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世界最強は今日も負け続ける  作者: 青赤黄
赤の宝玉
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四王登場

リオルの言葉にオルタナティブは、一瞬怪訝そうな顔をしてから睨みつけた。

「どうして?あなたもあの鎧を探してるんでしょう」

「そーだけどねー、さっきの情報だけじゃ足りないんだよなぁ、ほら、下着見せてくれるとか」

 オルタナティブは迷うことなくリオルを突き刺す。

 刃が薄い剣だった。

 それは致命傷にはならず、リオルの口の端からツゥと、血が流れただけだった。

 当然リオルにはこの程度なんてこともなく

「ねーみんなぁ。なんで防いでくれなかったの?」

 と、自ら身体を捻って傷を広げるようなことをする。

 それをみて、オルタナティブはグリュっと剣を捻り、ノコギリのように剣を動かしてリオルの身体を切断する。

 この場はリオルがギルド長をやっているギルドなので、リオルが死ぬのはみんな見慣れているので誰も騒がない。

 ただ、あーあまた死んでんなぁと、思う程度だった。

 唯一、ギルドの受付嬢だけが他の人と違う反応をした。

 リオルのすぐそばまで駆け寄って、リオルが生き返ったところを見計らったように

「痛いなーもう」

 と言って、腹をさすっているリオルに雑巾と水の入ったバケツを渡し、鬼の形相で

「床を拭け」

 と言った。

 このギルド内にリオルの味方をする者はいなかった。

 うーうーべそかきながら馬車馬のように働かされてから、リオルは元の椅子に座って、

「えっとさっきの冗談なんだけどね」

「冗談?あなたが本当のこと言ったことありましたっけ?」

「冗談でも初対面の人に言うことじゃ無いでしょう。

その程度の常識もないんですか?

 あなたはゴミですか」

「きっとゴミなんだろうぜ。生ゴミだ。不完全燃焼の灰色の煙を上げさせながら焼いちまおうぜ」

「いや、そんなこと面倒だからマグマの中に落とせばいいでしょう」

「僕の味方はいないのか!」

「「「「いるわけねぇだろ」」」」

 くそおぉぉ!

 リオルが叫んで机に突っ伏す。

 耳をすませば、嗚咽が聞こえてくる。

 だが、5秒もたたずに起き上がってケロッと「その鎧って赤い石が胸のところについてたりする?」と、聞いていた。

「ついてましたよ」

 オルタナティブは随分前に出されて、温くなりきった紅茶を飲んでから答えた。

「あーそう、わかった。じゃあそいつは僕が殺して」

 オルタナティブは迷うことなくリオルを突き刺そうとする。

 今度はリオルの横に立っていた男が、その剣を自分の手に突き刺させることで防ぐ。

「えっ、今回は守るんだ」

「んあ?あー今回はお前悪くないし」

「んー?ハクがさっきからうずうずしてるのは関係ないと」

「・・・・・・・・・・・・ピーンポーン」

 リオルを守った男、シグマが自分の傷ついた手を、後ろに立っているハクへと向ける。

 ハクはその手を取り傷口から流れ続けている血を舐める。

 そしてうっとりとした表情で舐め続ける。

「ねぇ、ちゃんと朝ごはんはあげたの?」

「なかなか起きなくてですね、やろうとしたらそいつが来たんです」

「ああ、そういうことね」

 リオルが納得して頷いた後、オルタナティブは「吸血鬼?」と聞いてくる

 リオルは首を振ってから

「人食願望持ちと、被食願望持ちだよ。

 相性最高」

「そうですか」

 オルタナティブがそう言って立ち上がり、入り口に向かって歩く。

「どこ行くの〜」

「これ以上あんたらと居ても無駄なんだよ」

 リオルの質問を冷たくあしらい、オルタナティブが外に出ようとした時。

「あの鎧がどこにいるか知ってるけど」

 リオルの言葉にオルタナティブは足を止める。

「なんでそれをさっさと言わない」

「僕の質問に答えたら鎧の居場所に連れて行ってあげるよ」

 オルタナティブの言葉を無視してリオルが言う。

「オルタナティブは本名じゃないのに、なんでオルタナティブって名乗ってるの?」

「私は私の代替品だからだよ。前の私がいらなくなったから、弱い私なんていらないから、だからオルタナティブだよ」

「へーなぁるほど」

「コレで満足?」

「うん満足、ありがとね」

 そしてリオルは手を出して「いこっか」と言った。

 オルタナティブが手を掴んで、「行ってきまぁす」とリオルが言った瞬間景色が変わった。

『転移』の能力で辿り着いたそこには、人が30人でも余裕で横になれるような円卓があり、周りには五つの椅子があった。

 そして周りには暗闇しかないと錯覚してしまうほどの暗い影を作る森があった。

 椅子は石造りのもので、長い時間そこにあったかのようにひび割れて、苔も生えている。

 だがそれは椅子の側面のみで肘掛け、座面には苔一つない。

 ただ埃は積もっていた。

 そしてひとつだけ。

 周りの椅子とは違う椅子がひとつだけあった。

 笑えてくるくらいに絢爛豪華で、馬鹿馬鹿しいほど綺麗に保たれた椅子。

 肘掛けや座面に埃ひとつなく、

 側面にも苔一つなく、

 ひび割れどころか擦り傷ひとつない、

 とても大切にされた椅子。

 だがそんなことオルタナティブには関係ない。

 椅子があるなと思う程度で、

 リオルは苦笑いを浮かべるだけだった。

 そして能力『作製』『調整』を使ってもう一つ椅子を作る、その椅子はギルドにあった椅子と同じものだった。

「コレに座って待っててねぇ」

「おい、私が探してるのは鎧だぞ」

「知ってるよ。コレは寄り道」

「は?ふざけんなよ。さっさと連れてけよ」

「まあまあ、会う前に会っとこうぜ、力の化身たちにさ。

 たぶん鎧より強いよ。

 四王たちは」

「しおう?」

 オルタナティブは聞きなれない単語に首を捻る。

 それを見てリオルはやれやれと言うふうに首を振る。

「最近の子は勉強不足だなぁ、四王って言ったら生物最強の呼び名が高いんだぜ?

 それぞれ西のナメクジ、東の蜘蛛、南の蛇に、北の蛙。

 この4体が四王。

 禁句は奥さんに対する侮辱発言かな。

 言ったら死ぬよ。

 みんな愛妻家だからね。

 でもって、あいつらの侮辱発言もダメだよ。

 つまりここでは僕以外の生物に対して侮辱発言は禁止。

 おーけー?」

 そう話しながらリオルは迷うことなく一番綺麗で絢爛豪華な椅子に座る。

 リオルの肩身狭そうに座っている様子を見て座らなきゃいいのにと思いながら座り、

 じっと、見つめてくるキラキラと輝いた猫のような、瞳孔が縦になった両目と目が合った。

 その瞬間、青々とした森の木の葉が全て吹き飛ぶかと思うような突風が吹く。

 実際、オルタナティブは石造りの椅子ごと風に吹き飛ばされそうになるが、固定の魔法を使い椅子を固定して吹き飛ばされることを阻止する。

 風が止み、改めて目の前を見るとそれは女性で、円卓に寝そべって足をぱたぱた動かしながらオルタナティブを見ていた。

 だが人と呼ぶにはおかしいところもある。

 まず目、コレは猫の眼ではなく、蛇の眼だ。

 今まで何度かヘビを食ったことがあり、その時に蛇の眼は見慣れている。

 だからわかる

 次に肌、全てではないが鱗がある。キラキラと光沢があって綺麗な鱗だった。

「あんただれ?」

「私?私だよね?私はユウダ、あっちにいるのがカールで、えっとえっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 オルタナティブはユウダが指差した南方向を見る。

 そこにはとぐろを巻いた大蛇がいた。

 大蛇では足りない、

 大きすぎる。

 10メートルなどではなく、100メートル以上、下手すれば500メートルはある。

 もしかしたら遠近感が狂っているのかもしれない。

 とりあえずデカすぎる。

「なぁあいつって何メートルなんだ?」

 オルタナティブが訊くとリオルは「あれでも小さくなってる方だよ、スキルの調整で大きさを調整してるんだよ、今の大きさだと450くらいだよ」とサラッと言った。

「デケェ、化け物かよ」

 オルタナティブが思わず呟いた途端、ニコニコと笑っていたユウダの表情が凍りつき、笑顔がひび割れ、怒りが滲み出す。

「ねぇ、カールは化け物じゃないよ」

 ユウダの声が低くなり、眼があった途端威圧のようなものを感じ、オルタナティブは動けなくなる。

「ねぇ、なんでそんな酷いこと言うの?」

 ユウダ呟きオルタナティブの首を掴み締め上げる。

「アッ・・・・・・・・・・・・ガァ・・・・・・」

 気管を潰されて息が吸えず、意識が落ちかけている時でも、オルタナティブはユウダの眼から眼が離せなかった。

 腕を動かしたいのに動かせず、死ぬと覚悟した時。

 どろっとしたものが首の周りにまとわりつき、頭全体を覆う。

 オルタナティブがその中で咳き込み、息を吸っている間に身体全体を覆われて、どろっっとしたものが無くなったとき、オルタナティブはさっきとは別の場所にいた。

 特に距離を移動したわけでもなく、自分が座っていた椅子のすぐ横の地面にへたり込んでいた。

「コラっ、ユウダ。ダメでしょそんなにすぐに殺そうとしちゃ、この子は初めてで知らなかったんだから許して上げなさい」

 おっとりとした口調で、さっきまでオルタナティブが座っていた椅子に座っている女はユウダに言う。

「ごめんなさい、驚いたでしょう?」

 そう言って、女はオルタナティブの方を見る。

 その女はユウダの鱗とは違い、違和感を感じるがその違和感がなんなのか、すぐにはわからないような違いがあった。

 それは眼。

 ドロドロと、まるで腐りきってぐずぐずになった果物のような眼だった。

「でも、あなたが悪いのよ?

 大好きなヒトを傷つけるようなことを言われたらあなただって嫌でしょう?」

 オルタナティブが驚いていると女は言って、

「私はラート、元々眼がなくてね。

 旦那様が私に眼をくれたのよ。

 旦那様はラッグって言うのよ、幸運ラックみたいで縁起いいでしょ?」

 嬉しそうに笑みを浮かべる。

 ユウダはあからさまに不満そうなため息をついてから、自分の席へと戻っていった。

 オルタナティブが立ち上がり、周りを見渡すと、今までどうして気づかなかったと言いたくなるほど巨大なナメクジ、蜘蛛、蛙がいて、蛙と蜘蛛の前には一人ずつ人が座っていた。

 蛙の前には左腕が肩からなくなっていて、体の半分以上に火傷を負っていて、顔の横に耳がなく、頭の上に犬の耳のついた女がいて。

 蜘蛛の前には人のような眼を一対と蜘蛛のような眼が三対付いていて、下半身と腕が蜘蛛のものである女がいた。

 なんだあの二人は。

 それにナメクジも蜘蛛も蛙も蛇と同じくらい大きい。

「えっとねー、蛙の方がフローとアメイちゃん、フローがおっきい方ね。

 アメイちゃんは見ての通り獣人だよー。

 で、蜘蛛のおっきいのがスー君ね。女の子はヤンちゃん。ヤンちゃんは元人間なんだけどね、なりたいから蟲人になったんだ。

 知ってる?蟲人。

 むしのひとと書いて蟲人だよ」

 リオルがオルタナティブが疑問に思ったことに答えをくれる。

 そんなこと言われてもよくわからないとオルタナティブは思っているが。

 化け物だ。

 オルタナティブはまたそう思ったが、今回は何も言わなかった。

 殺されると思ったからで。

 この場にいるリオル以外の全員が、自分よりも強いということがわかったからだ。

 だから大人しく椅子に座る。

「世界の王よ、此度もよく来てくださった。我々が・・・・・・・・・・・・えっと、次なんだっけかフロー」

 めんどくさそうに淡々とした声で、自分の間違いもまるで気に留めず、椅子にもたれかかりながらアメイがフローに訊く。

「あーそうそうそれだ。えー私たちの雑談会へようこそ、誘っといてと言われた人も誘いました」

「わーいありがとー、じゃあその人が来るまでいつも通り雑談しよっか」

 じゃあ繋ぐよ。

 リオルが言うと頭の中に声が四つの声が聞こえてくる。

(初めまして、先程はユウダが失礼しました)

(どーも、すみません眠いんで寝ます、後はアメイによろしくおねがいしまーす、アメイは気難しいけどねー)

(今晩は何食べようか、帰る時にでも聞いておこう)

(相変わらずラートは美しい。とても綺麗だ)

 リオルの言っていた愛妻家という意味がようやっとオルタナティブには理解できた。

 それに聞き流していたが、確か蛙の女がリオルのことを世界の王と言っていた気が。

 オルタナティブは気づきはしたが、周りの雑談の渦に飲み込まれて、ついつい自分も入ってしまい聞けなくなっていて、

 その間に、最後の一人が来た。

 一人の鎧を着た人間が。

 鎧の胸には赤い宝玉が付いていた。

「すまない。なにぶんここにくるのは初めてなものでね。許してくれ」

 そいつは、キイの仇で、

 そいつは私を見て、

「久しぶりだね、リア、約1億年ぶり、正しくいうなら1億5426万0953年2ヶ月と25日ぶりだね」

 言った。

 なぜそんなことを覚えているのかは知らないが、

 殺す。

 私は動いた。

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