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世界最強は今日も負け続ける  作者: 青赤黄
紫、緑の宝玉
18/44

陥落

 薬は使用法を間違えれば毒となる。

 毒は使用法を正せば薬になる。

 毒は薬に成り上がり。

 薬は毒に成り下がる。

 このコンセプトに基づき作られた二つの宝玉は、いつの時代も2つとも同じ者の手に渡る。

 二人の人間に一つづつ渡るということはない。

 コレは絶対である。



 ロブ王国には、三重の防壁がある。

 中央の貴族、王族の住む第一区画。

 その外の、平民が住む第二区画。

 一番外の下民、又は元奴隷の住む第三区画。

 その第三区画を駆け回る青年がいた。

 青年はアウトと呼ばれており、容姿は青年というにはまだ若い、

 そんな中途半端な容姿だった。

 少年は、能力『韋駄天』を持っていて、その能力を使って自分よりも年下の少年少女をまとめている。

 自分が出かけて時には信用できる大人に任せている。

 今駆け回っている理由は、自分の所の子供を誘拐されたからだ。

 見つけるのに時間はかからない。

 アウトは鼻がきく。

 スラムの悪臭に慣れきった鼻は、子供の匂いを記憶し、風に乗ってくる匂いだけでどこにいるかわかるほど優れている。

 とんっ、と。

 地上から5メートルから落ちてきたというのに軽い音を立てて、

 誘拐犯、奴隷商人の前にアウトは落ちる。

「くそっ!お前らやベッ‼︎」

 アウトが『韋駄天』を使ったまましゃべっていた男に膝蹴りをする。

 運悪く、男は自分の舌を噛み切ってしまった。

 その直接的原因であるアウトは少しも気にせずに他の男たちにも蹴りを入れていき、

 約30分後、連れ去られた4人を抱き抱えたり、手を繋いだり、おんぶしたり、肩車をしたりして、アウトは連れ帰ってきた。

「みんなただいまー」

 そう言って扉を開けてアウトが見たのは、見知らぬ大人たちと一緒に遊んでいる子供達だった。

 二人とも女、一人は筋肉がすごく、強そうで、子供たちに登られている。

 もう一人は小さく華奢で、どこかの貴族のように(貴族なんて見たことないからただの偏見。)ふわふわした青髪を頭の上の方で一つにまとめている。子供たちには指先から糸を出して色々作っている。

 「えっと、ど、どちら様でしょうか?」

 アウトは子供たちを下ろして、ポケットの小型ナイフを握りながら、大人たちに訊く。

 アウトの言葉を聞き、華奢で貴族のような姿の女が振り返って「ヤッホー、アウト君」と声をかけてきた。

 予想と違って、なになにですのよーみたいな貴族のような口調ではなかった。(偏見)

 誰だ、こいつは、馴れ馴れしいな、僕のところから巣立った子供のうちの誰かなのか?

 アウトはそう考えてそう訊いた。

「嫌だなぁ、今日が初対面だよ。それとも誰かに似てたかな?」

 女はヘラヘラ笑いながらアウトにとって衝撃的なことをいう。

 家を空けていたたった30分ほどで、ここまで仲良くなれたのか、と

 アウトは驚いたが、すぐになんらかの能力を使われているのではという可能性に思い至る。

 部屋の中を探して、この場にいないアカネを呼ぶ、

 はーいと声がして、洗濯物でもしていたのか、手を赤くしたアカネが外から入ってくる。

 アカネは、この中ではアウトに最も歳の近い少女で、一人でも生活できるだけの技術があるのに、自分が巣立ってしまったらアウトの負担が大きくなるから、とこの場に残った少女だった。

 アカネにこの人たちは誰かと訊くと、

「誰だかは知らないけど、アウトに用があるみたいだったから入れてたの」

 警戒はしてたよ、ボソッとアカネが言って、アウトが改めて部屋をさりげなく見渡すと、確かに年上の子供たちが遊びながらも、決して眼を離さずに、知っているから分かるくらいの膨らみがポケットにあった。

 ポケットには、アウトも持ってるナイフが入っている。

「わかった、ならちょっと話してくるよ」

 アウトは青髪の女に近づいて、外に出ようと促す。

 あっさりと青髪の女はアウトについていき、何かあれば1秒以内に家に戻れるところまで来てから

「一体俺になんのようですか?」

「いや何、気にしないで、この国の近くに新しくダンジョンがあって、そのダンジョンを早々に潰さないといけないんだけど、そのダンジョンまで案内する人がいなくなっちゃってさ、君に案内をお願いしたいだけ」

 矛盾点が多すぎる。 

 嘘だとしたら、いや嘘だろうけど、わかりやすすぎる。

 嘘ですよって言っているようなものじゃないか。

 俺はこの国から出たことがねぇ。

 それに新しいダンジョンの場所をなんで俺が知ってると思うんだ。

「もし気にしてるなら気にしないで、絶対に君に来てもらわなきゃいけないだけ」

 青髪の女はヘラヘラしながら訳のわからないことを言う。

「なんで僕が必要なんだ?」

 アウトが首を捻ると、青髪の女はヘラヘラ笑いを止め、ニヤニヤ笑いに変えて言う。

「嫌だなぁ、君が必要なんじゃない。

 君の持つ『韋駄天』が必要なんだよ。

 あっ、だったら結局君が必要なんじゃないか」

 あーなるほど。そういうことか。

 それは僕が必要だ。

「僕がついて行ったら、いくら出す?」

「君が望むだけ」

 いかにも芝居くさく、わざとらしさを隠そうともしないそのうやうやしさに、一種尊敬のようなものを仕掛けたが、何を考えているんだと思い直し頭を振る。

 頭を振ったついでに、法外な金額をふっかけて頼み事を振ろうとして、自分の知っている国家予算の4倍の白金貨を言う。

 白金貨千枚。

 白金貨一枚あれば、一年間豪遊することができる。

 慎ましく暮らせば五年くらい。

「その程度でいいの?」

 それくらい高価なものを千枚と言ったのに、

 その程度でいいの?

 なんだ?こいつにとって白金貨千枚なんてはした金だって言うのか?

 この金持ちが、

「じゃあ一万に増やしてもらおうかな」

 コレは無理だろうと見越して、法外どころではない金額を言う。

 ただのやっかみで、僻みで、嫉妬だと言うことは自分でも理解していたから、それは無理と言って来れば元の金額に戻すつもりだった。

 それでも十分に法外な値段なのだが。

 はたして、青髪の女は

「ホント慎ましいですね、了解しました」

 平然とニコニコしながら言った。

 いや、いやいやいや。

 なんだ?もしかして僕の知らないだけで価格が反転したのか?

 白金貨が最安値で、銅貨が最高値になったのか?

「いやいや、そんなことはないですよ」

 青髪の女はまたわざとらしく、手を動かしながら言う。

 声に出して言ってたかな?

 それにしても信用ならない。

 言ってるだけなんじゃないのか?

「とりあえず今持ってるのは二千枚程度だから先に渡しておくよ」

 青髪の女は何もない空間に腕を伸ばして何かを掴むように手を握る。

 その瞬間、青髪の女の手に袋が握られた。

 訳がわからない。

 どう言う手品だ。

 僕と同じように能力を持ってるのか?

「はい、どうぞ」

 青髪の女から袋を渡される。

 どう考えても二千枚なんて入っていないサイズだろう。

 そう思ってひっくり返すと、ざー!と白金貨が降ってきた。

 明らかに袋に入らない量だった。

 その量にアウトは惚け、惚けている間に何も落ちてこなくなった。

「あらら、たーいへん」

『巻き戻し』と青髪の女が言うと、白金貨が重力に逆らって袋に戻っていく。

「はい終わり」

 言われた時にはもう戻りきっていた。

 ダメだ、頭が回らない。

 意味が分からない。

 こいつ、いくつ能力を持っているんだ。

『巻き戻し』 

 何もないところから何かを取り出す能力 

 これでも二つ。

 一つの能力も持っていない人の方が多いって言うのに、二つ以上持っているやつなんて見たことないぞ。

「それで?どーお?僕と一緒に来てくれる?」

 こんな時だが、アウトは青髪の女の一人称が『僕』だというのに驚いた。

 今までの言葉から『わたくし』とかではないことはわかっていたが、まさか『僕』だとは。

 その言葉にあかねの出逢った時のことを思い出した。

 性格は似ていないし、口調も似ていない。

 何もかも違うが、少し、助けたいと思わされてしまう。

 自分でもチョロいと思ってしまう。

 その時に、手を合わせ上目使いで言われた。

「ね、お願い。僕たちを助けて?」


「ほんっとチョロいですよね」

「わかってるよ」

 引き受けてしまった。

 なんだ僕、チョロすぎやしないか?

 アカネが呆れたように、ため息をついてから言ってくる。

「昔から、なんか頼むとすぐに叶えてくれましたからね、こういう風に頼めばやってくれるって分かってくるんですよね」

「えっ、そうなの?」

 初耳だ。

 つまり、あの頃そんなふうに利用されていたってことか。

 うーん、複雑な気持ちだなぁ。

 したたかさが嬉しいような、嫌なような。

 でも嬉しいの方が大きいかな。

「それじゃあ、僕がいない間よろしくね」

「はい、お任せください♪」

 アカネがドンと胸を叩く。

 うーん、なんと頼もしいことか。

 よろしく、ともう一度言ってから『韋駄天』を使って国の外に出る。

 塀を越えたところにあの青髪の女とそのお供が待っていた。

「よく来たなアウト。君を待っていたぞ。ぐわーはっはっは」

「はい、遅れました、すみません」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 謎の沈黙が訪れる。

「ねぇ、ツッコンでよ。ツッコミが欲しくてやったんだけど」

 ショボンと悲しそうな顔をされてもアウトにはどうにもできない。

 どうにかする気もない。

 コイツは信用できない。

 一応家に罠魔法は仕掛けてきたから、簡単にみんなが連れ去られるなんてことも無いだろう。

 でも、警戒はするべきだ。

「それじゃあ、行く前に変装解いちゃおっか」

 青髪の女が言うと、筋肉質な女が不満そうに

「もうちょっとおねぇちゃんの体でいたかったたんだけど」

 と言った。

 ?

 なんだそれ、変装?

 どう言うことだ?

「だめだよー、その体は君のじゃないんだから、いざ戦闘になった時普段の9割しか力出せないでしょ」

 いくら双子と言ってもさ。

 青髪の女が言う。

 9割は出せるのか。

 それに、戦闘。

 戦闘だと?

 やっぱり罠か?

 嫌、やるとしてもここは近すぎる、ここでは戦闘にはならないだろ。

「はーい、それじゃあ元の姿に戻すねぇ」

 言って、指を鳴らした瞬間、視界がブレて青髪の女はどこにでもいるような没個性の少年になり(髪は黒、背は百六十五センチくらいか)、

 筋肉質な女は身長が50センチくらい縮んで、見た目は6歳くらいの子供に見える。

 本当はそのぐらいの見た目で9割も出せるのか。

 ていうか双子⁈

 違いすぎるだろ‼︎

「じゃ、お互い自己紹介といこうか」

「ちょっと待ってくれ」

 歩き出した少年に声をかける。

 うん?と少年は首を傾げる。

「君、幾つ能力を持っているんだ?」

『巻き戻し』

 何もないところから何かを取り出す能力

 そして、今の変装の能力。

 3つ。

 伝説でしか聞いたことがないぞ、3つも持っている奴なんて。

 それに能力を多く持っているならそれは知っておきたい。

 でも、本当はここで驚くべきではなかったのかもしれない、いや。

 少年が言ったことは僕の頭の理解を超えていたので、今驚いておいてよかったのかもしれない。

「えー別にたかだか3京くらいだよ」

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 絶句。

 なんでそんなに持っているのか?

 その言葉が口から出ない。

 多すぎる、教えられても把握しきれない。

「それじゃあ次は僕の名前を教えよう。僕の名前はリオル・クライシスだよ」

 リオル・クライシス。

 聞いたことがある

 確か、世界最強の男の名前がそれだったはず。

「もしかして、世界最強か?」

 訊くと「違う違う。僕が誰かに勝てるわけないだろ?僕は世界最弱だよ」と返された。

 世界最弱か。

 どうなんだろう、本当なのだろうか。

 ただの油断を誘うための嘘かもしれない。

 警戒はやっぱり続けたほうがいいな。

「で、こっちがフィーフィーだよ、とってもいい子だよー」

 リオルと名乗る少年に対してのスタンスを決めた時にリオルが隣の幼女の名前を言って、頭をぽんぽんと叩き、

 急に頭に置いていた手が消えた。

 プシュップシュ、

 と腕から血が噴き出し、フィーフィーと言う(本当かどうかはわからない)幼女にビシャビシャとかかり、頭から血で濡れていく。

 何が起こったのか、考えることも出来ずにいると、どさっと、何かが落ちる音がした。

 少し考えれば何が落ちたかわかるだろうに、考えることのできない頭は後ろに振り返ることを体に命令して、体はそれに逆らわない。

 そして、そこでイモムシのようにグネグネ動く腕を見た。

 その腕に赤い糸のようなものが地面を這っていた腕に伸びてきて、絡みつき、持ち上げ回収していった。

 その腕はリオルの元へと行って、消えていた部分に完璧にくっついた。

「おーい何してんのー。早く行こー」

 遠くからリオルがくっついたばっかりの腕を振って呼んでくる。

 もう、何がなんだかわからない。

 でも、いいや、ものすごい回復能力も持っていると考えれば。

 それよりも、どうして急にリオルの腕が空に飛んでいったのか(どさっと音がしたんだから、きっと空に打ち上げられたんだと思う)。

 あのフィーフィーと呼ばれていた幼女がやったとは思えないんだが、でも、吹き飛んだならリオルの腕だけでなく、フィーフィーも少しはダメージを食らっていそうなものなのだが、そんな様子もない。

 もしかしたら、フィーフィーがやったのかもしれない。

 仲間なのだから、リオルの回復能力を知っていて、だから安心して腕をちぎれた、みたいな。

 ・・・・・・・・・・・・できれば考えたくないことだな。

 考えに浸っていると、リオル「これからいくダンジョンの説明をするよ」と声をかけてきた。

 承諾すら待たずにリオルが話出す。

「えーと、これからいくダンジョンには雑魚がたくさん、中ボス5体、ラスボスが一人います。ついでにトラップもたくさん。おーけー?」

 わかり易い説明だった。

 できればトラップなどはどんなのがあるのか知っておきたかった。

 それに、ラスボスが一人ってどんなやつなのかとか。中ボスもどんな攻撃をしてくるかとか。雑魚はどのくらいの強さなのか。そこら辺も知りたかったのだが、望みすぎか。

 だから「オーケー」と言った。

 その後は、話したそばから忘れて行きそうなほどどうでもいい話をした。

 今日の晩ご飯は何が食べたいかとか、子供たちって可愛いよねとか、土とかって腐ったり毒食らったりするのかなとか、ここら辺に随分と昔に出たフォールウルフとか、もし、パラシュートとか落下速度低下の魔法も使えないのに、死ぬような高さから落ちたらどうするという『しこうじっけん』(思考実験であってるのか?試行十件とかでは?)のようなこともした。

 そして

「ついたー!」 

 と、リオルが両腕を振り上げて言って

「よし入ろう!」

 と、子供のように勢いよく(少し話しただけでリオルが子供っぽい人だとわかったから警戒心は少し解いた)走り。

 転ぶんじゃないのかと心配に思って、小走りでついて行ったら、

 案の定リオルは転び、

 その時にトラップのスイッチを押してしまったようで、

 僕の足元の床がなくなった。

 どう手を伸ばしても、5×5の穴の端に手は届きそうもなく、あっという間にリオルの言っていた問題を思い出された。

 命懸けの状況で思い出した。

 リオルの言った問題、ただしくは『しこうじっけん』(思考実験?試行十件?)を思い出した。

Q,もし、パラシュートとか落下速度低下の魔法も使えないのに、死ぬような高さから落ちたらどうする?

 5秒で正解の行動を取れ。

 さもなくば。

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