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女傭兵は殺し足りない  作者: 綾瀬冬花
女傭兵のお小遣い稼ぎ
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6.そんなこともできないの?(4)

今のところ恋愛未満な感じの男女の傭兵が少しずつ関係性を深めていく連載物です。

「ヨルクたちは予定通り市壁門を?」


 ああ、と赤毛で長身の男が頷いた。その方がこちらも都合がよかった。なるべく門の辺りに敵方の注意を集めて、断崖側の警戒を手薄にさせたい。


「なら競争だ」


 どちらが先に門を開けさせるか。

 ルキシスはギルウィルドに向かって口端を吊り上げた。


「稼がせてやる」


 自信があった。この男が足を引っ張らなければだが。

 下見は概ね終わりだった。その間も何度か大甕が運ばれてきて、市囲壁の上から海水がぶちまけられていた。

 馬を並べて帰路を辿る。


「きみ、剣はどうするつもりだ」

「おまえから借りた短剣がある」

「あれよりはもう少し剣身のあるのが必要だろ。おれも少し武器は考えないと」


 途中、そういう会話をした。

 確かに彼のいつもの得物は狭い歩廊や塔の中では使い勝手が悪いだろう。あれはやはり、広い場所か馬上で使うものだ。それに、あんなものを担いで泳ぐのは熟練者であってもなかなか困難である。


 ルキシスの方も、本音を言えば短剣一本というのはさすがに心許なかった。ギルウィルドは他に剣の類はいくらでも持っているだろうが、あまり借りを作るのも嫌なので東の広場に中古品でも見に行こうかと思う。


 一行が、遠くに木立を臨む辺りに差し掛かった時のことだった。

 その木立の中から矢がばらばらと飛んできた。フラヴィオの馬が浮足立つ。ルキシスは自分の馬を宥める一方で慌てて手を伸ばし、彼の持つ手綱を強く引いた。


『引け! 強く!』


 距離があるから矢なんてどうせ大して当たりはしない。矢の数で押し切られれば話は別だが、散発的に飛んでは来るもののそこまでの物量ではない。それよりも馬が暴走する方がまずい。だが自分の馬を御しながら他の馬の手綱を取るのは傍から見ている以上に熟練の技術を要する。ルキシスもさすがに手間取った。元々専門の馬乗りではないのだ。こちらが落馬しては元も子もないので必死である。


 どうにかこうにか、フラヴィオの馬を鎮めることができた。ルキシスの馬も怯えて落ち着かないそぶりを見せてはいるが、何とか大人しくしてくれている。少なくとも背中の人間を振り落とそうとはしていない。もしかしたら戦場のような場所に来るのは初めてなのかもしれない。だが怖いのに我慢してくれているのだから健気な良い馬だ。


 その間にヨルクたちが矢の間を縫って木立に向かって馬を駆っていった。一方、ルキシスとフラヴィオ以外にその場に残った者もいた。


「……おまえは行かないのか?」

「木立に騎馬は大勢入れないし」


 つくづく契約外のことはひとつもしない男である。だがエルミューダの頭を少し、フラヴィオの馬に近づけさせてくれた。馬の個性にもよるが、そういうふうにされると落ち着きを取り戻す馬は少なくない。

 フラヴィオも、顔面こそ青白いが恐慌を来しているといった風情ではなかった。多少顔を強張らせているが、泣き出しそうな情けないところはなかった。


 すでに矢は飛んでこなくなっていた。射手の姿は木立に隠されてここからは視認できない。しばらくしてヨルクたちが戻ってきた。から手である。無理もないが。


「相手の姿は確認できたか?」

「兵隊くずれだろうな。姿をローブで隠していた。三、四人くらいいたが、さすがに逃げられた」


 中途半端だ。暗殺者にしても兵士にしても。だからこんな程度の仕事しか受けられないし、こんな程度の成果しか残せない。素人が手配できる刺客なんて所詮はこんな程度、ということでもあるのだろう。


(本職には敵わないだろう)


 兵力があれば、その気があれば、いつでも沈黙させられる。必要なのは決断だけだ。


「あれはどういうことなんだ?」


 ヨルクは厳しい目付きをしていた。


「あれもどうにかしないとな」


 素知らぬ顔でルキシスはそれだけを言った。


「ルキシスさん」


 ヨルクはいくらかの警戒心を滲ませてこちらの名前を呼ぶ。

 詳しくはお友達のギルウィルドに訊けばよい。それで、条件が違うから契約金の上乗せを要求するとか言ってくるようなら、その通訳は務めてやる。


「ヨルク」


 ルキシスは正面から、若い赤毛の傭兵団長を見据えた。


「もしかしたらおまえたちにももっと稼がせてやれるかも」

「どういうことだ」

「この戦争が終わった後の話だ。それまでは門攻めに集中することをお勧めする」


 助けを求めるように、ヨルクは旧友を振り返った。振り返られた方は薄情にも、とばっちりを食うのを恐れてか、軽く肩をすくめただけだった。

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