記述14 硬く冷たい壁の中で RESULT
「ありがとうございました」と弟子の男にお礼の言葉を伝えてから、二人はアトリエの外へ出た。
首都での宿泊許可は降りていないため、今日中にバスなりなんなりを使って国外行きの便に乗り込まなければならない。空は少し日が傾いてきた頃合いで、まだ時間には余裕がある。
「これからどうするの?」
隣を歩いていたウルドが問いかける。俺は両手の間に広げていた紙の地図を小さく折りたたみ、ポケットにしまった。
「とりあえず、早めに国境地帯のフライギアに戻って……」
と、話の途中で視界がふらりと傾いた。
ドサリ
急に力が抜けた自分の体が、砂利だらけの地面の上に倒れた。
「あれ?」と思って起きあがろうとするが、体全体が重たくなっていて、指先を動かすことすら満足にできない。おかしいな。さっきまで普通に動いていたはずなのに。
「ディア!?」
重たくて仕方なかった体を、ウルドがいともたやすく抱き起こす。「どうしたの?」「どこか痛いの?」と耳元で心配そうに問いかけてくる。返事をしようとしたが、頭がうまく回らなくなっていて、なんだろう、ウルドの声もだんだんと遠ざかっているような気がする。
視界がチカチカ、青と白に点滅している。耳鳴りがうるさい。ウルドの声が聞こえない。不快感。体の奥から何か、悪いものが湧き上がってくる。手足の痺れ。神経の麻痺。悪寒。どろりとした何かが気管を逆流していく。
苦しい。苦しい。苦しい。気持ち悪い。
痺れ、悪寒。どろりとした何かが、喉に……
ごぽっ ごぼっ ぼぼぼっ
口から血を吐き出した。
信じられないような量の赤黒い液体が喉の奥から流れ落ちて、それで、あぁ、ウルドが俺を見ている。
『イヤだなぁ、こんなの』
そう、心の中で呟いた後に、俺は意識を手放した。