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それでも神話は生誕するのか  作者: 鵺獅子
記述27 遡行する栄華と黎明
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記述27 遡行する栄華と黎明 第12節

 来た道を引き返し、キャラバン隊の下へ戻ってきた俺たちは、すぐにアデルファ隊長のもとへ向かって報告をした。光る球体が飛んでいった先で得た情報を伝えると、隊長はすぐにその情報の価値を認め、軍を動員させることになった。

 キャラバン隊に同行している赤軍の調査隊員の数は三十弱。それぞれが思い思いの方法で荒野を駆け回り、近辺にいるグラントールの商隊の捜索を始めた。

 そして周囲がすっかりと暗くなった頃、あの岩場からそう遠く無い場所を通りかかる三台の竜車を発見したとの報告があがった。先に見つけた赤軍隊員が彼らに接触し、すでに対話を始めているのだという。俺とトラストさんもすぐにロードバイクを走らせて、現場に到着する。

 現場に先に到着していた赤軍隊員が、竜車の持ち主と見られる男性と会話している。どうやら彼がこの商隊の隊長のようだ。グラントール人らしい褐色の肌に大柄の体格をした、一見すれば粗暴そうな見た目をしている。

「不足物資の補充がしたい。商品を積んでいるなら一部を買い取らせてもらえないか?」

「うちの商品は全部買い手が決まっていて、アンタらに渡せるものなんて一つも無いね」

 商隊長はそう言うと、咥えていた紙煙草を口から離し、暗い夜の空に向かって灰色の煙を吐く。

「それよりアンタら、なんでこんなルートから外れたところで車待ちなんかしてるんだ。物資補充がしたいならもっと通りの良い場所が他にあるだろ」

「昼にイワジカの群れに遭遇してしまって、その際に隊車の一部を故障させたんだ。それでこの辺りに留まることになっている」

「この辺りは盗賊が多いからさっさと離れられるなら離れた方がいいぜ」

「それなら逆に、なぜ貴殿らはここを通行している?」

 そこまで会話が続いたところで、相手側が黙り、大きな溜め息を一つ吐く。

 商隊長が火が付いたままの紙煙草を荒野の上に放り捨てる。夜風が吹き、煙草の火が暗闇の中でチカチカと光り、ゆるい煙を吐きながら弱まっていく。

「はーあ、めんどくせぇな。オイ、おまえら、さっさと片付けちまえ!!」

 商隊長が竜車の中に待機していた仲間たちに向けて声を荒げた。するとその言葉を待っていたとばかりに、停車していた竜車の後部から武装した男たちが続々と姿を現した。数が思ったよりも多い。彼らはあっという間にこちらを取り囲み、銃や刀剣といった思い思いの武器を突きつけ、敵意を剥き出しにする。

 戦いが始まる。こちらも武器を構えようとしたところで、相手側が先に動き出した。

 複数の銃声が上がる。しかしそれは、物陰に隠れていた赤軍の仲間たちが武装した商隊員たちを後ろから射撃した音だった。

「仲間があんなにいたのか」

 舌打ちする商隊員たちの隙を付いて、トラストさんたちは崩れた包囲網から脱出した。隠れていた仲間たちと合流し、陣形を組み、襲いかかってくる荒くれ者たちの攻撃に応戦する。

 獣相手では苦戦していたが、対人ともなれば訓練された軍人の本領が発揮される。銃弾の防ぎ方、刀剣の弾き方、人体の急所の位置だって把握しており、相手を殺さずに戦闘能力を削ぎ落とす技能だって持っていた。

 現地に到着していた赤軍の数としては五分と五分。それでも練度の差が有り、戦闘が終了するまでの時間はそう長くはかからなかった。

 気付けば暗い夜の荒野には捕縛された荒くれ者の集まりができあがっている。

 

「チッ。殺しまではしないなんて、甘く見てくれるじゃねぇか」

 敗北した商隊長が縛られた状態で悪態を吐く。

「命を奪うかどうかは、運んでいる荷物の確認をしてからだ」

 一方で、勝利した赤軍隊員らは銃口を男の額に押し当てながら冷笑していた。

「トラスト隊員、こちらへ来てください!!」

 そこで竜車の中を調べ始めた隊員がトラストさんを呼ぶ声が聞こえてきた。何か大変なものを発見したような、急ぎの声色をしている。

「何か見つかりましたか?」

 駆けつけてみると、切迫した表情の赤軍隊員が「竜車の中を見てください」と伝えてくる。言葉の通りにトラストさんと俺も中を覗く。

 すると、一枚の垂れ布をまくった先にある暗闇の中に、何かが集団でうずくまっているのを目にする。懐中電灯の明かりを向けると、それが生身の人間であることがすぐにわかった。老若男女様々な年齢層の人間が、衣服を剥ぎ取られた状態で手足に鎖を繋がれ、竜車の中にぎっしりと詰め込まれていた。

「見たところ、全員アルレス人のようです」

 先に確認していた隊員が言う。彼の言う通り、確かに囚われている人たちは皆アルレスキュリア人特有の白い肌をしていた。

 手前でうずくまっていた老人に声をかけ、口に噛まされていた猿轡を外してやる。すると彼は息をゼェゼェと吐き出しながら、乾いた声で感謝の言葉を述べ始めた。随分長い間口をふさがれていたようで、食事もとっていない様子だ。急いで赤軍の仲間に水筒を持ってくるように伝え、老人の口に水分を流し込む。

「オレたちみんな、このよくわからない連中に拉致されたんだ」

 次に助け起こした若い男が話す。

「一人でいる時を狙って襲われた。でもみんな、国境の外なんて危ないところにいたわけじゃない。街中で普通に生活していたところを狙われたんだ」

 捕縛した荒くれ者たちのもとへ戻り「どういうことだ?」と問い詰める。すると自棄をおこした男が笑い声を上げながら自白した。

「見ての通り、人攫いだ! この辺りに健康なアルレス人を買い取ってくれる便利な連中がいてな。オレたちはそこで一儲けさせてもらってたんだよ!」

「買い取られたアルレス人の行方は?」

「そんなもん知らねぇよ。知りたかったら自分の眼で確かめりゃ良い。場所を教えてやろう」

「情報を提供したところで貴方たちの罪が軽くなるわけではありませんよ」

「死なば諸共。オレたちにこんな最期を迎えさせる商売をふっかけてきた連中の足を引っ張ってやる」

「……言いなさい。罠であるかどうかはこちらで十分に確かめます」

「罠なんかじゃねぇよ、ノリのわからねぇつまんねぇヤツらめ。これだからアルレス人ってのは話にならねぇんだよ」

 そのアルレス人とやらよりも、今の彼らの方がよっぽど下劣である。しかしこれ以上無駄話をしても仕方ないとトラストさんも思っているため、それ以上は何も言い返さなかった。


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