠告に驚きつつ、醜くうづくまっているウルヅスに放電している槍を向けた。
「ぐ、ぐぐう」
覚束ない足に鞭打って、ウルヅスはどうにか起き上がる。屈辱そうに一雷精を睨むと、落とした青のカメラを掴んでい叫んだ。
「お前が変わろうが、他の奴らが急に強くなったわけじゃねえ! あの屑共が俺の有幻覚を倒さない限り、国が救われることはねえんだ 見てみろこのカメラの中を 」
荒々しい形相で液晶の画面をドンドンとつつく。
しかし、カメラに写っていた映像は、ウルヅスの期待を大きく裏切るものだった。
騎士団達に捕まっていたセルボスとウェル達がその拘束から解放され、敵の軍を制圧していた。よく見たらアグスの家にいなかった国の人間が多く集まっており、長い棒や、食材を切り刻むために必要な包丁など
を持って騎士と戦っている。彼等はウルヅスの作った規則など無視し、彼ら自身の考えで危機に陥っていた仲間を救おうと戦場へと向かったのだ。
それだけではない。あれだけ劣勢だったラリアとフクレイもいつの間にか城へと侵入し、最上階であるこちらに向かっている。傷は相当深そうだが、階段を二段飛ばしで上っているのだから大丈夫なのだろう。
「な……嘘だ あいつらにそんな力があるわけない」
絶望の色を浮かべ、頭を抱える。その隙を逃さない。一雷精は穂先から大量の電気を流し、がら空きのウルヅスに渾身の突きを入れる。
「ぐわああああ」
巨体な体は吹っ飛んでいき、シャンデリアに激突する。派手な音を鳴らしてガラスが飛散し、ウルヅスの頭部に殺到した。
「負けを認めるんだ。君にはもうなんも残っちゃいない。あるのは余分に知識が詰まった脳みそと、この砕け散ったシャンデリアだけだよ……そして、それすらもお前は失う」
槍を腹部の辺りまで下ろし、思いきり引き絞る。大量の魔力を槍に注ぎ、辺りに激しいスパークを撒き散らした。
「これで終わらせる」
「……は、ははは」
ウルヅスは壊れたように笑みを漏らすと、両足を震わせる。初めて圧倒的な力を持つ相手に出会った恐怖を抱いているのだろうか
「情けねえぞ」
二本の小刀を手元に出現させ、震わせている両足に突き刺した。血が一気に零れる
「命乞いなんて考えねえ、怖さで震えたりもしねえ そんなことをするやつは俺が散々見下してきた弱者のすることだ。相手が強ければ勝つだけだ。死んでもそんなみっともない死にざまはしねえぞおお」
手元から長い太刀を出現させた。これがウルヅスの所持している切り札なのだろうか。彼は不敵に笑っていた。
「行くぞおおおお! 英雄人」
黒光りした太刀を豪快に振り上げ、
「これで終わりだ殺戮者」