記述19 この愛は私のために 第3節
「あの子が来ているの?」
あれは大人たちの声だよ。
「可哀想な子供だ。失敗作だと判っていながら、なぜ生かしたりするのか。彼の言う通り、確かに今はまともな形をしている様子だけれど、それだっていつボロが出るかわかったもんじゃない」
「言っては駄目よ。あの子だって、好きでそういう風に生まれてきたわけじゃないんだから」
「責めているわけじゃないさ。むしろ同情しているんだ。君だって見ただろう、あの顔を」
「えぇ……不憫に思うわ。とても見ていられない」
「だからこそ、早めに殺処分してやった方があの子のためになるんじゃないかって思うんだ」
ほんの小さなシアワセと、とびきり大きなフシアワセ。
君の中にはどちらも入っているね、バクダンみたいだねっておはなししてるよ。
きっとみんな、君のことが怖いんだ。
そんなことない? そうかな?
ムリに否定しなくたっていいのに。強がりさんなんだね。
みんなそうでしょ。
好きになったものを嫌いになりたいだなんて思わない。
守れないものを守ろうとしたって仕方ない。
最初から報われない気持ちに手をのばして、傷付きたいなんて思わない。
やめておいた方が良い。諦めた方が良い。みんなそう言ってる。
でもね……僕は君のこと、ちゃんと好きだよ。
「俺の家で引き取ることになったんだ。ちょうど子供を探そうと思っていたところでね、色んな施設を回っていた。この子ならば家内も喜ぶだろう」
「けれども御主人、これは通常のドナーベイビーとは異なっている。あえて悪く言うならば、不良品。通常の個体より耐久性が低いうえに、優れた身体機能を備えているわけでもない。なにより正常な個体の三割以下の寿命しか持っていないことが問題だ」
「すぐに死ぬというのなら好都合だ。俺たちは世継ぎが欲しいわけではないんだから」
ねぇ、あの人たち、とうとう君を連れて行ってしまうみたいだよ。
僕たち会えなくなっちゃうのかな? それでもまた会いに来てくれる?
……そう……約束だよ。もう一度僕に会いに来てね。
僕は君を守らなきゃいけないんだから。
「対象への依存度が高すぎる。仕様通りにも限度というものがあるだろう。これはもはや設計ミスの領域だ!」
「ミスがあったからといって今さら調整するなんて不可能だ。リミッターをかけるか、いっそ機能停止させるか……何はともあれ、この件を修繕したいというのならば相応の手順でもってリセットを行う必要がある」
ねぇ、どこを見ているの? こっちを見てよ。 僕を、見て?
遠く? 窓の外に何かあるの? 何にも無いよ?
空があって、町があって、人が住んでいて、ただそれだけ。
それなのに、遠くへ行ってみたいって? へんなの。
あぁ……もしかして、逃げたいんだね。
だったら僕が力を貸してあげるよ。
君は弱くて小さなニンゲンだけど、
僕が手伝ってあげれば何でも出来るようになるはず。
きっとそう。君が思うよりずっと遠くまで逃げられるようになる。
遠く……遠く…………誰もいないところまで、一緒に、ね?
僕は君の願いならなんだって叶えてあげたいと思うんだ。
だから、君はどこにだって行けるはずなんだよ。