魔導実習(2)
「ううん、セドリックの魔法は植物かぁ……私の鉱石魔法は溶媒としての利用とか防御がせいぜいだから、あとメンバーを決めるなら戦闘系の魔法が使える子がいいなぁ……」
ノートを前にリスタリアさん……もとい、ユリアーネが唸る。
「いやでも、純粋な討伐じゃなくて上手いこと罠作ったりとか…‥うーん、やっぱ厳しそうかな?」
そう呟いた彼女が首を傾げるのに合わせて、さらりと髪が流れた。
時折、長い三つ編みにされた亜麻色の髪がふわりと揺れる。
菫色の瞳がじっとノートを見つめ、たまに考え込むように少し細められていた。
白い肌に淡く浮かぶその色彩は、繊細で儚げな彼女の容貌も相まって、はっとするような心地すらする。
「(こうして見ると美人だな)」
そう思いながら、芸術品を見る感覚でのんびりとユリアーネを見ていると、視線に気がついたのか彼女が俺の方へと顔を向けた。
「ちょっと、ぼーっとしてないでセドリックも考えてよ。今んところセドリックの役割囮くらいしか候補がないんだし」
「…………え、マジ?」
「マジ。何も口出さないなら囮にするよ」
「は、ちょ、ユリアーネ?!」
元より友人のいない俺にとって、ユリアーネの言葉は正直とてもありがたかった。
いや、正直警戒はしている。が、俺が警戒したところで俺は何もできないのだ。求められること的な意味でも対策的な意味でも。
だから俺は「ユリアーネでいいよ」という彼女の申し出をありがたく受け入れ、こうやって早速ペアとして会議をしているのだ。
ちなみに、ユリアーネの魔法属性は「鉱石」だ。
少し珍しいよね、と本人も笑っていたこの魔法は、地魔法の派生らしい。岩や土塊を操る地魔法とは少し異なり、特定の鉱物の錬成に長けた魔法だとか。俺はこの魔法を聞いたことがないのだが、溶媒とか言うからには、ダイヤモンドとか作れるのだろうか。
蛇足だが俺の植物魔法も地魔法の派生だ。まぁ、鉱石魔法とか違って派生元の面影なくなってるけど。
「……よしっ、この方針で行こう!」
そんなことを俺が考えていると、何やら結論が出たのか、ユリアーネがパッと顔を上げた。
「あ、決まった?俺囮じゃないよね?」
「今は」
「…………今は?」
不穏な言葉に俺が思わず聞き返すと、彼女ははぐらかすようににっこりと微笑みかけて、こう言葉を続けた。
「セドリック、私たち今二人しかいないよね」
「そうだね」
「だから最低、あと一人。望めるなら二、三人くらいのメンバーが欲しい」
どっちも戦いには不向きな属性だしね、と彼女は付け加えた。
「でも、お互いツテはないときた」
「あのごめん、質問いい?俺はともかく、なんでユリアーネって公爵令嬢なのに組む人いないの?」
思わず俺がそう突っ込むと、彼女はいい笑顔で「私のこの性格」と言い切った。さいですか。
「(確かにもうちょい大人しい女子多いし、ユリアーネの『これ』は浮くだろうけどさ)」
「_____ということなので、候補を絞りました」
「おっと」
何だか流れが変わった気がする。
「条件は二つ。戦闘系の魔法を使えて、今組んでる人がいなさそうで、あと協調性なさそうなこのグループに馴染んでくれる人」
「おい最後」
「事実でしょ」
最後の失礼さはさておき、そんな希少な人材いるのか。一つ目の条件はともかく、二つ目なんてもうかなり少ないだろうし、三つめは言わずもがな。
「ところがどっこい、候補者が二人見つかりました」
きらりと菫色の瞳が輝き、ユリアーネは手で二を作って掲げた。
「一人はとある令嬢。気に障る人は業火で焼き尽くして冷笑するって噂がある女の子」
「魔王か?」
確かに戦闘向きではあると思うけど、組むペアがいない理由が明白すぎる。そもそもそんな奴、多分組んだとしていい結果にはならないと思うのだが。
「まぁ、その子と組むかはさておき、もう一人は教会騎士見習いの女の子。家からは今のところ出てるっぽい」
「お、そっちの方は良さそう」
魔王よりよほど接しやすそうだ。教会騎士というからには、多少厳格なところがあったりするのだろうか。
しかし、何の気なしにそう言った俺に対して、ユリアーネはにっこりと含みのある微笑を向けて、こう言った。
「じゃ、そっちの教会騎士の子の勧誘と説得、よろしく」
「………は?」
「まだ候補だからね。こっちから誘わないと」
しれっとした顔でユリアーネはそう言う。
「聞いてないが?!?」
「言ってないしね〜」
俺の叫びもどこ吹く風。横髪をくるくると弄るユリアーネは、恐らく最初から俺を込みで使う気満々だったのだろう。こんなことならしっかりノートの内容見とけば良かった……と考えても、もう遅い。
「そんな絶望的な顔しないでよ。私だって勧誘するんだし」
「…………せめて、男子生徒の候補はいないのか?」
「私、男子の詳細あんま詳しくないから。候補選定をセドリックがやってくれるなら考えるけども」
ぼっちには無茶も良いところである。両方。
それでも、と俺がごねていると、はぁっと息を吐いたユリアーネは俺のことを軽く睨んでこう言い放った。
「それとも何、魔王?セドリックがそうやって評してた子の方がいい?私はそっちでもいいけど」
「謹んでお受け致しましょう」
よろしい!と満足そうに笑うユリアーネを見ながら、何やらとんでもない奴と組んでしまったかもしれないなと俺は薄ら感じていた。
……そういえば、ユリアーネってどこの家のご令嬢なんだろう。というか、俺が王子だと気がついているのだろうか?
魔法学園の制服は典型的なブレザーです。
着崩しOK。ちなみにセドリックはちゃんとボタンを閉めてアレンジもせずに着ています。真面目。