呑炭漆身
「私ね、強くなるから」
リアが泣きながら言う。
体の震えを止めようと僕を抱きしめて、
「大丈夫だよ。リアは十分強いよ」
僕はそう言ったが、ちゃんと聞こえたかはわからなかった。
聞こえてたらいいなぁ。
「でも、無理はしないでね。強いけど、リアは弱いから」
ちゃんと喋れてるかなぁ。
リアずっと泣いてる。
安心させようと頭を撫でようと思ったが、腕が上がらない。
あぁ、そうだった。
忘れてた。
骨折れてるんだった。
「リア、君は強いよ。でも弱いから。ちゃんと、誰かに支えてもらうんだよ、約束だよ」
「キイ!やだよぉ!起きてよぉ!」
あぁ、そうか、もうダメだったかぁ。
なら、神様。
どうか。
どうか。
リアのことを、よろしくお願いします。
リアには幸せになってほしいので。
どうか。
どうか。
「断る。拒否する。拒絶する」
はぇ?
なんですか?
誰ですか?
「お前がやれ」
これが僕が転生した理由でした。
僕が死んだ事件は『フラニアの奇跡』と呼ばれているらしい。
僕の住んでいたフラニアと言う街に大量の魔物が攻め込んできて、騎士団の到着時には街は壊滅状態で、生存者はいないと思われていた。
ただし、ある地点から魔物の死体も混ざっていて、先に進むほど魔物の死体が増えてきて、
そして。
唯一の生存者、リアを発見したと言うことらしい。
・・・・・・・・・・・・・・・。
さすがにアレの9割リアが一人でやったとは思わなかったらしいなぁ。
リアあのときは12歳だったしなぁ。
結構怪我してたけど大丈夫だったかなぁ。
そして今の僕(転生後)の年齢は5歳。
名前はルッツ。
この『フラニアの奇跡』が起きたのは3年前。
だからリアの今の年齢は15歳。
今はどうしてるんだろう。
何してるのかな。
ちゃんと野菜食べてるかな。
いやそれは今は置いておこう。
つまり僕は今、他人の体に入っていると言うことなのだろう。
元の体の持ち主に申し訳ない。
だが、精一杯、この体を使わせてもらおう。
まずはリアに会うこと。
でもこれは今は無理だ。どこにいるのか全くわからない。
それに。
今の僕が行っても、また足手まといになる。
リアはずっと、魔物を倒すためだけに自分の才能を磨き続けていた。
だから生き残った。
リアが好きで、ずっとみてるだけで、あのとき足手まといの枷にしか僕はなってなかった。
そんな僕はもういらない。
それじゃダメだってわかった。
魔物は僕が思ってたよりも強い。
今のままじゃダメだ。
僕が死んだ時に聞こえてきた通り。
僕がやれ。
リアを支えるのは僕だ。
そのために強くならなきゃ。
そのために僕は今の両親にお願いした。
そして剣術道場に通わせてもらうことになった。
1年たった。
僕には圧倒的に才能がなかった。
「嘘でしょう?なんでこんなに、どうしてこんなにできないの?」
木刀を振れば手から滑って飛んでいくし。
走れば10歩以内に転ぶし(いや、転ばない時もあるからね!)。
こんなのじゃ役に立たない。
どころか、それこそ足手まといの枷よりも酷い。
鎖になってしまう。
一トンの鉄球付きの鎖になってしまう。
翌年、弓に挑戦した。
9ヶ月で諦めた。
翌月、槍に挑戦した。
半年で諦めた。
ダメもとで魔法もやってみた。
門前払いを食らった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
軽く絶望した。
「僕には一体何ができるんだ。人の邪魔をすることか?
・・・・・・・・・・・・最悪かよ」
ん?いやまだだ。
別に武力だけが支えることにはならない。
そうだ!学力があったじゃないか!
というわけで、とりあえず勉強を始めて1年。
表彰があった。
国境に現れた約100体の魔物をひとりの騎士が全員倒したらしい。
リアだった。
やっぱり、リアは強い。
やっぱり、リアは弱い。
守るべき対象がいないとダメなんだ。
そしてあの眼のリアに、守る対象はいない。
あんな闇のような、あんな人形のような。
あの虚な眼のリアは、弱い。
目標ができた。
騎士団に入る。
武術の才はなくとも裏方にならなれる。
だから騎士団が求めている仕事が何かを探す。
やれると思ったのは料理人、あとは掃除屋。
料理人はすぐにわかるが掃除屋とはなんぞと思い、調べたら、騎士には家事ができない人が多く、部屋が散らかりっぱなしになることが多いらしい。
リアもそうだったから掃除はやったりしてたからな。
だから掃除屋として騎士団に入ろうと決めた。
翌年、
「君!合格!」
副騎士団長に泣いて喜ばれた。
どうやら騎士団は基本的に男が多いので、料理人はともかく掃除屋はいなかったらしい。
僕、8歳で騎士団採用。
どうやら寮に入らなきゃならないらしいが、そこはきっと大丈夫。
僕の今の親は僕を完全に信用している。
だから、大丈夫なはず。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理かなぁ?
そう思って、どうやって説得するか考えていたら、副騎士団長さんが説得してきて許可が出ていた。
そんなにいるのか、掃除屋。
寮に入って3日間は生活に慣れるのと、常に満員の男子寮、空きしか無いと言っても過言では無い女子寮の2つを案内された。
どうやらリア以外にもずぼらな人がいるらしい。
僕、見た目8歳だけど、精神年齢18だよ。
リアの実年齢と同じ。
4日目の朝に挨拶をした。
「これからみなさんの部屋の掃除をします。ルッツです。よろしくお願いします」
僕がいうと、「よく来た!」「待ってたぞ!」などの声が多く聞こえてきた。
それはよくわかる。
男子寮、臭いが酷い。
本当に掃除できる人がほとんどいないらしい。
ゴミが廊下の隅に置いてあったりした。
さっさとそれをやるかと思い、エプロン、マスク、軍手、バンダナは頭に巻いて、掃除の装備を整えたところで、副騎士団長さんに話しかけられた。
「お願い、頼む」と手を合わされて頼まれたのは、騎士団第5部隊隊長、リアの部屋の掃除だった。
正直、こんなに早く頼まれるとは思っていなかったので、もし中にリアがいた時どうするか考えていなかった。
ええい、なんとかなると思って入ってみれば、その部屋に圧倒された。
見事な汚部屋だった。
服は脱ぎっぱなしで放置されていて、カーテンは開けられず日が入っておらず、ホコリの匂いがすぐにしてきて、床には割り箸などのゴミがありまくって足の踏み場がなかった。
それでもなんとか入るとベッドにカビが生えていた。
キノコも生えていた。
目の前で人が死んでいった。
嫌いな奴も、好きな人も。
キイをいじめてた奴も、私たちと遊んでいた友達も、死んでいった。
キイも、キイも、キイも、キイも、キイもキイもキイもキイも。
死んだ。
キイが死んあと、魔物が来た。
たくさん。
気づいた時には全部死んでいた。
私以外、そこで動いているものがなかった。
うまく動かない足を無理矢理動かしてキイのところまで行った時、もう一回理解した。
私はキイが好きだ。
私のキイは死んだ。
ねぇ、なんでわたしはいきてるの?
もう、だれものこってない。
みんなしんだ。
涙が出なかった。身体が動かなかった。何も考えられなくなった。
目の前が揺れて、少し痛くて、眠くて、寝た。
起きたら知らないところだった。
いろいろ聞かれたけど覚えてない。
何もしたくなかったけど。
キイのことを訊いて、キイの傷だらけで冷たい身体を見たら。
死にたくなった。
わたしが守れなかった。
私は強かったのに、誰も守れなかった。
きっとキイも幻滅した。弱い私を嫌いになった。
私なんて、
誰の役にも立たない、
生きてる価値が無い、
しのう
次の日に魔物が現れた。
キイを殺した奴らだ。
気づいたら動いていた。馬車に隠れて乗って着いて行き、馬車の中にあった短刀を使って騎士の人たちに混ざって殺した。
そしたら騎士団に入ることになった。
入ったら魔物を殺せると思ったから入った。
強くならなきゃ。
強くならなきゃ。
強くならなきゃ。
魔物を1匹残らずに殺し尽くしてやる。
大変だろうな。
でも、魔物を殺し尽くさなきゃ、キイに許してもらえない。
キイ、
会いたいなぁ。
ガチャ、
無意識に扉を開ける。
部屋がいつもと違う気がするが気のせいだろう。
ベッドに倒れ込む。
色が違う気がする。
まぁいいや。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しのうかな。
キイに会いたい。
魔物を殺してないと死にそうになる。
キイごめんなさい。
ポコン
なんか当たったかな?
ポコンポコンポコン
あっ、当たった。
首だけ動かして周りを見る。
子供がいた。
この子がなんかしたんだろう。
いつからいたのかな?
「リアは、強いくせに弱いね」
????????????????????????????????????????????????
な、んで、キイ?同じ、わた、し、死死死
キイキイキイキイキイキイキイキイキイキイキイキイキイキイ
の言ってたこと。
なんでこの子が?
「どうしたの?大丈夫?僕と一緒に遊ぼう」
キイ?キイ?キイ?
なんで?このこキイがいってたことしってるの?
「リア、僕はキイだよ」
「キイ、は、しんだよ」
「うん。死んだよ。
ねぇ君両親は?
いない?
なら、僕と一緒だ」
キイと、同じ、なら、
「さなぎ」
「バッタ」
キイだ。
この子はキイだ。
キイと私しか知らないことを知ってる。
「あれ?どうしたの?」
なにが?
?なんで手伸ばしてくるの?
あっでもキイだと思うと、
あれ?なんかほっぺだけ熱い。
目に近いところ触られてる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか、気持ちいいかも。
「リア、泣かないで、どこかいたい?」
泣いてる?
私?
弱いって思われた?
駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目、駄目。
嫌われる。
泣くな。
「リア、強くなくてもいいんだよ。
弱くていいんだよ。
そんな顔しないで、僕は強いリアも好きだけど、弱いリアも好きだよ」
あぁぁぁぁぁぁあああ。
キイだあぁぁぁぁぁぁぁああ
「キィィィィ、すきぃぃ❤️❤️❤️❤️❤️❤️」
「そうなの?ありがとう」
笑った顔可愛いぃぃぃぃ。
そして5年後、僕たちは付き合うことになった。
思った以上にリアの愛が重い。
ちょっと引いちゃう時もあるけど、それでもリアは可愛い。
なんか、僕と会ってからまた強くなったらしい。
魔物1000体にかすり傷一つ負うことなく勝ったりするらしい。
Bランクの魔物なのにすごいな。
僕は最近は王国の宝物庫の掃除も任されている。
やっぱり宝物庫にはいろいろある。
それらを見るのが最近の楽しみだ。
宝物庫の奥には一つ扉がある。
鍵が五十重という言いにくいくらいたくさん付いている。
実はここの鍵も全部預けられたりしている。
中には魔法陣があって、国境の外まで飛ばされるらしい。
外回り、早く終わらせて帰ろう。
キイに会いたいキイと話したいキイとご飯食べたいキイに触りたいキイに触られたい
キイ❤️❤️
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️❤️」
なんか最近、感情を取り戻してる気がする。
今がとっても幸せだ。
「あーあー、10回攻撃する、誰か一人でも生き残れたらお前たちの勝ちだ」
・・・・・・・・・・・・はぁ?
なんだ今の、あの声はなんだ?
魔法を使っているから探知は可能。
たとえ冗談でもキイを殺そうという奴は許さない。
殺してやる。
グシャグシャに、ボロボロに、血の一滴も残さずに殺してやる。
「10」
・・・・・・・・・・・・・・・は?
なに?あの魔法陣の大きさは。
あんなの、人が作り出せる大きさじゃ無い。
仮に魔物だとしても、最高ランクのS以上。
1発で。
国の半分が消し飛んだ。
炎魔法で一瞬で。
「9」
また炎魔法。
あぁ、間に合わない。
キイ。
もう半分も消し飛んだ。
自然と膝が崩れ落ちる。
涙が出てくる。
私は結局何も変わらない。
変わって無い。
弱いままだ。
また守れなかった。
しかも今回はキイを殺したやつを殺せない。
弱すぎて、虫を殺すように殺される。
なら・・・・・・・・・・・・。
弱いなら強くなれ。
「8」
?
なんでこんなにすぐに〈次〉が考えられるんだ?
なんですぐに諦められてる?
なんですぐにキイが死んだことを受け入れられる?
ああ、そうか。
結局、感情は戻ってなかったってことなのかな?
ハハ、
じゃあ、キイとの楽しかった日も幻想なのかな?
「7」
だとしたら嫌だな。
でも、あいつを殺したいとは思うな。
魔法を使ってデカい魔力の持ち主を見る。
そいつは、赤く光る石を胸につけた大きな鎧だった。
2メートルはある。遠目だから正しくはわからないが3メートルあるかもしれない。
決めた。
禁忌に手を出そう。
そして殺そう。
鎧が「0」と言った時には、そこに王国があったなんて誰もわからないような有様になっていた。
「コレが私が鎧を追う理由。あんたも似たり寄ったり?なら手伝え」
命令したオルタナティブにリオルは
「そうかそうか、それは大変だったね」
と言って白々しく泣く。
周りに立っているリオルのギルドの仲間は呆れたようにリオルを見る。
そしてリオルは泣くのをやめて言った。
「やだよ」