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やる気のない魔法学園  作者: 融解透
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魔導実習(3)

セレスティア・イオレット。

俺が勧誘するようにユリアーネに脅さ……失敬、依頼された女子生徒の名前だ。

「(魔法属性は水、精霊の使役に長けた教会騎士見習い。現在は教会所有の聖域に暮らしており、実家のイオレット侯爵家からは勘当に近い扱いを……って、この情報どっから持ってきたんだよあいつ……)」

そうやってユリアーネに対して若干引きながら情報のすり合わせをしていると、唐突にさわりと周囲が陰った気配がした。

ここか、とこの間ずっと歩いていた俺が足を止めると、『そこ』は俺の訪れを歓迎するかのようにざあっと強い風を吹かせていた。


「…………精霊の森」

___そこは、昼間だと言うのに薄闇が立ち込める森だった。

時折ぽうっと光が淡く灯り、明滅するその様は同じ学園内とは思えないほど幻想的だ。


名前の通り、ここは精霊の住処だ。実習で使う魔物がいる「リーノックの森」とは違い、純粋な精霊のみがいる森。一応学習フィールド扱いとして学園内にあるのだが、アクセスが地味に悪いのと特に何もないのとであまり来る人はいない。

「(けど、事前情報だとここにイオレットさんはいる……んだよな?)」

人の気配など欠片もない静かな森に若干の不安は募るも、かと言って他にアテもない。

まぁ入ってみないことにはわからないだろうと結論づけ、「お邪魔しまーす……」と一応声をかけてから木々の中へと踏み入った。

中は、ひんやりとした空気が漂っていてとても静かだ。がしかし、何やら木陰や茂みの中からこちらを伺うような視線を感じて、いまいち落ち着かない。

「(これが精霊かな……)」

そう考えながら辺りを見渡していると、少し先に開けた場所があるのを見つける。

目印もないのでとりあえずそこを目指すことにして歩くと、何やら周囲の小さな気配がざわつくような気配を帯び出した。

……嫌な予感がするけれども、ここで逃げ帰ったところでユリアーネに文句を言われるだけだ。

森とは言っても小さいもので、開けたそこまでにはほんの十数歩で辿り着く。開けたそこにあと一歩踏み込めば入れるというそこで俺は足を止めると、一旦そこを観察することにした。

木々の合間を縫った木漏れ日が差し込むそこは、薄暗い精霊の森の中では珍しく、明るさがある。よく見ると中心には湧き水が出ており、ほんの小さな泉を形成していた。まるで水たまりのようなそれは、しかし少しも揺らぐことない水面を鏡のようにたたえている。

「おお………」

綺麗だな、と純粋に思う。見る限り危ないこともなさそうだし、どうせならもう少し近くで見てもいいような気がさた。

だから俺は、警戒心を捨てて一歩踏み出したのだ。


少し考えればわかる筈だった。

俺が呑気に景色を観察している間、先ほどまで騒いでいた精霊たちは沈黙を貫いていたこと。精霊を使役できるという彼女にとって、俺がこの森に来たことはすぐにわかったであろうこと。

…………わざわざこんなところに来ないと会えない彼女が、唐突な訪問者をどう思うか、ということ。




「動くな」

ひたりと降りたその声は、決して大きな声ではなかった。

が、ぞっとするような寒気と圧を覚えるそれに俺は思わずびくりと動きを止め____ああこれは殺気だと一拍置いて思い至る。

自分でも気が付かないうちに、喉元にひんやりした感触があった。そろりと視線を向ければ、細身の剣が真横から俺の首に沿えられているのが見える。

襲撃、と呼ぶにはあまりにも静かなそれに俺が固まったままでいると、「それ」は……剣の主は、淡々と殺気を込めた言葉を続けた。

「あんたが誰かは知らない。興味もない。けれども……」

そこでその人物が言葉を切るのと、俺がその人物に目を向けたのは同時のことだった。


白い髪の少女だった。

堅い印象のある軍服めいたケープ。細身の脚には、少年めいた短い丈のズボン。どこか硬質な雰囲気は、整った中性的な顔立ちも相まってまるで刃物のように鋭い。

そして、無彩色の装いの中唯一身に纏った色彩。サファイアを彷彿とさせるような、深い深い青の瞳。

「(イオレットさんは、青い目に白い髪だって、ユリアーネが……)」

殺気で麻痺してどこか働かない頭でぼんやりとそんなことを思考する俺に対し、薄く薄く笑みを向けた彼女は、ぞっとするような微笑のまま口を開いた。



「家の……イオレット侯の手の者なら、無事に帰れるとは思うな」



俺は、とりあえずこれが誤解だということ、そしてこの剣を持った少女がイオレットさんらしいということを理解した。

逆に言えばそれだけしか理解していなかった。






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