道楽
俺が《らぐなろく》に入ったのは、タンナルドウラクダ。
決して、アネノカタキウチトカハカンガエテイナイ。
俺の任務の場所に、アネヲコロシタオトコ、りおる・くらいしすがいるだなんて思ってもいなかった。
ウンメイノメグリアワセ、とかそんなところなのかもしれないが、ドウデモイイサ。
むしろお礼を言いたい。
アノアネヲコロシテクレテアリガトウ。
あの姉のせいで、オレハコンナシャベリカタシカデキナクナッタ。
いや、ソコハ、俺もやったからとんとんでちゃんと終わってんだが。
トリアエズ、あの姉は、ジブンノノウリョクヲカシンシタ。だから世界最強の男、リオル・クライシスニコロサレタ。
あの姉はわがままだったからなぁ、セカイサイキョウノショウゴウ、ってやつが欲しくて仕方がなかったんだろうなぁ。
ワカラン。残念ながら俺は世界最強なんてもん興味がわかねぇ、デモ、でもだ。
アノアネハバカデ、悪戯で平気で人に呪いをかけてきて、アソビデオレニナイフヲツキツケタリスルシ、そんな姉でも、キライニハナレナカッタ。
だから、カタキウチハシナイ、俺が殺したいから殺す。
ドウラクノタメニハイッタ、組織からの仕事をこなしてから、
トアルイセキニアルホウギョクヲトッテクル。
目の前に、ホウギョクヲハラノナカニイレテイル、狼もどきの人間もどきがいる。ソイツノハラヲカッサバイテ、手に入れる。
ソノツギハ、お前だ。
リオル・クライシス。
速い、速いけれどもこの程度。
僕とウロウには追いつけない。
僕たちからも攻撃する、でも、この程度の攻撃、Qことエルデネンス・クラミリアは、戦い慣れている。
だから僕らの攻撃は当たらない。
予想で避けられるから当たらない。
予想を超える行動も、予想を超える速度も出せない。
逆にこっちには攻撃が当たり始めている、今はかすり傷だが、その内取り返しのつかない傷がつくことになる。
付け入れる隙があるとすれば、
「ああ、ウットウシイナ、さっさと殺されてくれよ」
相手がなぜかイラついていると言うこと。
もっと怒らせれば、決定的な隙が生まれるはずだ。
でも、どうやって怒らせればいいんだ。
「アア、もうめんどくさい、ツブシテカラウバエバイイダロ」
潰して奪う?どうやってだ?
そんなことしたら宝玉も壊れるんじゃ。
「う、嘘だろお!こんな戦闘に関して丸っ切りど素人な2人相手で君の本気を使うきかい?」
ヘラヘラと、馬鹿にするようにリオルは言う。
エルデネンスの頬がピクッと動く、少しイラッときたらしい。
とてもよくわかる、あれはイラつく、でもあんなのは子供がからかってきているくらいに思っていればいいのだ。
そうすれば、構って欲しくて煽ってくる可愛い子に見えないこともない。
・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、ちょっとあの人だと厳しいかな。
エルデネンスは一瞬本気を出すかどうか悩んだが、舌打ちをしてからリオルに向かって指を突きつけ。
「ちょっと、ダマレ」
と鬼のような形相で言った。
「はいごめんなさい調子に乗りました」
リオルは土下座をした。
僕がサロウさんにした時のことを、僕は俯瞰して見れていないので、自分の土下座がどのくらい無様だったのかわからなかったが、
リオルのそれはとても綺麗で美しいものだった。
言葉で言い表せないほどの美しさに、一種の憧憬を抱いていると、カブっと噛まれた。
はっと我にかえり、僕は一体何を思っていたのだろうか、そう考えて頬をペチペチ叩き、改めてエルデネンスの方を見ると、
大きなゴーレムが三体いて、その奥にさらに大きなゴーレムがいた。
その一番大きなゴーレムの胸の辺りにエルデネンスが顔だけ出していた。
僕が呆気に取られていると、
「ださいのは分かってんだよ‼︎‼︎」
怒鳴られた。
「ダカラヤリタクナカッタンダ」
羞恥心の滲む声でエルデネンスは言う。
「だぁぁぁぁぁぁ!ヤッタンダカラ、最後までやる!」
いい心がけですね!
そう思いながら振り下ろされた腕を避ける。避けた先にもゴーレムの腕が飛んできて、なんとか空中で足を丸め、足裏が触れた瞬間、ゴーレムの腕を蹴り、『韋駄天』で逃げて地面に降りる。
同じ状況にウロウもいたようだが、避けることが出来ずに壁に叩きつけられ、潰される。
「ウロウ‼︎」
僕は叫ぶが、もう遅いことが壁についた血液の飛び散り方でわかる。
(大丈夫ですよ)
と、サロウさんが落ち着いた声で言っていなければ取り乱していただろう。
黙って、ゴーレムの腕が退くのを待っていると、人1人が入り込めるくらいの隙間ができた時、ウロウがばっと降りてきた。
「ナンデダヨ」
エルデネンスが呟き、それは僕も聞きたいことだった。
僕とエルデネンスの疑問に答えたのはリオルで、
「ウロウちゃんの腹の中にある緑の宝玉はね、その人がたとえどんな状態であろうと治す力を持っているんだよ、たとえ首が切られていようと、内臓が全て無くなっても、全身を潰されようとね」
「なんだそれ」
僕の言葉にコクコクとエルデネンスが頷いた。
自分の話をされているとわかっているのか、ウロウが僕を見て首を傾げている。
(そこまですごいものだったんですね)
サウロさんが言う。
僕がそちらを見ると、、サウロさんの周りには岩の残骸が山になっていた
「まじかよ、スゲーナ、あの狼、ハハハツヨシ」
母は強し、ほんとその通りで、
「うーん、ドウスルカ、潰しても取り出せない、キルノハシッパイ、八方塞がりでどうしようもない」
エルデネンスは大きな腕を組んで、ウーンうーんと唸って、それからヨシと言って
「諦めよう」
そう言った。
諦める?そう言ったよな?
「アキラメテ、連れ去ることにしよう。ソウスレバカイケツ」
ああそういう事か、なら仕切り直しだ。
「じゃあ、シキリナオシダ」
僕が思ったようなことをエルデネンスも言って、ウロウは下から出てきた腕に掴まれた。
「なっ!」
「俺の能力の『大地の動かし方』は身体の一部が地面に接してれば、ソノセッシテルジメントツナガッテイルトコロモアヤツレル、だから人の下から腕を出して捕まえることもできるんだよ」
エルデネンスは丁寧に説明してくれる。
それは勝ったと思っている余裕からきているのだろう。
そりゃ余裕も生まれるだろう。
僕の短剣ではあの岩の腕は切れないし、ウロウの牙も爪もおんなじことだ。
だから、
「ウロウちゃん、腐れ」
リオルが言った言葉の意味が分からず、対応が遅くなるのも当然だった。
ベチャと音が鳴った。
ビチャチャとおとが続いた。
それはウロウを掴んでいた岩の腕の下から鳴って、僕もエルデネンスもそこを見た。
酷い腐敗臭の元となっているはずの物を見た。
それは人の足の形をしていた。
それが何本も落ちてくる。
「ア゛アアアア、グガア」
上からそんな化け物のような声がして、上を見ると、
ズル、ズルと動く異形の化け物がいた。
動けば、腕のようなものが千切れ、足の皮が剥がれ肉が抉れ、それでも痛みを感じていないかのように進み、飛び、体液のような物を撒き散らしながら、呆然としていたエルデネンスの本体に着地し、自重と速度でグチャリと潰れた。
それがウロウだというのは、リオルが「腐れ」と言っているのを聞いていなければわからなかっただろう。
そのくらい醜悪。
胃液が逆流しようとするほどの気味悪さ。
直視したくないほどに気持ち悪い。
でも、ちゃんと見て、ちゃんと手伝う。
ものは速く投げれはその分威力は高くなる。
原理は知らないけど、学が無くともわかることの一つ。
だから、狙いを定めて、エルデネンスの顔へ向かって石を投げる。
当たらなくとも、剥き出しの顔に当たるかもしれないと思わせるだけで十分。
その間にウロウが登ってくれれば。
そう思って石を持ち上げて、
グチャリと、また潰れた音がした。
ウロウが落ちていた。
なんてこった。
取りあえず、僕はもう一度石を投げて、エルデネンスの注意をこちらに向ける。
「ウロウ!大丈夫か!」
「ウロウちゃん、治れ」
僕とリオルの声が重なる。
そして、ウロウからの腐敗臭がなくなり腕がとれることも、足の肉がえぐれることも無くなった。
「さぁて、決着がついたね」
どういうことだ。
僕がそう思っている間に、もう、答えは出ていた。
エルデネンスの周りにある石がグズグズと腐っていき、グチャグチャになって、落ちていく。
「簡単に言えば、緑の宝玉と紫の宝玉は一つの宝玉で同化しているんだよ、だからどれだけでも毒で傷ついて、毒の血を相手にかけて殺すってこともできるんだ、そして緑の宝玉は最高では死にかけたばかりの人なら生き返らせることができるくらいだ。だから、ウロウちゃんの体を腐らせて、触れたものも腐らせる毒を紫の宝玉で作って、常に解毒しないくらいに緑の宝玉で治し続ける」
死に続けながら死ぬことなく、治り続けながら完治することない。そんな完璧兵器を作り上げるためのがこの緑と紫の宝玉の最大のコンセプトなんだよ。
「ククク、でも石の鎧を解けば意味ないだろ?」
「そのとーり』
でもさぁ、鎧を脱げば死ぬよね?
「死にやすくなるが正しい」
フィーフィーの振るった鉄の武器が、石の鎧を脱いだエルデネンスの右半身を抉る。
「ウ、が、クハッ、いいねぇ、コノママジヤシヌナ、いいさいいさ、シヌノハカマワネェ、でもりおるだけは殺す」
「どうぞお好きに」
「ちょっと待ってよ!」
リオルが叫び、体が石の槍に貫かれる。
そしてエルデネンスは死んだ。
あっけないものだ。
僕は思った。
僕は遺跡から戻る時にウロウを外に連れていくことになった。
その時の会話は以下の通り。
(あなた、ウロウを外に連れて行ってくれないかしら)
エルデネンスが死んでから1時間後にサロウさんが僕に言ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんで僕なんですか?」
(あの子はあなたにとても懐いてるし、あなたなら、ウロウに手を出したりしないだろうし。他にもここにきた人はいたけど、全員ウロウの体を見て欲情するかおかしな物を見る目でしたから、でもあなたはそんなことなかったですし、なのであなたに外に連れて行って欲しいんですよ)
他の人はどうなったんだろう。
「いや、僕としてはいいんですよ、今まで何人も子供を育ててきましたし、だからなんとかなるんですけど、他にも男子がいるんですよ、だから、多分、そういう目で見られることがあると思うんですが」
(そういう子は処分で)
「それは無理です!許してください!」
(まぁ、そうですよね)
よかった、わかってくれた。
(できれば人として育ててあげてください)
今からだと正直厳しい気がするが、うーん、なんとかできるかな?
では、まかせましたよ。
はい。
その後サロウさんはウロウを説得した。
僕の説得よりもそっちの方が大変そうだった。
終始ガウガウ、言って足に噛み付いたり体当たりをしているだけだった。
それでも説得には成功したようで、僕とウロウはリオルとフィーフィーを連れて外へ出た。
外へ出るときはリオルの作った『わーぷげーと』を通って外に出た。
外に出て、見たこともないところだったからリオルに「ここはどこだ」と訊くと、「いやいや失敗しちゃってさ別のところに出ちゃったんだよねぇ、5時間待って!」と答えて舌を出して手を合わせて拝んできた。
仕方ないから待つことにして、待っている間にリオルが作った服をウロウに着せようとしたが破られて逃げられて、どうにかこうにか着せたときは4時間経っていて、しかもその服はすぐに破られた。
だから諦めて髪を櫛でといて(この櫛もリオルが出した)、残りの1時間を過ごした。
そして、また『わーぷげーと』を通った先にあったのも、全く見覚えの無い景色で、「また間違えたのか」とリオルに言った。
「いや、間違えてない」
「はあ?どう考えたって、ここは僕の家がある場所じゃ無い」
「まぁね、でもほんとすごいよね現王は、たった3年で壁の破壊、そして改築を終わらせちゃうんだから」
こいつと会って何度こう思ったかわからないが、言っていることの意味が分からない。
頭の上に?が浮かんでいる僕にリオルは説明する。
「君が僕と国を出て一年後、この国の王は変わった、革命が起こったんだよ、前王は現王に殺された。現王は色々やり始めた、そのうちの一つが平民と下民を分けている壁の撤廃、これは成功、ただし、貴族のところを壊して平民や下民とおんなじように暮らさせること、これは失敗。次は下民に労働させて賃金を与えること、下民が下民にしかなれなかったのは下民に与えられる賃金が平民の三分の一だったからだ、だから現王は下民と平民を分けていた壁を下民に壊させた。そして金を与えて、平民と同じ暮らしをさせた。当然下民街と同じように急に人を殴ったりした人は捕まるけど、犯罪行為以外は何してもオッケーになり、そして、下民街は無くなった。だから、君の知ってるあの国は無くなった」
だめだ。わからない。なんで、なんで。
「なんで5年も経ってるんだ?やっぱりあの遺跡は時間の流れが遅いのか?」
「いや、そんなことないよ」
僕の質問をあっさり否定する。
「簡単な話、あの僕が失敗したって言った時の世界、あそこはこことは別世界でね、ここよりも時間の進みが遅いの、5時間で5年経っちゃうくらいに」
「でも、だとしたらウロウの成長具合は一体なんなんだよ、つい最近って言ってただろ」
「うん、つい最近だもん」
「じゃあなんで数週間か数ヶ月程度で、人間があそこまで成長するっていうんだよ」
「えっ⁈なにそ・・・・・・・・・・・・あー!あーあーあー、そっか、普通そう思うよね」
「違うのか?」
「違うよ、ここが出来たのは18年前だよ、僕にとってはつい最近なんだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・そんな。
みんなは・・・・・・・・・・・・大丈夫なのか?
僕は見たことのない綺麗な門に向かって走り出していた。