セドリック・ルイ・ヴィゼーロイン(1)
初回は説明回です。
読み返してても、かなり目が滑る内容だな……と思ったので、今後知っとかないとまずそうな情報だけ抜粋して次話の最初にまとめておきます。
特に展開的に進展があったりするわけではないので、読みにくいなと思われたら飛ばしてください。
俺は王子だ。
王家とそれに連なる貴族が統治する、魔法大国ヴィゼーロイン。
その第十三王子、王位継承権に直すと第十五位が俺____セドリック・ルイ・ヴィゼーロインという少年なのだ。
……………もう一度言うが、王子は王子でも、第十三王子。継承権はそれよりもさらに下。
改めて自己紹介しよう。俺はセドリック。偶然馬鹿でかい国の王家に生まれたと言うだけの、本当にただそれだけの一般人だ。
『セドリック殿下?ああ彼は……毒にも薬にもならないですね。華やぎにも欠ける上に秀でた才能もない。
ですが……身をわきまえて大人しくしておくくらいには愚かではないし、王族として見苦しすぎるほどに劣っているわけでもない点は、まぁよろしい。良くも悪くも、特段あの王子のために手を打つようなことはまず起きないでしょう』
以上。前に偶然俺が聞いた、とある貴族が評価した「セドリック殿下」である。ちなみにこの後に続いた言葉は、「そんなことはどうでもいいとして、それで〜」である。仮にも王族がまさかのそんなこと呼ばわりだ。
「(別に俺はいいんだけどさ……)」
この国の王家、舐められてんのかなぁと遠い目になってしまうのは仕方ない事だろう。が、多分「ヴィゼーロイン王家」が舐められてるのではなく、俺個人が舐められてるだけなので問題はない。恐らく、きっと。
「…………まぁ、事実だし」
ぼそっと漏れる呟きは、誰にも拾われることはない。部屋には俺一人だ。
窓ガラスに目をやれば、見慣れた俺の顔が薄く映る。
くすんだ金髪に、いまいち鮮やかさに欠ける緑色の目。齢十六になる顔立ちは王族相応に整ってはいるが、決して華があるとは言えないし、むしろ端正が故に逆に人目を惹かない。端的に言うなら地味顔だ。
「(まぁ、俺らしいと言えばらしいけど)」
そうやって考えるこれは、自嘲ではない。単なる事実だ。
俺は王子だ、と言った。それは本当だ。嘘ではない。しかし同時にこう言った筈だ___「王家に生まれたというだけの一般人」と。
簡単に言うと、俺は信じられないほど平凡かつ、存在感の薄い人間なのだ。
最初に断っておくと、歴戦の暗殺者の如く全てから身を隠せるほどに気配が薄い、とかそういうのではない。というか単に目立ちにくいというだけで、本当に特別なものではないのだ。
…………俺が王族じゃなければ、の話だけど。
取る成績は平均もいいところ、運動も芸術も「人並みにできます」という一言に尽きる。まぎれもない器用貧乏だ。
「(器用貧乏も悪いことではないんだろうけどさ……優秀さがデフォルトな王家で考えると、本来なら浮くんだろうな)」
唯一魔法に関しては、王族生まれがゆえに程々に長けてはいるものの、では魔術師になれるかと言われると、渋い顔をして唸られるであろうくらいのものだ。
話が少し逸れるが、この世界には火、水、土、風の四大元素の魔法をベースにそこから補足した様々な属性の魔法がある。そして基本的には自分の持つ属性の魔法しか使えない。
例外が無属性魔法……いわゆる生活やら強化やらに使う誰でもできる魔法と、光魔法と呼ばれる王家の者のみに伝わる魔法の二つ。ちなみに俺も使える……が、本当に申し訳程度だ。
「(で、俺が使えるのがそれと、植物魔法と)」
自室の窓からちらりと外に目をやる。
そこには小さな小さな中庭と、そこの中にある小規模な畑……もとい、家庭菜園もどきがあった。
「…………うん。植物魔法、なんだよなぁ」
ぼそりと呟くと、窓の外の植物が風でざわりと揺れるのが目に入った。
そう。
確かに俺は魔法の行使にある程度長けてはいる。が、肝心の魔法がとんでもなく地味なのだ。
植物魔法は草木の成長を早めたり、薬草の効能を大きめにしたりすることができる。生命に干渉できると言えば聞こえはいいが、俺の場合はちょっと植物を育てるのが上手になるだけの魔法だ。
家庭菜園、というか王城菜園は、俺の魔力制御と庭いじりの趣味を兼ねたもの。わざわざ父……もとい国王陛下から賜ったありがたーい土地だ。いやまぁ、変に広すぎる部屋とか貰うよりかはこっちのがありがたいけど……
話を戻そう。
そういうわけで、いっそ王族としては大丈夫なのかというレベルで優れたところも光るところもない俺だが、とても幸運なことに今のヴィゼーロイン王国はそれが許される環境なのだ。
度々申し訳ないがもう一度思い出してみてほしい、俺は第十三王子、継承権に至っては十五位で以下略。
つまり俺の上には十二人兄と姉がいるし、王弟やらを含む親戚筋の継承者を合わせればもっと「王家」の数は多い。なんなら俺は末っ子ではないし弟や妹がいる。兄弟姉妹を合わせると、なんとびっくり俺含め21人もいるのだ。
何が言いたいかというと、要するに一人くらい平凡な奴が紛れてたところで許されてしまう、という事だ。
「(……むしろただ平凡なくらいなら、歓迎してくれるんじゃないだろうか……)」
俺がそう思うのは、兄弟姉妹の中には何というか……多少過激な思考を持っていたり、大丈夫かこいつと思うようなおかしな奴が紛れていたりするからだ。
今のところ時期国王は一番上の兄になるんだろうなぁ、という感じだけど、なんか水面下ではちょいちょい王位争いじみたこともやっている……ぽい。俺も向こうさんの勘違いで数回巻き込まれたことがあるけど、酷い目に遭ったとだけコメントしておこう。
そういう理由で晴れて平凡王子で通った俺は……というか名前知られているのか?という疑問はさておき、目立たず騒がず平凡であることを許され、同時に求められているのだ。
ちなみに従者やらメイドやらの類いは基本的には俺の部屋にはいない。食事の時に給仕したりリネン取り替えたりは流石にされるけど、別に常に待機してたりとかそういうのはない。一応専属はいるし呼べば来るけど……多分、注意を払う必要もない王子に人材を回すほど、城も贅沢なわけではないのだろう。
……考えてたら虚しくなってきたな。本当に王子ってなんだろう。
「はぁ、レポートやったら育ててる野菜に水やるか……」
そうやって嘆息してから、その呟きすら何だか情けなくなって、何だか突っ伏したい気分になってしまった。
華やかな王子様なんて、俺からは程遠い称号なのだ。
「………あぁぁ、これ明日までにやらなきゃいけないの面倒臭すぎる……」
そんな華やかではない王子様は、今現在レポートを前にも頭を抱えていた。
机の上には、既に書き終わったレポート用紙と歴史の教科書。俺と同じく華やかさもへったくれもない。
が、いくら華やかさに欠けようが、面倒臭かろうが、俺はこの課題をやらなくてはならない。
簡単な話だ、俺は学生だからである。
____魔法学園。
俺が通っている学校であり、この国一番の大学園。
曰く、建国の偉大なる王が国を導く魔術師を育成するために云々。簡単に言うなら、数百年前に俺のご先祖さまが建てた馬鹿でかい学校である。
基本的にこの国の人間は多少は魔法が使える。だから、普通の学校とは違い魔法の扱いをカリキュラムに入れた学校、それがここなのだ。
最初は魔法の行使に特化した術者……要は魔術師の育成がメインだったらしいが、優れた魔法を持つものが貴族に多かったこと、国の貴族とその子息や令嬢が増えていたことにより、設立から数年で貴族向けの学園へとシフトチェンジした。
「(まぁ、昔は魔法なんてほとんど貴族の特権みたいなとこあったからな……)」
しかし最近……といっても数世代前だが、平民の地位向上や優れた人材を身分関係なく重用する風潮が高まり、平民の受け入れもちらほらと始まっている。まぁ数は少ないしクラスは分けられてるけど……
ちなみに、いくら身分の壁が薄くなろうが王族の俺に友人はいない。
綺麗に一人もいない。こういうところだけ王族感の出る、友人絶賛募集中のセドリック・ルイ・ヴィゼーロインに救いはあるのだろうか。
話を戻すと、俺が今いるのは高等魔法科。が、別に魔法専攻かというとそういうわけではなく、主に一般的な貴族向けの教育がされている。勿論普通の座学やらも山ほどある。
要はちょっと高級な普通の学校だ。
「(要するに貴族の教育が目的だし、当たり前と言えばそうか。いやそれにしても面倒くさいけどさ)」
思考を目の前に……レポートに向け、俺は再び嘆息する。
「…………水やり、今日中にできるかな……」