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2-2

 俺たちは駅から出て、とりあえず俺の家まで案内することにした。これから一緒に暮らすのなら、質問の機会はいくらでもあるはずだ。

 駅を出て、しばらく歩いていると、見知った顔が店から出てくる。


「薫人くん、今日はお出かけですか?」

「俺は彼女のお迎えだよ」

 そう言うと来夏(らいか)は、少し目を細めながら里奈へと視線を移すと、小さく頭を下げた。

「来夏は買い物か?」


「参考書が欲しかったので、本屋へ行ってたんですよ」

 腕に抱えた紙袋を少しだけ掲げてみせて、来夏は穏やかな口調でしゃべる。

 身長が一六六センチある俺と目線の高さはほとんど一緒だ。実際の身長はひょっとしたら少しだけ彼女のほうが少しだけ低いかもしれない。


 水色のチュニックに黒のレギンスというシンプルな服装だが、それが彼女の存在感を損なうような真似はしない。むしろ、そのシンプルさが相まって、彼女の素材のよさをより引き立たせていたといってよかった。


 全体的にほどよい肉付きの体にしっかりと縦に張った背筋はモデルと見紛いそうになる。それにくっきりと整った目鼻。こうやって会話している間にも、彼女とすれ違った通行人が思わず振り返っているのを何度も見ていた。


 そよ風が吹いて、彼女の背中まで伸びた黒髪をひらひらと揺らす。それを手で梳くときの仕草がまた風情を感じさせた。

「高校でも学年上位を狙っているのか?」


「何ごとも目標は持つべきですから」

 来夏とはこういう答えが返ってくる少女である。

「ぬしよ。二人で勝手に話を進めんでくれるかの」


 無視をされたと思ったのか里奈が不満そうな表情でこちらを睨んでくる。

「ああ。彼女は蔵脇(くらわき)来夏さん。ご近所さんで俺とは同じ学校の同級生なんだ」

 紹介された来夏は「はじめまして」と小さくおじぎをする。

「来夏、彼女は片岡里奈。従姉妹で、今日から俺の家に住むんだ」


「うむ。苦しゅうないぞ」

 里奈は胸を張りながら、尊大な態度をとる。この態度もしゃべり方もロールプレイの一環だとばかり思っていたが、それが素だったという事実に驚きを隠せなかった。


「それにしても薫人くんに、こんな可愛らしい従姉妹さんがいたんですね」

「俺も驚きだよ。そういえば里奈はいくつなんだ?」

「一七じゃ」


 里奈は簡潔にそう答える。じゅう……なな歳ってことは俺より二歳上ってことになるぞ。

「中学生じゃないんだな」

 心の中で言ったつもりが、思わず口に出ていた。しまったと思ったときにはもう遅い。里奈はあからさまに怒気を露わににしている。


「それはどういう意味かのう?」

 なぜか口元だけ微笑みながら俺に訊ねてくる。こういうと何だが、あんまり怖さはない。

「薫人くんは外見だけで物事を判断するような人ではありませんよ」


 そこで来夏はフォローどころか、燃料にしかならないものを投下する。だって、それは要するに「お前の場合は外見ではなく、中身が幼いのだ」と言っているに等しい言葉だからだ。

「ら、来夏……」


 何で初対面の里奈に喧嘩をふっかけるようなことを言う。普段の来夏からは考えられない行動だった。

「私、何かいけないこと言いましたか?」

 来夏はにっこりとまるで敵意のない笑みを里奈に対して浮かべてみせる。


「ふ、ふん。わらわは寛容で、大人なのじゃ。こんなことでいちいち怒ったりせぬわ」

 その言葉とは裏腹に、肩は何かを堪えるように震えていた。

「薫人くんはこれから家に帰るんですよね。だったら、ご一緒してもよろしいですか?」


 その申し出を断る理由など欠片もない。俺は「もちろん」と答えようとするのを、里奈が突然間に入って遮ってくる。

「わらわは疲れた。もう一歩も歩けぬ。あーあ、どこかで休憩がしたいのう」

 何というか、すごくわざとらしい物言いだ。というか、演技でもその場にへたりこもうとするのはやめてくれ。


お読みいただきありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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