1-8
勝てたのか? 勝ったんだよな?
ようやく勝利を確信できたとき、俺はようやく自分がまだ生きているという事実を実感する。ようやく訪れた安堵は俺から緊張感を奪っていく。
気がついたとき、俺は剣を落として、その場にへたりこんでいた。
「終わった……」
それは封印の呪文のようだった。いままで封じこめていた恐怖の感情が一気に溢れてくる。体はガクガクと震えて、乾いた笑いが止まらない。
何でいままで我慢できていたのか、自分でもわからない。ただ、生きていてよかったと、たしかな実感を得ていた。
「お見事です、勇者殿。木の魔竜トゥークリフトの最期、たしかに見届けさせていただきました」
上空からペガサスの機翔竜に乗って、全身を甲冑で包んだ人物が降りてくる。
ちなみになぜこのペガサスまでも機翔竜と呼ぶかというと、機翔竜の“竜”というものがあくまで概念的なものだからである。よって、機翔竜のすべてが西洋の伝説に出てくるような竜の姿をしているわけではない。鳥の姿をしていれば、このようにペガサスの姿をしているモノもいる。
機翔竜の定義とはあくまで天翔る機構の“竜”なのである。そういう意味でも、白銀をしたこの機械のペガサスは間違いなく機翔竜と呼べる存在だ。
「俺、生きているんだよな?」
「ええ。あなたはトゥークリフトを見事に倒して、生き残ったのです」
その人物が着こんでいるのはいわゆるプレートアーマーである。フルフェイスの兜とくぐもった声は性別の特定を困難にしていた。もちろん、どんな顔をしているかもわからない。
それをわかっているはずなのに、敢えて兜をとろうともしない。本当に勝利を祝ってくれる気があるのか疑うレベルだ。
フルプレートはペガサスから飛び降りて、地面に突き刺さっていた槍を引き抜く。どうやら槍はフルプレートの所持品らしい。
「あなたが助けてくれたんですね。おかげで首皮が何とか繋がりました」
「いえ。すべては勇者殿の実力でしょう。私は少し手助けをしたに過ぎません。危機のあとには好機が生まれるものですが、生かせる者はなかなかいないものですから」
「それでも、あなたがいなければ死んでいました」
「勇者殿がそうおっしゃるのなら」
フルプレートは軽く頭を下げてくる。その仕草はあきらかに流麗で洗練されたものだった。こんな風体ながら、育ちはいいのかもしれない。
そして、ふと俺は思い出す。そういえばリーナは無事なのだろうかと。その、まるで俺の不安に答えるように、ガルダートが背中にリーナを乗せて上昇をしてくる。
「ふぅ。もう少しで死ぬところじゃったぞ」
その一言を聞いて、彼女が無事であることに確証を得る。
「トゥークリフトはどうしたのじゃ?」
リーナののんきに訊ねてくる声を聞いて、俺は再び安堵する。
「彼女が巫女様ですか?」
「俺はよく知りませんが、そうらしいですね」
リーナはガルダートから飛び降りると、こちらに可愛らしい足どりで駆け寄ってくる。
「何とか倒したよ」
「それは真か?」
リーナの顔がぱーっと華やぐのがわかった。感情表現がストレートなせいなのか、こうしてみると表情も豊かだなと俺は感心させられる。
「本当だ。証人もいる」
俺はそう言って視線をフルプレートに指す。
「なんじゃ、こやつは。こんな胡散臭い奴が証人なのか?」
うーむ。本人を前によくズケズケと言えるな……。たしかにリーナの言うこともごもっともなので、反論する気にはなれないってのもあるが。
何より目を見張るのはフルプレートの着ている鎧である。名を金剛鎧という。最上級の金剛石を装飾としてあちこちに取りつけたものである。金剛石というのは魔法の力を高める石である。その純度が高いものを鎧に使っているのだ。
ちなみにそのお値段はたいへん高い。しかも製造された数も少ないので、世界中でも所持できるような人間は限られている。その鎧を着た人間が俺の目の前にいるのだ。しかも機翔竜に乗って。存在そのものが希少である。
そんな鎧を着こんでおきながら、首からロケットペンダントを下げているのが印象的である。見た目は豪奢というわけではないが、それでも凝った意匠だということは素人目からでも十分にわかる。
「こんな格好をしているのは、それなりに事情があるのですよ」
「その事情はこれから話してもらえるのですか?」
「そうしたいのは山々ですが、それはまたの機会にしましょう」
どういうことだ? そう訊ねようとしたときだった。
目の前が急に暗転をはじめ、いま見ている光景が徐々に遠のいていく。
それから再び目を見開いたとき、俺はコントローラーを握って、モニターの前にいた。
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