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女傭兵は殺し足りない  作者: 綾瀬冬花
女傭兵のお小遣い稼ぎ
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10.旅の終わりと次の旅(4)

今のところ恋愛未満な感じの男女の傭兵が少しずつ関係性を深めていく連載物です。

「海だ!」


 ここのところ山沿いを進む日々が続いていた。久しぶりに大きな港町に寄れそうで、少しばかり心が浮き立った。港町は良い。珍しいものがあるし、食べ物も美味しいし。他人が身近にいるのは好きではないが、一方で賑やかな雰囲気は好きなので、大きな街というのはルキシスにとって楽しい場所だった。


「食料を仕入れたら先に進まない?」


 だがギルウィルドはさほど関心もないらしい。


「一泊していかないか? 馬たちもちゃんとした馬房で休ませたいし」


 今街を出れば次の街に着くより先に夜になる。そうなれば当然、野宿だ。ここ数日野宿が続いていたから、できれば屋根と壁のあるところで一夜を過ごしたかった。

 悠長にしていれば金がかかるだけなので無駄にゆっくりする必要はないが、かと言って極度に急ぐ旅でもない。結局、ギルウィルドもまあいいけどと言って頷いてくれた。


 今晩はゆっくりと過ごせそうだ。美味しい食事にもありつけそうだし。

 上手いこと手頃な宿も取ることができた。ルキシスは個室だ。いつぞやの一件以来、男女混合の大部屋に泊まろうとするとギルウィルドの横槍が入るようになったのだ。おかげで個室か女性専用の部屋にばかり押し込められている。余計な金がかかるので不服だったが、文句を言うと「じゃあ野宿しよう」と始まって面倒なので、結局ルキシスが折れているのである。


 まだ日は高かった。宿に馬たちを預けて、ふたりは旅に必要な物資を調達に出かけた。

 街中はひとで溢れ返り、ごった返していた。そんな中を食料や飲料、多少の嗜好品、日用品などを見繕って回る。さすがに港町だけあってひとだけでなく物品にも溢れていて、人込みには辟易しつつも見ているだけでそれなりに楽しかった。


「ちょっと気が変わったんだけど、少し滞在してもいいかな」


 ギルウィルドがそう言って足を止めたのは、工房を併設している武器屋の前でのことだった。


「ああー、そうだな」


 それで、ルキシスも気が付いた。武具や防具を手入れに出したいのだ。どれくらいの日数を要するかは工房の混み具合にもよるだろうが、いずれにせよ数日は見ておいた方がよい。

 この男はまめなたちなので暇さえあれば武具の手入ればかりしているが、専門の職人の手入れはまた別だ。どうしても定期的に必要にはなる。

 ついでに自分も手入れに出してしまおう。まとめて頼めば少し値引きしてくれるかもしれない。

 そういうわけでいくつかの武器や防具を持ち込んで手入れを依頼した。ルキシスの目論見どおり少し値引きもしてもらえた。ただ、思ったよりも時間はかかりそうだ。その分滞在費用がかかる。


(――よし)


 小遣いを稼ごう。そうと決めた。

 それでルキシスは、ある建物の前で足を止めた。ギルウィルドが数歩先に進んだところで振り返る。


「どうしたの?」

「わたしはちょっとここに用が。おまえ、先に宿に戻っていてくれ。夜までには戻る」


 たぶん。


「ここにって――」


 ギルウィルドが顔をしかめた。そこは酒場だった。ただ、赤ら顔の男たちがだみ声で何やらがなりながらたむろしているような安酒場である。明らかに、神官様のお気に召す酒場ではない。だがこういう酒場では絶対に賭博をやっているはずだ。つまり博打で小遣いを稼ごうというわけである。


「お酒を飲みたいなら宿の部屋で飲んだら?」

「色々飲みたいし」


 ギルウィルドは明らかに反対という顔をしている。しまった。適当に撒いてからひとりで来ればよかった。博打を打つつもりだなどとばれたらぶん殴られそうである。


「どうしてもって言うなら付き合うけど」

「えっ」


 それは想定していなかった。下戸のくせに酒場に何の用があるのか。もちろん、この男は賭博もやらない。いや、知らないが。たぶんそうだろう。


「なに、今の『えっ』って」

「いや、何でも……。先に帰ってろよ。馬たちも待ってる」

「馬たちの世話はちゃんとお金払って頼んであるだろ」


 周囲を行き交うひとびとが奇異の目でふたりを見ていた。人通りは多く、賑やかな通りである。明らかな異国人の男女が安酒場の前で何を揉めているのかとでも思われているのだろう。


「――きみ」


 ギルウィルドの目が不穏に細められた。そうしていると、妙に迫力があった。作り物のように秀麗な造作だけに、どこか現実離れした雰囲気が漂うからか。


「良からぬことを考えてるだろう」

「よ、良からぬことって何」

「帰るぞ」


 何故ばれたのだろう。ギルウィルドがルキシスの腕を掴んで引っ張った。


「あっ、いや、ちょっと待てって」


 必死に地面に踏ん張ってルキシスは抵抗した。それでもずるずると引きずられそうになる。単純な膂力ではやはり分が悪い。殺せと言われれば殺せると思うが、何と言っても力比べは。


「ちょっとだけだって! 元手の倍くらい増やせたらそこで止めるから!」

「やっぱり博打やろうとしてたのかよ」


 そこまでばれていた。


「少しだってば! あ、何なら見ててもいいぞ。相手の手札を見て合図してくれるならなおさら――」

「いかさまじゃねえか」


 徐々に酒場の前から引きはがされていく。いや、ちょっと待ってほしい。ちょっとやりたいだけだ。何と言ってもここ最近、博打はとんとご無沙汰だった。いつぞやヴェーヌ伯の戦争に参加した後はちょっとしたいざこざに巻き込まれて、更にその後は白蹄団で無償奉仕の日々だった。つまりその間ずっと、賭博で遊んでいない!


「諦めろ。どうせ負ける。やらない方がまし」

「負けない!」

「何故そう言える」

「勝つまでやれば負けない。自明の理だ」

「馬鹿じゃねえの」


 ルキシスは精一杯踵に力を込めた。しかし空しくも石畳の上を引きずられていく。


「――リリ!」


 しぶとく抵抗するルキシスに業を煮やしたらしく、ギルウィルドが幾分声を荒らげた。

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