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ストルレグス(世界の狭間にある境界線)の勇者と巫女  作者: あかつきp dash
第三章 アルシュリオン・オンライン
18/40

 高校へ到着したあと、俺は里奈を職員室に案内して、一応の役目を終えた。

 時計を見ると授業まで時間がある。さて、どうしたものかと考えていると、いつの間にか足はパソコン部の部室に向かっていた。

 開いているかなと思ってドアに手をかけると、ドアは難なく開いた。どうやら、誰か来ているらしい。もっとも“誰か”には大体の心当たりがある。というか、この時間にいる人物など一人しかいない。

「仁和先輩、学校に来てまでネトゲですか?」

 モニターの前でゲームに熱中している男子生徒が仁和好城。二年生の先輩で、パソコン部の部員とは思えないほどに体格がいい。

「これは俺の日課だぞ。俺の朝練はアルシュリオン・オンラインをプレイすることだ」

「……そうですか」

 俺は仁和(にんな)先輩の隣から画面を覗く。いまは町で武器を見ているようだった。

重眼剣(ヘビーアイソード)、欲しいよなぁ」

「装備できるようになったんですか?」

 重眼剣とは剣の一種である。剣の中ではもっとも重いとされている。長さは二メートル近くあり、その先端部分に鉄球をはめこんである。その先端部分がまるで目のように見えるから、重眼剣と呼ばれている。

「いやー、道のりは遠いよ」

「先輩はドワーフなんだから、可能性はあるんですよね?」

 重眼剣はその重量のせいで装備できるのがドワーフ族だけと言われている。ドワーフというのはアルシュリオン・オンラインに出てくる種族で、もっとも体格の大きい種族のことである。

「もちろん。ドワーフの冒険者なら全員目指すところだからな」

 ドワーフは重眼剣を装備できるようになって一流と言われている。重鎧も装備できて、攻守を兼ね備えた戦闘では花形の種族だ。

 そのおかげでアルシュリオン・オンラインでは人気の種族である。おそらくゲームプレイ時に種族を選べたなら、きっと多くがドワーフを選ぼうとしただろう。

「この前、パーティー組んだんだけどさ。やっぱりスアール族の魔法は頼りになるよ」

 スアール族というのは白い肌に耳の尖った小柄な種族だ。その体格のおかげで肉弾戦は不得意だが、魔法を使わせると全種族ではトップクラスの優秀さを誇る。

「ディナウ族もよかったって言ってたじゃないですか」

 ディナウ族とは尖った耳にスラリとした長身と褐色の肌が特徴の種族だ。魔法力はスアール族より落ちるも恵まれた体格で肉弾戦を得意とする。重い武器も使いこなし、魔法も併用する攻撃性の高い種族である。

「なんか頭のよさそうな奴ばっかりなんだよ。パーティー組むときはレイヴェ族とかのほうが気は楽だな」

「レイヴェ族は足の速さしか取り柄がないとか言ってたじゃないですか」

 レイヴェとは獣の耳と尻尾の生えた種族で獣になれる。魔法は苦手で物理攻撃力が得意。それと素早いのが特徴である。

 ちなみにそれと反対の性能を持ったメロウ族なんてのがいる。耳が魚のヒレみたいになっていて、水中では下半身が魚になって自由に泳げる。人魚と言ってもいいかもしれない。

「盗賊スキル持ってる奴が多いから、ダンジョン探索するときの難易度が激変するんだぞ」

「じゃあ俺が使っているマルア族はどうですか?」

 そう問われて仁和先輩は考えこむ。そんな難しい質問だったか?

「空を飛べるからフィールドじゃ重宝するよな。まあ、フェアル族もそうだけど」

 マルア族とフェアル族というのは空が飛べるというのが最大の特徴である。マルア族は空を飛ぶときに鳥の羽が生えて、フェアル族は昆虫の羽が生える。他にマルア族は滞空時間が長い代わりに飛行速度が遅い。逆にフェアル族は滞空時間が短く、飛行速度が速い。

「ドワーフ族がいたら、スアール族とルミハ族がいるといいな。あとは何だかんだでディナウ族が安定する」

 ルミハ族はドワーフ族と対を成す種族で、額に宝石のような石が埋めこまれている。他に体格は小さく魔法力が高い。とりわけ治癒系の魔法で強力なものが使える。いるといないとでは難易度が激変すると言われている。

「マルア族はイロモノ扱いですか……」

 俺は思わず嘆息をつく。飛行できるのが最大の特徴だが、その特徴を殺される状況も多いのである。つまり戦力としてはいまいち安定しないということだ。

「そういえば富流羽の進み具合はどうなんだ? 学士なんだろ」

 学士というのは遺跡探索や調査なんかを生業とする職業である。戦闘力は低くて、危険な遺跡へ侵入するときは冒険者を雇ったりしかければいけない。

 昨日は学士として遺跡に潜っていたところを里奈とばったり出くわして、そのまま魔竜との戦いに巻きこまれたのだ。まあ、この話を先輩にする気はないのだが。

「学士って地味ですよ。お金の工面ばっかりですから」

 遺跡の発掘や調査が主な仕事の学士だが、大半の時間に費やされるのは金策であり、それに比べれば遺跡調査などほんの少しの割合だ。

「このゲームってさ。最初に種族も選べないし、職業の自由すらない。アバターもいじれないし、名前はデフォルトで用意されたのを強制だしな」

 そこがこのゲームの変わったところである。だから、学士の俺と冒険者の先輩ではスタート地点がまるで違う。誰もが剣を持って世界を冒険をするわけではないのだ。

「ところで先輩は勇者と巫女って聞いたことあります?」

 俺はなるたけ不自然な態度にならないよう、さらりと訊ねてみる。

「あるぞ。選ばれた奴は異世界に送られて魔竜と戦うことになるんだろ」

「結構、有名な話なんですか?」

 学士の俺はまったく知らなかったのだが。いや、ひょっとしたら聞いたことがあっても、自分には縁遠い話だと思って聞き流していただけかもしれない。

「冒険者の間では結構聞く話だぞ。ただ、選ばれた人間は表立って公表されることはないとも聞く。それに魔竜との戦いから帰還したって話も聞かない。俺も知ってるのは噂程度の話ばかりだよ」

 すると先輩は「あ、そういえば」と何かを思い出したようだ。

「俺、いまスアール族の国にいるって話はしたよな」

「ええ。たしかラムラス王国でしたよね」

 八つの種族は種族単位で国を治めているのだ。ラムラス王国はスアール族が中心になって治めている国である。

「そこにとても美しいスアールの姫がいるって話なんだがな」

「それなら俺も聞いたことありますよ」

 現ラムラス国王と妾の間にできた娘らしいのだが、その美しさは国境を越えて各国に評判が行き渡っている。

「なぜか数日前に王家から追放処分を受けたらしい。その理由について様々な憶測が飛び交っているんだが、その中でもっとも信憑性のある話がその姫が巫女に選ばれたって話だ」

「お姫様が巫女にですか? すると、どうなるんですか?」

「噂では三日以内に勇者を選ばないと、巫女は一人でストルレグスって異世界に転送されるらしいんだが、何でも姫様は勇者を選べずに城を逃亡したらしいんだよ」

 あれ? どうして里奈の――リーナの顔が俺の頭を過ぎるんだ?

「巫女に選ばれた勇者はどうなるんですかね?」

「知らねえよ。さっきも言っただろ。帰還したって話を一切聞かないって。てことは、帰って来れてないことじゃないのか。あーでも、巫女が殺されるとすぐに次の巫女が選ばれるって話だから、お姫様が巫女に選ばれたってことは前の巫女は殺されたってことなのかな」

 さらっと先輩は恐ろしいことを言った。ひょっとしたら勇者に選ばれたかもしれない人物が目の前にいるなんて夢にも思っていないだろう。

「おはようございます。やっぱり、ここにいたんですね」

 俺が呆然としているところを猫だましでもしかけてくるように、パソコン部のドアが開けられる。開けたのは来夏であった。

 今日は髪を後ろにくくってポニーテールにしている。学校などでは髪をくくっている姿がほとんどだ。休日のときの髪をおろしているのもよく似合っているが、こちらもよく似合っていた。

「仁和先輩は相変わらずゲームですか。駄目ですよ。学校のパソコンでゲームなんて」

 来夏は優しく先輩に注意を促す。先輩も思わず「すまん」と頭を下げていた。俺とはやけに対応が違うのが引っかかる。

「薫人くんが早めに登校するって情報を得たので、私も早めに登校したんです」

 来夏は楽しそうに笑顔を浮かべる。ああ、間違いなく企みごとがあるときの表情だ。これはいけない。

「生徒会からポスターを張り替える仕事をもらってきました。手伝ってもらえますよね?」

 やっぱりなぁ。その言葉は優しいものの、強制力の強いものだ。何より俺が断らないことを彼女はよく知っていた。

「……わかったよ」

「それでは行きますよ」

 来夏は俺にポスターや小道具を強引に押しつけてくる。

「やけにポスターの量が多くないか?」

 この量を張り替えるのは、朝の時間だけでは厳しいような気がした。

「はい。ですので、昼休みと放課後も使ってくれて構わないとのことです」

 その返答に、俺は思わずポスターを落としそうになってしまった。そうならなかったのは来夏がすぐにポスターを手で抑えてくれたからだ。

「もう。気をつけてくださいね」

「……はい」

 俺は彼女に聞こえるか聞こえないかくらいの小声で返事をしていた。


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