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プロトタイプ  作者: アラ
12/35

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「踏み出したことのない未来というより、まずこんな未来に誰も踏み出そうとしないよね」


 漆黒に染められた黒い木々と大地を交互に眺めながら、遥かに前にいるラリアへツッコミを

 入れるが、返事はかえってこず、代わりに木々を掻き分ける葉擦れの音が森をざわつかせた。


「……はは」


 ため息をはき、しぶしぶラリアについていった。

 およそ二十分前、ラリアが国へいくまえにまず会いたいやつがいると一雷精とフィアルに告

 げてきた。断る理由がなかった二人は快諾し、その間に蓄積された疲れを一掃するべく睡眠に甘んじていた。


 それからしばらく経ち、二人はラリアに起こされ、脳内に残る眠気の残滓を振り払いながら眼を開けると。そこには先程までの仄かな陽射しや、陽気な小鳥の音など絶無で、完全なる闇が広がっていた。不気味な雰囲気が漂う黒一色で染められた木々と大地。その歪すぎる風景に一雷精とフィアルは眠気など一瞬で消え去った。


 いまいち状況が掴みとれていない二人にラリアはついてこいとだけ言い残すと、そそくさと闇の中へと消えていく。一雷精とフィアルは仕方なく遠退いていく金髪少年の背中を追い、今に至ると言うわけだ。


「ラリアさんが会いたい人ってどんな人なんだろうか。まあ、こんな所に住んでいる時点でろ

 くな奴じゃないだろうけど」


 肩を竦め小言を漏らす。話し相手であるフィアルは表情を強張らせ曖昧な返事をしてきた。


「プラス思考にいきましょうよ! ほら、例えば森の妖精さんのように美しいですとか」

「何だその森ガール。なおさらろくな奴じゃないね。私は可愛いのにこんなところが好きなの

 よー。みたいなのが見え見えだ。それだったらまだお歯黒で口が裂けていて出刃包丁を持って

 いる和服幽霊の方がいい。どんなにホラーな人間でもオーケーさ。恋はいつだってスリリング

 な方がいいからねー。あれーおかしいな。オーケーなはずなのに足が震えてきちゃった」


「精様もその幽霊の顔も見たくないので私は隠れます」


 フィアルは逃げるように槍へと変身し、一雷精の右手に納まる


「おい! 一人にするなよこの卑怯者。今すぐ何か言わないとお前をここに捨てるぞ? お

 い無視するな聞こえてるんでしょ?……お願い無視しないでください」


 先の見えない暗闇、森を駆ける奇妙な風音。一人になって初めてわかる恐怖に一雷精は泣

 きそうになった


「おーい、こっちだぞー」


 森林の向こうから微かに声が聞こえてきた。一雷精は大きく返事をし、急いで木々

 の間を縫っていく。


「お歯黒浴衣森ガールでも我慢ならない。出刃包丁奪って自慢の木々を伐採してやる……お

 おう。くぅーーーー」


 歩くたびに聴覚を撫でる不気味な物陰に、危うく失禁しそうになっていた。我慢するよう

 に下半身を抑え、内股でラリアの所まで辿り着く。


「なんだその歩き方は……。これから会う奴が見たらなんていうか」


「……はは」


 互いに苦笑を浮かべて視線を目の前の建物にうつす。 小さな木製の建物だった。所々苔が

 ついていることから、相当の年期が入っていると推測できる。


「おーい。留守とかじゃねーだろうな」


 ラリアは二回ドアに拳を打ち付ける。どんなにホラーな容姿でも受け入れるとフィアルに威勢良く言ってみせたが、いざ対面となると足が竦んしまう。

 キィ とドアが開かれる音。影で隠れたその人物を一雷精は慄然としながら見詰めていた。


「おやおや、ラリアじゃないか。君がこんなところに来るなんて意外だな」


 予想は大きく裏切られ、扉から出てきたのは普通の女性だった。安堵の息をこっそりと吐く。  

 綿雲のようにふわふわとしている桜色の髪に、大人びた印象を思わせる細い目。体はスラッとして、そのせいか着ている茶色のセーターがやけに大きく見える。


「相変わらずの様子で安心したぜ。フクレイ・エンダル。三年前の戦争の時もこんな感じだっ

 たよな」


 ラリアは懐かしむ表情で、博識じみた口調の女性の肩をポンと叩いた。三年前の戦争を会話

 に出しているということは、彼女も自分とラリアと同じで地球からエリアリーに来た人なのだ

 ろうか。


「うむ。どんなときでも平然が私のモットーだからね……おや?」


 視線が一雷精に向けられる。身長の問題で見下ろされる形になった一雷精は沈黙を貫いている。ここでまたいらぬことを言ってしまっては、交流を深めているラリアに申し訳がないからだ。


 しかし、一雷精の配慮を打ち砕く言葉が、フクレイの口から放たれた。


「可愛い女の子だね。ラリアはそんな子がタイプなのかい?」

「俺は男だ」


 反射的に大声で叫ぶ。その叫びが反響し、こだまする。沈黙が訪れる。


「え……ん? え! 男!」


 眼を瞬かせ、首を傾げ、口元に両手を起き、そして驚愕。これらの動作を一瞬で行ったフクレイはラリアを凝視した。


「君にそんな趣味があったなんて」


 意味を捉えられなかったラリアだが、直ぐにフクレイのいわんとしていることを把握する。


「は? ちげえよ! こいつはさっきしり合――」


 言葉を待たずにフクレイは気まずそうに右頬をかき、ラリアから顔をそらした。


「いや、否定しなくてもいいのさ……まあ少し悲しいね。数少ない友が、まさか」


「違う! お前からも言ってやってくれ」


 懇願してきたラリアに一雷精は頷き、誤解を解くために正直に事を話した。


「強引にラリアさんが誘って来たんです」


 その言葉が最後の追い打ちだったらしく、フクレイは息をのみながら変わってしまった旧友から離れていく。


「おい……」


 余計誤解されてんじゃねーか! 

 ラリアの叫び声が島全体に響いた。フィアルのため息が聞こえたのは気のせいだろうか。


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