記述25 龍の墓場 第3節
あくる日の早朝。再び顔を合わせたディア一行とともに大渓谷へ向かった。
茶色の岩と砂ばかりが続く殺風景な景色の真ん中に、停泊中のフライギアを一つ見つける。「見たことがある機体だわ」とライフが呟き、たずねて見るとどうやら彼女たちはグラントールに立ち寄った際にとある調査団の世話になったのだと言う。奇妙な縁もあるものだと思いつつ、龍が関与するような危険な地域を好き好んで調査する連中なんてそう多くはないことを思い返し、納得もした。
何はともあれまずは接触しようとフライギアに近付いてみると、ちょうど朝の見回りから戻ってきた途中らしい調査団員の一人に見つかり、向こうの方から「ここは危険ですよ」と声をかけられた。
「ここの調査団に用があって来たこと」
そう伝えると、団員はその場にいる人たちの顔をくるりと見渡していく。視線がブラムとウルドの方を見たところで、団員は思い出した様子で言葉を続ける。
「そういえば、あなたたちとはグラントールで会っていましたね」
「あの時はご迷惑をかけてしまって……」
「いえいえ、おかげで良い調査結果を得られたと、リーダーも喜んでおられました。それで、本日はどのような要件で?」
「レクトに会わせてくれ」
二人の会話に入り込むようにして俺からレクトの名前を口に出す。すると団員は途端に困った表情をして、「あなたはどちら様でしょうか?」と首を傾げる。
「えぇと、リーダーは現在ご就寝中だと思われまして」
「目覚まし代わりにソウド様が来ていると伝えてやれ」
言いながら首元にかかっていた青い紐を服の下から引き出し、団員に見せる。
「……っ! かしこまりました!!」
するとすぐさまことの次第を把握した団員は、急いで停泊中のフライギアの中へ駆け込んでいった。
「今の紐は何?」
横で一連の流れを見ていたウルドが軽い調子で聞いてくる。
「偉いヤツしか持っていないはずのアイテムだ」
「ふーん」
まもなくしてフライギアの昇降口のハッチが大きく開き、金髪の女性が急いだ様子でこちらへ走ってきた。その足が自分から少し離れた場所で一度止まる。ゼェハァと息を切らしながら、戸惑った様子を見せる彼女へ向けて、俺は軽く腕を上げて手招きをしてやった。俺の態度を見て安心した彼女は硬かった表情を子供のように綻ばせながら、俺の胴体に抱きついてきた。
「ソドさまだーっ!! うれしー!! 会いたかった-!!」
「二週間前にも会ったばかりだろ」
「毎日会いたいよー!!」
傍らでは彼女の無邪気な様子を見て驚いている一行の顔が並んでいる。
「ど、どういう関係ですか?」
と、ブラムが不躾に質問してくる。すかさず金髪の女性が「パパだよーっ!」と誤解を招きかねない回答をした。
「育ての親と子供の関係だ。血は繋がってない」
と、続けざまに訂正する。
「娘がいたのに記憶喪失だったんだ」
傍らに立つウルドが呆れた顔をして言う。
「レクトはもう立派なレディだよ。だからソドさまがどこで何をしていたって全然問題ないし……って、あ、メタルもいたんだ」
会話の途中で一行の最後尾に立っていたメタルの存在に気付いた金髪の女性ことレクトが、彼に向けて恨めしそうな眼差しを向けた。レクトの対抗意識など知ってか知らずか、メタルは素知らぬ調子で口を開く。
「お久しぶりです。今回は大渓谷の探索の件でやってまいりました」
「えぇっ!? 進捗なんてまだ全然なんだけど!?」
「尻を叩きに来たワケでも、文句を言いに来たワケでもない。ただ、少しばかり有力な情報が手に入ったから、それについて調べに来たんだ」
やや心配げに俺の言葉に耳を傾けるレクトに、これまでの経緯を簡潔に説明する。ひと通り話し終わると、彼女はディアが指定した場所を確認したいと言ってきた。地図を開いてチェックの入った場所を見せる。するとレクトはいささか困った顔をした後に「素人が行くにはちょっとばかし危険が過ぎるよ」と意見を言った。
「アルカが言うには、ここにいるディア・テラス本人が行かないとフラグが立たないんだとか」
「アルカなんかの言うこと聞いちゃダメなのよ。……でもま、普通ならそう言って止めるところだけど、そこの連中だったら前回グラントールで大冒険をしてきちゃった奴らみたいだから、特別に許可を出してやるのも悪くないよ」
「ありがとうございます」
「こんな早朝に来たってことは、今日の内に行きたいってカンジなのよね? 急いで準備するから、フライギアの中へ来なさい」
話がスッキリとまとまったところで、レクトはその場でくるりと踵を返し、調査団のフライギアの方へ向けて歩き出す。その後をディアたちと一緒に付いていった。