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ストルレグス(世界の狭間にある境界線)の勇者と巫女  作者: あかつきp dash
第三章 アルシュリオン・オンライン
16/40

 来夏と別れて、俺は里奈を連れて自宅へ帰宅した。母さんが里奈を歓迎の抱擁をかわしたあと、俺が彼女を部屋まで送ることになった。母さんは夕飯の準備で忙しいらしい。

「ここが里奈の部屋だよ」

 それにしても、俺の家に都合よく空き部屋があったもんだな。その家に住んでいる俺が言うのも何ではあるが。

「いい部屋ではないか。気にいったぞ。何より、人の隠れるスペースがない」

 気にいるところがそこなのか。いままでどんな家にいたんだ。

「ところで、ゲームでの出来事については教えてもらえるのか?」

「ゲーム?」

 何のことだという表情で里奈は首を傾げている。

「おいおい。そりゃないだろ。こっちは状況もわかんないまま戦わされたんだぞ」

 しかも命を危険にさらしてまでだ。ゲームの話だけど。

「そんなこと言われてものう。わらわもよくわかっておらぬのじゃ」

「ゲーム内じゃ、何でも知ってますみたいな感じだったじゃないか」

「そんなもん知らん。知らんもんは知らん」

 だからって何でそんなに偉そうな物言いなんだ。

「だったら、知っていることを教えてくれよ」

「わらわが知っているのは、わらわは巫女に選ばれたということくらいじゃ」

「巫女?」

「巫女に選ばれたら、三日以内に勇者を選定して旅立たねばならん。そこでわらわはぬしを選んだというわけじゃの」

「普通は由緒ある血縁とかが勇者に選ばれるんじゃないのか?」

「ガルダートと契約するのに、そんなものは無意味じゃ。あの機翔竜には過去あった戦闘をずっと記録できるらしくての。その記録をそのまま契約した者に体感レベルまでにフィードバックさせるらしいのじゃ」

 そのあとに「わらわも教えてもらっただけじゃから、ようわからんがのう」と付け足した。要するにガルダートと契約したことで、俺に過去の戦闘データ諸々をインストールしたってことか。それでグズの素人もたちまちに剣の達人にしてしまったというわけだ。

 だが、記録だけじゃ仕方がないだろう。それに伴う身体能力がないと記録は生かせなければ。じゃあ、何で俺はあの状況で戦闘記録を駆使できたのだろうか。

 しばらく考えこんで、俺は機翔竜の設定を思い出す。そういえば機翔竜と契約したら、身体能力が補強されるんだったな。そもそも機翔竜自体が魔竜に対抗するために造られた存在なのだ。

「それじゃあさ。ストルレグスって何なんだ? 跳ばされたと思ったら東京上空にいたのはどうしてなんだ?」

「知らん。わらわはストルレグスがどんなところかも聞いておらなんだ」

 ほんとかよ、と俺は眉根にしわを寄せる。里奈はそんな俺が気にいらないのか、どんどん機嫌を悪くしていく。

「話はもうよいか。わらわはもう疲れた。休ませてくれんか」

 そう言われちゃ仕方がない。とりあえず情報収集は独自でやる必要があるということだろう。

「それじゃあ、何かあったら声をかけてくれ」

「うむ。よしなにな」

 里奈はベッドに寝転びながら、手を振ってくる。俺は里奈の部屋をあとにした。

「薫人ー」

 階下から俺を呼ぶ声がした。母さんである。何か用だろうか。

「どうしたの?」

 俺は階段を降りて、台所に顔を出す。

玲美(れみ)ちゃんを夕食に誘ってあげて」

「家にいるのかな?」

「朝から図書館に行くって言ってたけど、もう家に帰っているはずよ」

「何で母さんがそこまで知っているんだよ?」

「休日出かけたりする時は私に連絡するっていう取り決めを、あちらのご両親としたのよ」

「責任重大だなぁ」

「玲美ちゃんは娘も同然だからね。さあ、迎えに行ってきなさい」

 俺は降参の合図をして、家の外へ出た。

 玲美??瑠東玲美はいわゆるお隣に住む幼なじみという関係になろうか。両親同士がここに住みだしてから一〇年来の長い付き合いになる。

 で、どうして玲美が俺の家で夕飯を食べるという話になっているかというと、彼女の両親が海外へ長期出張へ行ってしまったからだ。そこで俺の家でもある程度は面倒を見ようという話になったのだ。

 俺は玲美の家のチャイムを鳴らす。そうすると、まず聞こえる声は犬の鳴き声だ。この家ではプードルを飼っている。それから続けて女の子の声が聞こえてくる。

「どちらさまですか?」

「俺だよ」

「俺という人はご存じありませんが」

 扉の向こうから冷たい返事が返ってくる。もちろん、俺のことがわからないわけではない。知ってやっている。

「おい。そりゃないぞ」

 それからしばらくして鍵の開く音がする。すると、ドアが開いてプードルが尻尾を振りながら駆け寄ってくる。

「キュール」

 俺は名前を呼んで抱きあげてやる。

「どうかしたの?」

 中から現れたのは俺と年の変わらない娘だ。長い髪は後ろで束ねて、愛嬌のある顔立ちをしている。白い長袖シャツにグレーのノースリーブニットに、赤いミニスカートというなかなかの薄着である。きっと部屋着なのだろう。

「母さんが夕飯一緒にしないかってさ」

「でも、悪いわ」

「そう言うなよ。今日は紹介したい人もいるんだ」

「薫人の彼女?」

「んなわけあるかよ。今日から従姉妹が俺の家で暮らすんだ」

「おばさまが言っていた娘よね。可愛いの?」

「それは自分の目でたしかめてくれ」

 そんな会話をしていると、奥からやってくる音がもう一人分聞こえた。いまは玲美が一人暮らしをしているはずなのに、どうして……なんて思っていると、すぐに氷解した。

「ひょっとして、薫人が来てるのかい?」

一浩(かずひろ)。お前ら、家でデートだったのかよ」

 朝田(あさだ)一浩は外行きの格好で現れる。どうやら、図書館にはこいつも一緒だったようだ。ちなみに彼も俺の幼なじみの一人だ。

「それじゃあ、そろそろ僕は帰ろうかな」

「一浩、お前も両親は海外赴任中だろ。よかったら、一緒に来るか?」

「さすがに僕は遠慮しておくよ」

 そう言って一浩は帰る準備をはじめる。

「俺が言うのもなんだけど、遠慮はする必要ないぞ」

「そう言うのじゃないよ。僕も家で待っている人がいるんだ」

 そういえば、こいつには妹さんがいたんだった。

「ま、そういうことなら仕方ないな」

「従姉妹さん、また紹介してよ」

「変な奴だから覚悟しておけよ」

「薫人がそう言うんなら楽しみだよ」

 それから一浩は玲美に「また連絡するよ」と声をかけて、家へ帰ってしまう。

「……ひょっとして、邪魔したか?」

「一浩がそんなこと思うわけないでしょ。お互い、いつからの付き合いだと思っているの」

 それもそうかと俺は納得する。

「それじゃあ、もう行ったほうがいいよね」

「そうだな。って言っても、そんなに準備することはないだろ」

「薫人がそうなだけで、私にはいろいろあるのよ」

 何か気になるのか、玲美はしきりに自分の服の臭いを嗅いだりしている。どうせ身内しかいないんだし、あんまり気にする必要はないんだけどな。

「キュールはどうするんだ?」

「留守番してもらうわ。従姉妹さんが犬嫌いかもしれないし」

 なるほど。言われてみれば、そういう可能性はあるな。キュールは人懐こいので、誰彼構わずに飛びつく癖がある。犬嫌いからしてみれば恐怖でしかないだろう。

「キュールの餌やっておこうか?」

「ごめん。助かるわ」

「餌は台所だよな」

 俺はキュールを抱きかかえたまま、家にあがって台所へ向かう。

 キュールの食べるドッグフードは餌箱の近くにあるプラスチックの箱の中だ。俺がその場所をよく知っているのは、たまに玲美から餌やりを頼まれるからだ。

 キュールに餌をやるついでに、俺はふと台所の周辺を見わたしてみる。ここ最近はあまり使っていないのだろう、台所はよく片づいていた。そもそも玲美は料理をするのが好きというわけでもない。朝も夕食もよほどのことがないかぎりは俺の家で食べている。それは彼女の両親との約束事の一つもでもあった。

「留守番よろしくな」

 餌を食べはじめるキュールを撫でながら、俺は声をかけていた。

「薫人、行くわよ」

 準備のができたのか廊下から玲美が声をかけてくる。

「わかった。すぐ行く」

 二人で揃って外に出ると、玄関にはなぜか里奈がいた。

「里奈、どうしたんだ?」

 俺が訊ねると、里奈は不機嫌そうな顔をこちらに向けてくる。

「……わらわは暇をしておる」

「どうしろってんだよ」

「薫人、この人が従姉妹の?」

 俺が返事に困っていると、玲美が横から聞いてくる。

「そうだよ。片岡里奈さん。一応、年上だ」

 紹介された玲美はぺこりと小さくお辞儀をする。それに対して、里奈は尊大な態度で「うむ」と頷いてみせた。

「一応とはなんじゃ。失礼な奴じゃの」

 肩を怒らせながら抗議してくるが、俺は無視をする。

「里奈、彼女は蔵脇玲美。お隣さんだ」

「年上なのにタメ口なんだね」

 玲美が苦笑いをする。里奈にはあまり敬語を使う気にならないのだから仕方がない。どうしてかと理由を考えてみるが、おそらくは出会った経緯が全てなのだろう。

「夕飯までもう少しなんだから我慢してろよ」

「退屈は我慢しないと決めておるのじゃ」

 その相手は誰がするというんだ。なかなか面倒な奴である。

「ダメだ。やることないなら家のこと覚えろよ」

 俺は自分でもかなりきついと思う口調で言った。すると、里奈は少し驚いたような表情でたじろぐ。

「ほら。行くぞ」

 俺は里奈の手を半ば強引に取り、我が家へ連れて帰る。

 家に帰ると母さんが玄関で笑顔で迎えてくれる。

「玲美ちゃん、いらっしゃい。早速で悪いんだけど、お料理作るの手伝ってもらえるかしら」

「はい、おばさま」

 玲美は小気味のよい返事をする。母さんも嬉しそうだ。玲美は母さんのお気に入りなのである。「里奈ちゃん、お風呂できてるから先に入らない?」

「う、うむ。わかった」

 里奈は状況がつかめていないのか、少し気圧された様子で了承する。

「それじゃ、薫人は里奈ちゃんをお風呂に案内してあげて。あと、使い方もきっちり説明するのよ」

「わかってるよ」

「あなたって子は気の利かないんだから。優しく、丁寧にしてあげること」

 最後に「でないとモテないわよ」と付け足される。大きなお世話と言いたいところだが、母さんに頭があがらないのも事実だ。俺はため息まじりに首を縦に振った。

「それじゃ、浴室に案内するぞ」

「うむ。よきにはからえ」

 俺はその返答にうなだれそうになるのを必死に我慢して、里奈を浴室へと案内する。

「そういや部屋着とかは持ってきてないのか?」

「部屋着とはなんじゃ?」

 俺は思わず黙考してしまう。どう切り返すべきだろうか。まあ、ここは無難に話題を変えてしまうべきだな。

「風呂くらいはわかるよな?」

「馬鹿にするでない。湯浴みするところであろう」

 こういう常識はとりあえず通じるらしい。俺は胸を撫でおろさずにはいられなかった。

「とりあえず、脱いだ服はそこのカゴへ入れてくれ。まさか、浴室のことまで説明はいらないよな?」

「わらわを馬鹿にするなと何度言わせる気じゃ。それより早うせぬか。気の利かぬ奴じゃ」

 里奈はなぜか両腕を組んで不満そうな表情を浮かべている。何だと言うんだ一体。

「城では常に使用人がいて、わらわの世話をしておったぞ」

「……何をしろって言うんだ?」

 何となく答えはわかってしまったが、それでも聞かずにはいられなかった。

「まず服を脱がせて、それから髪を編み、浴室で体を洗うのじゃ」

「待て。俺は男だぞ」

「では、誰がわらわの世話をするというのじゃ」

「そっちこそ、何を寝ぼけているんだよ。ここはゲームの世界じゃない」

 そんなことを俺が言うと、里奈は呆れた表情を浮かべる。

「ならば、この服はどうやって脱ぐというのじゃ。教えてくれれば、自分でやらんではないぞよ」

 教える? いや、待て。教えるってことは結局、里奈が服を脱ぐのを手伝うってことじゃないのか。里奈はたしかに身長は小さくて、体の作りも年齢にしては未発達なほうだろう。だが、だからといって女性として意識しないなんてことはあり得ない。

 彼女は顔つきだけ見れば文句なしの美少女なのだ。

「え――っと。里奈はいいのか? 俺に裸を見られるんだぞ」

「奇なことを言う。ぬしは飼い犬に裸を見られて恥ずかしがるのか?」

 彼女はさも当たり前とでも言うように、ただ俺に言い放った。その言葉には衝撃というよりも、ただただ呆然とするしかなかった。

「ほれ、何をボーッとしておる。早うせんか」

 何と惨めだろうか。俺は男とすら認識されていないらしい。だが、それでも俺は男だ。里奈を近くにして、気持ちの高ぶりを感じずにはいられなかった。

「まずだな。上着はボタンを外さないとダメだ」

 俺は里奈のカーディガンのボタンを一つずつ外していく。年も変わらない少女の服を脱がせていくという、未だかつてない体験に心臓は嫌でもバクつく。ボタンを外していく手が震えるのが自分でもわかった。

「これで脱げるはずだ」

 里奈はカーディガンをゆっくり脱ぐと俺に渡してくる。

「次はどうするのじゃ?」

 次? 次はどうするって、本気で言ってるのか? 次脱いだら下着姿だぞ。俺にどうしろって言うんだ。もうわざとじゃないのかと俺は疑いたくなる。

 いや、待て。だが、これは千載一遇のチャンスじゃないか。この機会を逃したら、次の女の子の下着姿を目にするなんて、いつのことかわかったもんじゃない。

 ゴクリと喉が鳴る。こうなったら覚悟を決めるべきだ。

 俺はカーディガンを折りたたんで、カゴに入れる。

「ブラウスも前のボタンを外すんだ」

 俺は里奈のブラウスのボタンをゆっくりと外す。里奈の吐息が間近で聞こえる。特になんてことはない。ただ呼吸してるだけだ。なのに妙に艶かしく聞こえた。

 おまけにいい匂いが鼻をくすぐってくる。女の子というのはこんなにいい匂いがするものなのか。

 そしてついにブラウスのボタンをすべて外すと、俺は里奈にブラウスを脱ぐよう指示をする。これで上はキャミソールの薄布一枚だけだ。

 冷静になろう。これはあくまで合意のうえである。俺は何一つ咎められるようなことはしていない。つまりここから先は、俺が彼女の裸体を拝むことになっても致し方ないということだ。

 それにしても、俺に裸をみられるかもしれないというのに、里奈は眉一つ動かそうとしない。本当に俺のことは犬としか思っていないようだ。

 いくら彼女が俺を飼い犬だと思おうが、俺は立派な一人の男である。こんなものを見せられて正常でいるほうが無理というものだ。

 里奈はブラウスをカーディガンと同様に押しつけてくる。もう上はキャミソール一枚だ。これは夢ではない。そう、決して夢ではない。

「次は何を脱ぐのじゃ?」

「きゅ、キュロットだ」

 俺は中腰になりながら、キュロットのホックを外して下へずらしていく。キュロットがカチャカチャ音を立てながら、衣擦れしている。それが何とも扇情的である。

 俺の目の前にはいま黒のストッキングに包まれた水色の縞々パンツがあった。

 いいのだろうか? 本当にいいのだろうか? だが、いや待て。いま、この状態で立つと大変なことになるぞ。ど、どうしたらいいんだ……。

 と、そんなことを考えている間に俺の手はいつの間にかストッキングをずらしにかかっていた。もう本能には逆らえないらしい。

 いや。そもそも逆らうことに意味があるだろうか? 答えは否である。

 その言葉と共に何かが俺の中で弾けた。と同時に事件は起こった。

「薫人、お風呂で何やってるの?」

 玲美が何の前触れもなく、脱衣所に入ってきたのだ。

 突然の闖入者に、俺は勢いあまってストッキングを一気におろしてしまう。

「の、ノックくらいしてくれないか。ほら、取りこみ中だしさ」

 俺は何を思ったのか、玲美に見せつけるように両手で脱がせたストッキングを持ちあげる。

 対して玲美はしばらく呆然としていた。おそらく、何が起こっているのかが完全に理解できていないのだろう。だからといって、この状況で正気に戻られるのも困る。

 どうしよう? どうしようか……。どうやって言い訳をしようか。いや、そもそもなんで言い訳なんてしようと思ったのか。

「……薫人」

 それがいかに無駄なことであるか、俺はすぐさまに思い知った。

 なあ、玲美。俺はたしかに里奈の服を脱がせていたけど、あれは合意のうえなんだぞ。そんなこと言っても信じてはくれないのだろう。

 玲美は右手を振りかぶり、俺の頬を勢いよくはつる。俺の頬を叩く音が脱衣所に子気味よく響くのであった。

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