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2-3

「何を馬鹿なこと言ってるんだよ。言うこと聞かないと置いてくぞ」

「嫌じゃ。もう一歩も歩けぬ」

 里奈はそっぽを向いて、その場を動こうとしない。


「では、近くでお茶でも飲んでいきましょうか」

「付き合わせてもいいのか?」

「構いませんよ」


 それはそれで里奈は嫌そうな顔をする。要は来夏と一緒にいるのが嫌なのだ。来夏にもそのことは見抜かれているというのだから、里奈とはわかりやすい娘である。

「むぅ~……」


 里奈は頬を膨らませながらも、どうしようか思案しているようだった。

「考えこむようなことか。迷うくらいなら、さっさと帰るぞ」

 俺は里奈に背中を向けて歩きはじめる。すると、来夏も歩調を合わせるようにして、俺の横につく。


「不本意じゃーあっ!」

 だんだんと放っておかれる恐怖に取り憑かれたのか、里奈は一言叫んで俺たちのあとを走って追いかけてくる。里奈といても年上を相手にしてるって感じはまったくない。近所の子供を相手にしているような気分だ。


「ったく、困ったお嬢さんだな」

「手のかかる子ほど可愛いっていいますよ」

「俺は保護者かよ」

 俺が悪態をつく。


 横では来夏はくすりと笑みを浮かべていた。まったく人をからかって何が楽しいんだか。

 そこで俺は来夏の首から提げているロケットペンダントのことに気がつく。

「そのペンダント、そんなに気に入ったのか?」


 それは俺があげた物だった。と言っても、特別に高価な物ではない。近所のゲームセンターでとった景品の一つにすぎない。よくはできているほうだと思うが、それでも安っぽいラメ加工だというのは一目でわかる。


「学校に行くときも肌身離さず持っているんですよ」

「本当かよ?」

 俺は驚愕を隠せないままに訊ねる。すると、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべている。

「ええ。もちろん、首にかけてはいませんよ。お守りみたいなものですから」


「お守り、ねぇ」

 ゲームセンターの景品がお守りとは――それが自分のあげたものだとは何とも歯がゆい。

「ぬしらよ。わらわを置いて勝手に盛りあがるでない」

 いたのかとばかりに俺は振り返る。こんなしゃべり方をするのは里奈しかいない。


「ちゃんとついてこいよな」

「わらわを何だと思うておる」

 子供扱いされたことに里奈は腹を立てたのか、機嫌が悪そうだ。

「そこの店でアイス買ってやるから、機嫌直してくれないか?」

「そういうのを馬鹿にしていると言うのじゃ!」

 里奈はさらに声を荒げる。

「まあまあ」


 俺は里奈の腕を半ば強引にとって、店頭へ連れて行く。すると、そこではラジオが流れていた。『スカイツリーの完成もあと一年になりましたね』

 ラジオから流れてくる情報に、俺は首を傾げる。スカイツリーってもう完成していたんじゃなかったか? 


 そういえば、ゲーム内で派手にぶっ壊れたけど、それと関係でもあるというのか。……って、そんわけないよな。

「あいすというのはえらくカラフルじゃの」


 里奈は物珍しそうにアイスクリームを見ている。アイスクリームなんて、日本中どこにでも売ってるものじゃないのか。

「何でもいいから、さっさと選んでくれよ」

「わ、わかっておるわ!」


 そんなに怒らなくてもいいだろ。種類が豊富なので、迷うのはわからなくはないんだけどな。そんなことを思っていると、来夏が先に注文をはじめる。

「チョコミントと抹茶のダブルでお願いします」


 そう言うと店員が「かしこまりました」と答えて、注文を復唱していた。

「薫人よ……。さっきのは何の呪文じゃ?」

 里奈はやけに凄みのある表情で、俺に顔を近づけてくる。


「呪文も何もアイスの種類を頼んだだけだろ。まだ、迷うなら俺と一緒のにするからな」

 里奈は神妙な顔で何度も頷き、「ぬしに任せてやろう」と表情だけで語っていた。

 変わった女の子だなと心底感じながら、俺はアイスを二つ注文する。


「バニラとメロンのダブルを二つ」

 しばらくしてコーンにアイスの二つ乗ったアイスが手渡される。

「ほら、落とさないようにな」


 右手に持っている方を俺は里奈に差し出すと、少し体を固くしながら、両手で受け取る。

「面白い方ですね」

 来夏は俺にだけ聞こえるよう耳元で囁いてくる。それに関しては俺も同意だ。

「これは何をするものなんじゃ?」


「食べるんだよ。こうやって……」

 俺は一口アイスを食べてみせると、リナは呼応するように声をあげる。

 何というか、本当にアイスを知らないのだろうか。でも、日本に住んでいてアイスを知らないなんてことはないだろう。たしかに面白い反応ではあるのだが、謎も同じくらいに深まっていった。「なあ、来夏。スカイツリーってまだ完成してないんだよな?」


「さっきラジオでも言ってたじゃないですか。どうしたんですか?」

 そうか。そうだよな。あれはゲームの出来事なんだ。どれだけリアルな体験であったとしても。「おー、冷たくて甘いではないか。変わった食べ物じゃ」


 嬉しそうな声音に俺はとりあえず胸を撫でおろす。どうやら、お気に召したらしい。

「あんまり急いで食べるなよ。頭がキーンってなるから」

「わかっておる」


 さっきはじめて食べるようなこと言ってたのに、何をわかっているというのか。案の定、里奈は何口かを食べて頭を押さえている。

 その姿に俺は呆れて、来夏はおかしそうに笑っている。

 とりあえず、里奈から聞かなきゃいけないことは多そうだな。と、思いながら俺たちは三人で家路に着いた。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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