記述11 望むがままに巡れ、世界 第1節
機械兵の銃弾がソウドの額を真っ正面から撃ち貫いた。中身がぎっしりと詰まった人間の頭部だ。それが水風船みたいに簡単に割れて、中に入っていたものがびちゃびちゃと嫌な音をたてて周囲にまき散らされた。
ソウドが死んだ。
息を呑み、凄惨な現状を凝視する。視界の端ではマグナが倒れている。ウルドも……いや、ウルドは大丈夫だ。まだ大丈夫。だけど、俺は? 俺はどうだろう。
まだ温かいウルドの体を両腕の中に抱え込み、けれどそれ以上のことは何もできずに固まってしまっている。恐怖を、感じているのだろう。そりゃそうだ、人が死んだんだから。次は自分かもしれないのだから。
機械兵たちがゆっくりとこちらに近付いてくる。銃はまだ構えている。俺はウルドの体を抱きしめる力を、ぎゅっと強めた。
「 」
機械兵たちが何かを喋った。けれど、うまく聞き取れない。こんなに注意深く相手の方を見据えていたはずなのに、何も聞こえなかった。鋼鉄のマスクに覆われた頭部から音がしたとか、人の言葉を話したとか、そういうことはわかったはずなのに、その意味が、音が、少しも脳に入り込んでこなかった。
なぜ聞き取れなかったか? どういうわけか、聴覚がまともに機能しなくなっていたからだと、遅れて気付いた。一体どうしてと疑問に思ったところで、視界もだんだんと……白んでいく。
そこでさらに気付く。自分の目の前で、俺を守るために死んでしまったソウドの体が、いつの間にかなくなっている。それどころか、ソウドの体があった場所に不自然な存在感を持った光の塊が浮かんでいる。
淡い青色の色彩を帯びた光の塊は俺が見ている前で大きく大きく膨張していき、やがて光の柱へと姿を変えた。
何が起こっているのだろう。光の柱は俺が見ている目の前で制限無く膨張していく。
いや、よく見ると機械兵たちの姿もいつの間にか無くなっている。ウルドも、マグナもいない。そもそもここがさっきまでいた湖のほとりなのかどうかもわからなくなっている。
光はまだ成長を続け、その先端を漆黒の夜空の天辺まで到達させた。さらに高く高く、天へ向かって伸びていく光の柱。輝きはとうとう、厚い雲の層を突き破る。
そうして突き破られた雲の隙間から何かが見えた。あれはなんだ? 青い、見たことがない、何物にも喩えようがない清々しい色味をした青色の空間が広がっている。今は夜だったはずなのに、その空間は真昼の明るく白んだ空よりさらに、遥かに、明るく鮮烈だった。それが空の果ての真実だとでも言わんばかりの輝きをもって、光の柱の周囲を青く青く取り囲んでいる。
光の柱はその間もどんどん輝きを増していく。もはや目の前が真っ白になるほど世界の全てが明るく照っていたはずなのに、少しも目が痛くなかった。そして何も聞こえない。やがて何も見えなくなる。
ただ、体は暖かい。夜の肌寒さは幻想のようにどこかへ消えて、真昼の陽光が放つ微熱が体を優しく焼き焦がしていく。チリチリと、ヒリヒリと……黄金色の炎が体を焼き尽くしていく。
光が、世界を覆っていく。
真っ白に、真っ青に、明るく、明るく、全てが光り輝いていく……