普通が1番…のはずなのに
『え~、桜原高校の皆さんこんにちは。本日は職場見学ということで、ここ…』
そう俺が話し出すと教師はこちらに真剣な眼差しを向けてきており、生徒の一部は俺を見て笑いを堪え、そして俺にこんなことをさせた張本人である親父とその近くで雑用を押し付けられてる涼太は声は抑えているが爆笑している。ってか親父、お前なんで自分でやんねぇんだよ。
事の発端は約一カ月前のこと。
ーーーーー1カ月前ーーーーー
「雄星の学校で来月あたりに企業見学やるだろ?」
「そうらしいけど、それがどうしたんだよ。」
「いや、なんか教師の誰かがどうせならうちの会社に頼めば色々やりやすいだろみたいな事言ったらしくて、会議の結果うちに決まったらしい。」
「へ〜、そうなんだ。って事は俺見学も何も無くなるんだけど。てか何なら俺がいるとやりづらくない?」
「そりゃそうだろ。お前がっつり仕事してもらってるし、何ならお前よりできる奴もいないからな~。下手なこと言うと直で俺に伝わってくるし。」
「だよな。と言っても休んだところで、直でオフィスに連れてくだろ?」
「まあ、一旦聞け。うちでやるって連絡受けた後、社内でも話して誰に説明とか案内させるか決めようとしたわけよ。」
まあ、そりゃあするよな。決め方が雑ではあるが、きちんとした学校行事ではあるからな。
「んで、話したく中で各部署のことをよく知っててしかもある程度面識のある奴ってかなり少なくて、今ちょうど大きい奴来てて手が開かなそうなわけよ。」
…なんか、雲行きが怪しくなってないか?いや、1人ぐらいるだろ。
「んで結果的にいっそのこと雄星にやらせて俺らは働いとこうぜとなった訳よ。」
「いやいや、なんで見学しにきてるやつに説明やら案内やらさせるんだよ。って今親父は暇だろ。」
「え?面倒じゃん。それに俺ほど説明が向いてない人もいないだろ。」
「…」
そうだった。この人めちゃくちゃ説明下手だったわ。にしても俺かよ。
「今後の打ち合わせは誰がやるの?…俺なの?」
「おう、学校側には説明済ませてるから任せたぜ!」
・・・はぁ。マジか~、でも今ってあれか。あの大手のやつか。てなると人手が足りないのも納得か。
「あれ、てことは俺その日学校じゃなくてオフィスで準備かよ。…あぁ、何でこんなことに。」
「まあ、これもいい経験だと思って。」
「いや、経験も何も一般向けのも俺かなり手伝ってるんだけど。」
「うん、細い事は気にせずに、とりま諸々任せた。」
ーーーーーーーーー
ってなことがあり放課後に職員室に行って進行方法やら内容を詰めて行って今に至る。いや、結局親父も挨拶あるんだから原稿考えるだけで良かってんじゃね?なんて思ったところで駄目だろうな。実際のところ俺がいた方が普段入れられないようなところまで入れるのは確かだしな。そんなことを考えながら淡々と会社の紹介をしていく。
『以上でこちらからの説明は終わりになります。何か質問などあれば挙手して下さい。』
その言葉の後何人かの手が上がり、近い方から順に当てていき、その場で答えられるものにはできるだけ簡潔にわかりやすく答えていく。ちなみに人手不足の為諒太にはマイクを持たせている。こいつもうちのことはかなり知っているので今更聞かせる意味もない。よって俺のサポート役として、生徒の出迎えなんかにも行かせた。そうして質疑応答の時間も終え少しばかりの休憩時間になる。俺は今後の準備もあるので一時的にその場を後にし廊下に出ると、引率の教師と親父が何かを話しているのを見かけたが、あまり時間もないのでスルーして目的を果たして俺にまた元の部屋に戻る。そうすると、クラスメイト達が一斉に俺の方を向く。
「え?なんかあった?」
「いや、荒川ってこんなやつだったのかと。」
「うん、なんか普段から大人っぽいとは思ってたけど、まさかここまでとはって感じがした。」
「あははは、やっぱ雄星ってそう思われてたんだな。でも、普段はびっくりするぐらい普通だから、あんまり気負わずに話してやってよ。」
「そういえば、涼太君もいなかったけど何してたの?」
「俺?普通に裏でこき使われてた。この会場の整備とか、マイクの音量調整とか。ったく、親子そろって人遣いが荒いよな。」
「わお、それ、本人たちの前で言っちゃうんだ。普通言えないって。」
「ああ、大丈夫大丈夫。こいつの場合俺も親父も数少ない容赦なく使っていい人材だと思ってるから。それに正当な対価も支払ってるから。」
「いや~、おかげでいい生活させてもらってま~す。・・・まあ、俺よりも雄星のほうがよっぽどいい生活してるけどさ。」
「・・・あんま言うと、バイト代下げるからな。気をつけろよな。」
「え?なにそれ聞いてない、てかその辺お前が決めてるのかよ。」
「まあな。」
ぶっちゃけ、こいつへの報酬のほとんどは俺の実費なんだからな。絶対に言わないけど、感謝してほしいな。
「休憩いつまでなの?」
「ん?そろそろ終わるけど、どうせこの後の見学も俺主導で行くからそんな硬くならなくていいけど、ほかの社員さんに対してだけちゃんとあいさつしてほしいかな。涼太もな。世間話はしなくていいから。」
「わかってるよ。今日はどちらかと言えば案内する側だからしないって。・・・にしてもこの学年はラッキーだな。」
「なに?なんかいいことあるのか?」
「まあ、雄星に見たいところ言えばよっぽどのところじゃなきゃ入れてくれるから。」
「俺自体どの部屋でもはいれるからな。流石にサーバールームは安全性的にも入れないけどそれ以外なら社長室でも行けるな。」
「いや、流石にもっと入れないところはあるだろ?」
「・・・まあ、大丈夫でしょ。というか、周りの先生方のほうが気になってそうですけど。・・・・って、俺の作業風景なんて見ても面白くないですよ。」
「というか、こいつのやってることってここでも一番難しいところだったりするんで、俺でも何やってるかわからないことが多いので、おすすめはしませんね。どちらかと言えば、デバックしてるところの方が見てる分にはわかりやすいですかね。雄星なんかいい感じのやつ残ってないの?」
「さあ、そこまでは知らないって。・・・いや、俺の遊びってかのでいいならあるな。丁度先生方に依頼されてたやつ最近できたんですよ。試運転もかねて後で見せますか。」
「いや、頼まれて作るやつでは遊ぶなよな。」
「・・・なんか、荒川ってホントはすごいやつなのか?」
「先生方は何か知ってます?」
とそんな感じで話していると休憩の時間が終わり、見学に入った。できるだけ要望にこたえつつぱっと見で分かりやすいところも分かりづらいところも回ってみた。途中で知り合いの社員さんに声をかけられたりしながらも、無事に企業見学を終えられた。まあ、俺と涼太は修了後も残って後片付けなんかの雑用をしてから自宅に直帰という何とも学生らしからぬ一日を過ごした。
また後日、教師陣からはパソコンやらで困ったことがあったときに質問されることが多くなった。関わりの薄い先生から突然話しかけられて、かなり驚いたりもする。その代わりに、内申点は上がってそうなので良しとするか。
より普通の学校生活が遠のいた気がする。
誤字脱字などありましたら教えてください。