2-7
「まず服を脱がせて、それから髪を編み、浴室で体を洗うのじゃ」
「待て。俺は男だぞ」
「では、誰がわらわの世話をするというのじゃ」
「そっちこそ、何を寝ぼけているんだよ。ここはゲームの世界じゃない」
そんなことを俺が言うと、里奈は呆れた表情を浮かべる。
「ならば、この服はどうやって脱ぐというのじゃ。教えてくれれば、自分でやらんではないぞよ」
教える? いや、待て。教えるってことは結局、里奈が服を脱ぐのを手伝うってことじゃないのか。里奈はたしかに身長は小さくて、体の作りも年齢にしては未発達なほうだろう。だが、だからといって女性として意識しないなんてことはあり得ない。
彼女は顔つきだけ見れば文句なしの美少女なのだ。
「え——っと。里奈はいいのか? 俺に裸を見られるんだぞ」
「奇なことを言う。ぬしは飼い犬に裸を見られて恥ずかしがるのか?」
彼女はさも当たり前とでも言うように、ただ俺に言い放った。その言葉には衝撃というよりも、ただただ呆然とするしかなかった。
「ほれ、何をボーッとしておる。早うせんか」
何と惨めだろうか。俺は男とすら認識されていないらしい。だが、それでも俺は男だ。里奈を近くにして、気持ちの高ぶりを感じずにはいられなかった。
「まずだな。上着はボタンを外さないとダメだ」
俺は里奈のカーディガンのボタンを一つずつ外していく。年も変わらない少女の服を脱がせていくという、未だかつてない体験に心臓は嫌でもバクつく。ボタンを外していく手が震えるのが自分でもわかった。
「これで脱げるはずだ」
里奈はカーディガンをゆっくり脱ぐと俺に渡してくる。
「次はどうするのじゃ?」
次? 次はどうするって、本気で言ってるのか? 次脱いだら下着姿だぞ。俺にどうしろって言うんだ。もうわざとじゃないのかと俺は疑いたくなる。
いや、待て。だが、これは千載一遇のチャンスじゃないか。この機会を逃したら、次の女の子の下着姿を目にするなんて、いつのことかわかったもんじゃない。
ゴクリと喉が鳴る。こうなったら覚悟を決めるべきだ。
俺はカーディガンを折りたたんで、カゴに入れる。
「ブラウスも前のボタンを外すんだ」
俺は里奈のブラウスのボタンをゆっくりと外す。里奈の吐息が間近で聞こえる。特になんてことはない。ただ呼吸してるだけだ。なのに妙に艶かしく聞こえた。
おまけにいい匂いが鼻をくすぐってくる。女の子というのはこんなにいい匂いがするものなのか。
そしてついにブラウスのボタンをすべて外すと、俺は里奈にブラウスを脱ぐよう指示をする。これで上はキャミソールの薄布一枚だけだ。
冷静になろう。これはあくまで合意のうえである。俺は何一つ咎められるようなことはしていない。つまりここから先は、俺が彼女の裸体を拝むことになっても致し方ないということだ。
それにしても、俺に裸をみられるかもしれないというのに、里奈は眉一つ動かそうとしない。本当に俺のことは犬としか思っていないようだ。
いくら彼女が俺を飼い犬だと思おうが、俺は立派な一人の男である。こんなものを見せられて正常でいるほうが無理というものだ。
里奈はブラウスをカーディガンと同様に押しつけてくる。もう上はキャミソール一枚だ。これは夢ではない。そう、決して夢ではない。
「次は何を脱ぐのじゃ?」
「きゅ、キュロットだ」
俺は中腰になりながら、キュロットのホックを外して下へずらしていく。キュロットがカチャカチャ音を立てながら、衣擦れしている。それが何とも扇情的である。
俺の目の前にはいま黒のストッキングに包まれた水色の縞々パンツがあった。
いいのだろうか? 本当にいいのだろうか? だが、いや待て。いま、この状態で立つと大変なことになるぞ。ど、どうしたらいいんだ……。
と、そんなことを考えている間に俺の手はいつの間にかストッキングをずらしにかかっていた。もう本能には逆らえないらしい。
いや。そもそも逆らうことに意味があるだろうか? 答えは否である。
その言葉と共に何かが俺の中で弾けた。と同時に事件は起こった。
「薫人、お風呂で何やってるの?」
玲美が何の前触れもなく、脱衣所に入ってきたのだ。
突然の闖入者に、俺は勢いあまってストッキングを一気におろしてしまう。
「の、ノックくらいしてくれないか。ほら、取りこみ中だしさ」
俺は何を思ったのか、玲美に見せつけるように両手で脱がせたストッキングを持ちあげる。
対して玲美はしばらく呆然としていた。おそらく、何が起こっているのかが完全に理解できていないのだろう。だからといって、この状況で正気に戻られるのも困る。
どうしよう? どうしようか……。どうやって言い訳をしようか。いや、そもそもなんで言い訳なんてしようと思ったのか。
「……薫人」
それがいかに無駄なことであるか、俺はすぐさまに思い知った。
なあ、玲美。俺はたしかに里奈の服を脱がせていたけど、あれは合意のうえなんだぞ。そんなこと言っても信じてはくれないのだろう。
玲美は右手を振りかぶり、俺の頬を勢いよくはつる。俺の頬を叩く音が脱衣所に子気味よく響くのであった。
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