8.生涯の罪
今のところ恋愛未満な感じの男女の傭兵が少しずつ関係性を深めていく連載物です。
何の話をするつもりか。
思いがけない言葉だった。急に太陽の光が激烈さを増した気がした。もちろんそれは錯覚だ。でも、光のもとに生まれる影がもっと濃く強く力を増して、彼の表情が読み取れなくなった。
「生きる価値のない男だった。あんな奴、生まれてきたことが間違いだった。もう一度殺せるものなら今度はもっと苦しめて苦しめて苦しめてから殺す。その考えは今も変わらない」
以前にもその話を聞いたことがあった。失念していた、というわけではない。でも結び付いていなかった。今、この時に。
「おれの故郷は田舎で保守的で、父親と後継ぎの長男だけが偉くてあとはゴミみたいな扱いだったよ」
フラヴィオと同じ十五歳。人生で一番か二番目に最悪な年だと言っていた。騎士団を辞めて出家したと。
騎士団の見習いが、父親を手にかけたのか。そう、それで出家したのか。
「もっと早く殺すべきだった。おれに勇気があれば。もっと賢くて、周りのことがよく分かっていれば。そう思う。殺すしかなかった。殺したことを後悔しているかと言えば、もっと早く殺さなかったことを後悔している」
だけど、嘆息交じりに彼は続ける。
汗が粒となってルキシスの背筋を滑り落ちた。
「どうであれ、父親殺しの罪は消えない」
彼はまだまっすぐにルキシスを見つめていた。
「おれが一生背負っていくものだ。十五の時から」
――振り捨てたいと思っても、どうしてもできない。
自らの心臓を無理矢理締め上げてでもいるかのような声だった。
それは本当に罪なのだろうか。
ルキシスには不思議だった。
自分を害する者を排除することは。
だが、彼は一生の罪だと言う。
「……悪かった」
ギルウィルドが父親を自ら殺めたという話を聞いていたのにフラヴィオに同じことを勧めた。彼の目の前で。ソヴィーノ語に不案内なので言葉そのものは通じていなかったにせよ、話の内容自体は理解していたはずだ。
ギルウィルドとしては思うところがあったのだろう。過去の自分自身を見るような心地でさえあったかもしれない。
――知っていたのに。
――結び付いていなかった。
――少年時代のギルウィルドを虐げる父を、彼が自らの手で討ったという過去と。
――今この時、十五歳の少年に、息子の命を奪おうとする妻へ加担する父を討てと勧めることと。
「おれに謝る必要はない。怒ってるわけでもないよ。きみの言うことは正論でもあるし、そういう決断をする人間がいるのは理解できる。それが悪いとも思ってないしね」
彼自身、その決断をしたのだからそれは事実だろう。その上で、一生の罪を背負ったと述べている。
両方が本心なのだ。本心に従って生きて、それゆえに苦しみを背負い込んだ。
口の中がからからに乾いていた。
「ただ、リリ、知らないかもしれないけど、経典には――、子による父親殺しは大罪だとはっきり記されている」
たぶん、今この時、はじめて、この男に対して心苦しさを抱いた。
もちろん、そんなつもりではなかった。本当にそうする方がよいと思って、フラヴィオに勧めたのだ。だが、これでは――。
「そうすべきと彼が本当に思ってそうするなら止めない。でも彼は、きみにずいぶんと心を開いて……どうかすると心酔しているみたいでもあった。だから父親や家族を討つっていうのがどういうことか、よく考えてほしかった」
「うん」
「もちろん彼はおれとは違う人間だから、おれと同じように感じるかどうかは分からない。ただ後になって、消えない罪に苦しんでほしくないとは思った」
「うん」
「ま、結果としては、ヨルクには悪いけど別の仕事を探してもらうさ」
「うん」
「じゃ、話は終わりだ。書類ができるまで少し時間がかかるだろうから、荷物まとめたりしてさ、やることやって待ってよう」
謝る必要はない。怒っているわけでもない。ギルウィルドがそう言うのは、実際、本当にそう思っているのだろう。
ただ、紛れもなく――彼を傷つけた。言い方を変えれば、古傷を抉った。
傷ついたのは自分自身の問題だと思っているから、ギルウィルドがルキシスを責めることはない。それも分かるからなおさら心苦しさを覚える。
別にこの小賢しい若造個人のことはどうでもよいが、かといってこうした愚かしさから自分以外の誰かをいたずらに傷つけたいとも思っていない。
後味の悪いことになった。
苛烈な太陽がじりじりと脳天を灼いた。




