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それでも神話は生誕するのか  作者: 鵺獅子
記述30 ただずっと、私の空は青かった
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記述30 ただずっと、私の空は青かった 第1節

 東の空から陽が昇り始めたばかりの早朝の空。淡い桃色と黄金とが混ざり合ったグラデーションの光の中、翼を広げて飛んでいく。

 しばらくそうしていると、前方から爆発にも似たミサイルの発射音が聞こえてきた。周囲を見回すと、複数の戦闘機が空を通過した後の飛行機雲がそこら中に残っている。戦場が近くなってきた証だ。

 さらに飛行速度を上げて進んでいくと、空に大きな黒い塊が浮いているのが見えてきた。あれがペルデンテの空挺母艦と見て間違いないだろう。母艦の周りを漂う戦闘機や戦艦型フライギアが見つめる先にはアルレスキューレの中心地である城下街がある。背の高い砦の前にはアルレスキューレ側の戦闘機が母艦に向き合うような形で展開されている。今もまさに、戦闘機は備え付けの機関銃で大きな音をたてながら標的を攻撃している。アルレスキューレにとってはここが最終防衛ライン。突破されれば母艦から多くの兵器が投下され、城下街にペルデンテ軍が流れ込んでくる。

 早朝にも関わらず戦況は激しく燃え盛り、止まない戦闘音が明け方の空を火の海へ変えていく。

 俺は飛び交う銃撃とレーザー光線の間を通り抜け、母艦の艦体に触れられる距離まで近付いていった。本来の世界線であればペルデンテ側が所有しているはずがないことがありありと見て取れる、高性能な機能を有した艦船のように見えた。大きな黒い外装部を沿うように飛んでいき、開閉できそうな部位を探す。緊急脱出用と思われるハッチを見つけ、その扉のロックを能力を使って適当に破壊してから、母艦の中へ侵入した。

 ハッチを開けた途端、艦船内部に警報が鳴り響き始めた。気にせずその身を滑り込ませ、分厚い装甲部をくぐって通路に出る。床に足を付けると、すぐさま通路の端から数名のペルデンテ兵が駆けつけてきた。兵士たちは艦内用の防衛機銃をこちらに向けて構え「何の目的だ!!」とこちらを威嚇する。

「ガイル・アビシオンはいるか?」

 首にかけた青い紐を見せつけながら兵士の集団に問いかける。すると兵士の中で最も高い位にあると見られる壮年の男が反応し、青ざめた顔をしながら部下たちにすぐさま銃を下ろすように指示を出した。何度か失礼を詫びた後、男は「案内いたします」と行って艦内を移動し始めた。

 男に案内されてやってきたのは戦闘指揮所と呼ばれる艦内の戦闘情報を管理する部屋。兵士の報告を受けて部屋に入るための機械扉が自動で開き、いくつものモニターやレーダーなどの機材が並んだ薄暗い部屋の光景が目に入る。入室すると会議テーブルの席に付いていたガイルが立ち上がり、こちらへ近付いてきた。

「ご無事だったのですね、フォルクス様」

「俺を誰だと思ってるんだ。黒軍に掴まったくらいで死ぬような身じゃあない」

「貴方様ほどのお方であれば、そもそも捕縛されるような失態は起こさないはずでした。イレギュラーが発生したのかと不安に思うのは仕方の無いことです」

「その問題もすでに解決した」

「では、何故今の状況でこちらへ?」

 会議机の表面に表示された無数の作戦データに視線を落とす。モニター上では今も外でアルレスキューレ軍との戦闘が繰り広げられている。

「戦闘中に悪かったな。しかし、挨拶もせずに向かったらそれはそれで問題になると思って、先に顔を出した」

「……まさか、もう向かうつもりなのですか?」

「そのつもりだ」

 そこで機械扉がもう一度開き、部屋に二人の人物が入ってくる。レクトとメタルだった。レクトは大声を上げて叫びたいのをグッと堪えながら俺の隣まで近付いてきて、敬礼をする。

「ご無事で何よりです、フォルクス様」

「あぁ、心配をかけたな」

 淡い金色をしたレクトの頭をくしゃりと撫でてやると、彼女はやや恥ずかしそうに赤らめた顔でふにゃりと笑った。

「だが、すぐにまた出てくる」

「どこに行くつもりなのよ?」

「イデアールのバカを懲らしめに行く」

「なっ!?」

 レクトだけでなく、周囲で静かに話を聞いていた幹部たちも驚いた反応をする。

「お一人では危険です」

 ガイルが当たり前のような忠告をする。

「もうしばらくすれば昼前には目の前の赤軍の防衛を突破できる見立てです。航空戦に勝利し対空権を支配すれば、母艦から攻撃部隊を直接城下街に送り込めるようになる。それまで待つことはできないのでしょうか?」

「俺のすることと、オマエたちの戦いとは、そもそも別のものだ。伝えに来たのはただ単にオマエたちの計画に支障が出ることが気になっただけのことで、助力を求める気はまるで無い」

「でも、私たちはフォルクス様のお力になりたいって、いつも思ってるんだよ!?」

「気持ちだけで十分だ」

「マスター」

 静かに話を聞いていたメタルが声を発する。

「私を使ってください」

 低く、冷静な声色だった。

「メタル……本気なのか?」

「はい」

 そう言ってメタルは背中に装備していたエンジンパーツを外し、機材の上に静かに置いた。

「何するつもりなのよ、メタル?」

「アンドロイドとしての機能を放棄して、元の素材である金属の塊に戻るつもりだ」

 口数が少ないメタルの代わりに俺が答える。

「そ、それって戻れるの?」

「戻ることはできない。メタルを開発した科学者はもうこの世にいないからな」

「私には長年に渡ってマスターから与えられ続けた神力が多分に蓄積されています。時が来ればその力を解放し、マスターの武器に変形して戦場を共にする。今が、その決戦の時であると、私は判断しました」

「人工知能を放棄することは死ぬことと同義だ。構わないのか」

「構いません」

「……だったら、付いてこい。俺はこう見えてオマエのことを信頼している。メタル・ハルバードは、俺の立派な相棒だ」

「恐縮です」

「メタルってば……ずるいよー」

「レクトはここで大人しく会議にでも参加していろ。いいか、この戦争は始まったばかりだ。そして例え、俺がイデアールの首を取ったところで、急に終わったりはしない。アイツは所詮、どこまで行っても飾り物の王様にすぎないからな」

「了解しました。私たちは私たちの戦いを続けます」

「いってらっしゃい、フォルクス様!」

 健闘を祈る幹部たちの声を背に受けて、メタルと一緒に戦闘指揮所の外に出る。

 準備は整った。今から俺は、イデアール・アルレスキュリアを殺しに行く。

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