表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも神話は生誕するのか  作者: 鵺獅子
記述29.5 救世主と銀世界
205/212

記述29.5 救世主と銀世界 第1節

 真っ白なんて言葉を笑い飛ばしてしまいたくなるほど白い、白い、純白の猛吹雪の中。

 何処へ行きたいわけでもなく彷徨い歩き、意味も無く足を止め、何も無い場所にうずくまった。

 風は冷たく、雪は体の温度を奪い取り、汗も涙も凍り付いてこぼれ落ちない、そんな夜。

 

 『何か』から逃げ出したことを覚えている。

 

 それは恐ろしいものだった。それは自分の価値の全てだった。それは、自己評価の全てを定める指標だった。

 果てのない虚しさが心の中を満たしていて、途方もない失望の感情が雪に変わってこの身にふり注いでいるかのような錯覚すらした。

 

 思い出すのを拒んでいるのは自分自身なのだろうか。

 

 それは美しいものだった。それは儚いものだった。やわらかく、純朴で、脆く壊れやすいものだった。

 触れれば汚れ、癒えない疵ができる。そうとわかっていながら手を伸ばした。

 

 それはこの世界の象徴のような、何か。

 ふり積もる白雪に似ていた。晴れ空を知らない灰色の雲に似ていた。

 清らかな雨の恵みを知らない大地のような、波の優しさを知らずに育った魚のような、冷たい路地裏に間違って咲いてしまった野花のような。

 救いのないもの。

 救いになれたら良かったのに。

 そうか、俺は救世主になりたかったのだ。

 この世界を変えたかった。

 この世界が、諦めきれなかった。

 どれだけ際限なく壊れていようとも、手を差し伸べれば助けられるんじゃないかという幻想を抱いた。

 壊してしまったのは自分なのに。

 

 あぁ、花咲き乱れる愛しの故郷よ。母よ、友よ、風よ、大地よ。

 俺の復讐に意味はあったのか? 俺の信じた愛に価値はあったのか?

 

 都合が良い夢物語。始めから何も無かったのに、そこに意味を見出したかった。

 生まれ落ちたこの世界、あてもなく、途方に暮れ、五里霧中のなか見つけた何かに手を伸ばす。

 『生きていくってそういうことよ』夢の中の彼女が笑う。

 

 救世主になりたかった。

 この世界を変えたかった。

 世界はもっと明るく、優しく、美しくあるべきなのだと謳いたかった。

 ただそれだけの、希望のために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ