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幾何学的な模様の樹皮は不安な印象を与えてくる。その枝から大輪の赤や白の花が咲き誇っている。
大樹はさらに御柱を天上へと伸ばし、枝葉は横へ横へと広がっていく。このまま生長速度を維持すれば、墨田区一帯が呑まれてしまうことだろう。
気づけば俺のいる場所も枝葉に覆われはじめて、陽の光も幾重に重なった枝葉によって、あたりは薄暗くなっていく。
まわりがやけに物静かになっていく。それに従って俺は耳をよく澄ませて、あたりの警戒にあたった。すると、頭上付近の枝葉がガサガサと動きはじめる音を聞き取る。
それがどういう前触れなのかを直感的に感じとった俺は、ガルダートにその場から待避するよう命令する――と同時に、枝が鋭利な刃となって、頭上から襲いかかってくる。
俺はそれを何とかかわしつつ、剣で切り払う。
「やるわね、勇者様。さっきの攻撃をかわすなんて」
枝先からトゥークリフトがぬーっと溶け出るように現れる。
「こいつ!」
俺はその姿を見るや、すぐに斬りかかる。だが、トゥークリフトは木の中に溶けてしまい、剣は空を虚しく斬るだけであった。
俺は舌打ちして、その場から離れる。おそらく奴には擬態かそれに近い能力があるのだろう。
周辺が薄暗いせいもあって、いつ襲撃を受けてもおかしくない状況だ。案の定、ガルダートの足元が盛りあがっていく。それはやがてワニの口になって、ガルダートごと俺たちを噛み砕こうとするところを飛びあがってかわす。
「リーナ、今度はここにいろよ!」
「どういうことじゃ?」
リーナの問いかけには答えずに、俺はガルダートの背中かから飛び降りて、ワニの眉間を狙って剣を突き立てる。その行動はワニにとって意外だったのだろう。回避運動も遅れて、浅いながら眉間に一撃を与えることに成功する。
ワニは一度よろめいたかと思うと、次第にその姿をしぼませて人型になっていく。その人型の正体はトゥークリフトであった。
「残念。さっきの一撃で死んでもらうつもりだったんだけどね」
トゥークリフトは額を抑えながら、くすりと笑う。だが、その瞳の奥に宿る殺気の炎までは容易に覆い隠せるものではない。
俺は剣を構え直して、トゥークリフトの一挙一動に警戒をする。
「怖い怖い。今回の勇者様はなかなか鋭いようね」
トゥークリフトは額から流れる血を拭き取って、それを舐めとる。随分と余裕のある態度であるが、それはあくまで俺の油断を誘うためだろう。
幾ばくかの時間の間、俺とトゥークリフトは睨みあいを続ける。奴が行動を起こしたのは不意に口を斜めに釣りあげたときだった。
ハッと気がつき、俺は斬りかかる。だが、狙いは俺ではなかった。
「何をする! わらわに触れるでない!」
リーナが後ろで悲鳴をあげる。悲鳴に釣られて後ろを振り返るとリーナがいつの間にか蔓に羽交い締めにされていた。
「人質のつもりか?」
「まさか」
トゥークリフトはにやりと意地の悪い笑みを浮かべると、リーナを虚空へと放り投げた。空を飛べるわけでもない彼女は重力の虜となり、地上へと墜ちていく。
「ガルダート!」
俺は叫んでガルダートにリーナの救援を命じていた。
「さすがね。大正解よ」
俺がリーナに気をとられていると、剣を握っている右手が木の蔓に絡めとられる。
――しまった。これじゃあ身動きがとれない。
「あなたはきっとこうすると思ったわ。判断力がいいのも考えものね」
それはつまり、俺が飛んで助けに行かずに、ガルダートに行かせたことを言っているのだろう。この状況は自分が仕込んだものだとトゥークリフトは言っているのだ。
この状況を自力で打開するのは相当難しい。俺は動きのほとんどが制限されてしまった。従って、奴も俺のとる行動が予測しやすい状況下にある。
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