2-6
「薫人、行くわよ」
準備のができたのか廊下から玲美が声をかけてくる。
「わかった。すぐ行く」
二人で揃って外に出ると、玄関にはなぜか里奈がいた。
「里奈、どうしたんだ?」
俺が訊ねると、里奈は不機嫌そうな顔をこちらに向けてくる。
「……わらわは暇をしておる」
「どうしろってんだよ」
「薫人、この人が従姉妹の?」
俺が返事に困っていると、玲美が横から聞いてくる。
「そうだよ。片岡里奈さん。一応、年上だ」
紹介された玲美はぺこりと小さくお辞儀をする。それに対して、里奈は尊大な態度で「うむ」と頷いてみせた。
「一応とはなんじゃ。失礼な奴じゃの」
肩を怒らせながら抗議してくるが、俺は無視をする。
「里奈、彼女は蔵脇玲美。お隣さんだ」
「年上なのにタメ口なんだね」
玲美が苦笑いをする。里奈にはあまり敬語を使う気にならないのだから仕方がない。どうしてかと理由を考えてみるが、おそらくは出会った経緯が全てなのだろう。
「夕飯までもう少しなんだから我慢してろよ」
「退屈は我慢しないと決めておるのじゃ」
その相手は誰がするというんだ。なかなか面倒な奴である。
「ダメだ。やることないなら家のこと覚えろよ」
俺は自分でもかなりきついと思う口調で言った。すると、里奈は少し驚いたような表情でたじろぐ。
「ほら。行くぞ」
俺は里奈の手を半ば強引に取り、我が家へ連れて帰る。
家に帰ると母さんが玄関で笑顔で迎えてくれる。
「玲美ちゃん、いらっしゃい。早速で悪いんだけど、お料理作るの手伝ってもらえるかしら」
「はい、おばさま」
玲美は小気味のよい返事をする。母さんも嬉しそうだ。玲美は母さんのお気に入りなのである。「里奈ちゃん、お風呂できてるから先に入らない?」
「う、うむ。わかった」
里奈は状況がつかめていないのか、少し気圧された様子で了承する。
「それじゃ、薫人は里奈ちゃんをお風呂に案内してあげて。あと、使い方もきっちり説明するのよ」
「わかってるよ」
「あなたって子は気の利かないんだから。優しく、丁寧にしてあげること」
最後に「でないとモテないわよ」と付け足される。大きなお世話と言いたいところだが、母さんに頭があがらないのも事実だ。俺はため息まじりに首を縦に振った。
「それじゃ、浴室に案内するぞ」
「うむ。よきにはからえ」
俺はその返答にうなだれそうになるのを必死に我慢して、里奈を浴室へと案内する。
「そういや部屋着とかは持ってきてないのか?」
「部屋着とはなんじゃ?」
俺は思わず黙考してしまう。どう切り返すべきだろうか。まあ、ここは無難に話題を変えてしまうべきだな。
「風呂くらいはわかるよな?」
「馬鹿にするでない。湯浴みするところであろう」
こういう常識はとりあえず通じるらしい。俺は胸を撫でおろさずにはいられなかった。
「とりあえず、脱いだ服はそこのカゴへ入れてくれ。まさか、浴室のことまで説明はいらないよな?」
「わらわを馬鹿にするなと何度言わせる気じゃ。それより早うせぬか。気の利かぬ奴じゃ」
里奈はなぜか両腕を組んで不満そうな表情を浮かべている。何だと言うんだ一体。
「城では常に使用人がいて、わらわの世話をしておったぞ」
「……何をしろって言うんだ?」
何となく答えはわかってしまったが、それでも聞かずにはいられなかった。
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