不可視の矛
目が覚めると木の天井があった。
周りを見ようとしたら首だけしか動かせなかった。
手首や足首になんらかの拘束があるわけではないというのは、足首などに物が触れている感触がなかったからわかったのだけど、
どうして動かないんだろう。
「だれかぁぁぁぁぁああ!!」
わかんなかったからとりあえず叫んでみる。
5秒待ってだれも来ないので、いないのかなと判断して、『不可視の矛』で見えない拘束を斬ろうと思い、
「なんだ?『不可視の矛って』」
私は口に出す。
いやホント、なにそれ、
不可視ってことは見えないってことだよな?
あぶねーじゃん
私も切りちゃうじゃん。
いや、そんなことねぇのか。
???
なんでそんなこと知ってんの、私。
中二病?
意味わかんねえ。
劫だったらわかんのかなぁ。
「別に劫ちゃんじゃなくても分かる人には分かるのさ。
椿 刹那ちゃん」
誰だこの男。
なんで劫をちゃん付けで呼んでんだ?
それは私だけの特権だぞ。
・・・・・・・・・・・・すぅ、はぁ、すぅ、はぁ。
とりあえず落ち着け。
劫にも言われただろう?
すぐに切れちゃダメ。
すぐに相手を殴ろうとしちゃダメ。
蹴るのもダメ。
斬り殺すのもダメ。
・・・・・・・・・・・・
よし、静められた。
よくやった私。
あとで劫に褒めてもらおう。
あと、そうだ。
誰だこの男。
あの薬を渡してきた男じゃない。
血を流して倒れていたはずだが。
見間違えか?
「柊 劫ちゃんは僕が殺した」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・はあ?」
『不可視の矛』
ブシャ!ビシャビシャ‼︎
無意識に私が能力を使った瞬間に、男の身体がズタズタになった。
服を着ていてよくわからないが、きっと身体中に矛で突いたような傷があるんだろう。
見えてるところには、特に顔は、どこに目があって、どこに口があるのかすらもわからないほどグシャグシャになっていた。
それよりなんて言った?
この男は。
劫をころした?
そんなわけないだろう?
そんなことあるわけない。
「ああその通りだよ。柊 劫ちゃんは死んでないよ。安心しな」
また男の声がして、驚いて男のことを見ると、男は立ち上がっていた。
判別不可能だった顔も、傷ひとつ残っていなかった。
『不可視の矛』
ビシャビシャ!
と、飛び散ったのは水だった。
男の身体が水になっていた。
「『液体化』 便利な能力だぜ。ちなみにさっき言ったのはただの酷い嘘だよ。
僕は平気で嘘を吐く男だからね」
なんだコイツは。
軽薄だ。
すごくイラつく。
『不可視の矛』
ビシャビシャ!
よし。
切れた。
「ゴフッ、マジかよ。能力まで切れるのか」
「らしいね」
私は拘束も切って体を起こす。
今更気づいたが、どうやら私はベッドの上に寝ていたようだ。
何かされてたらまた殺してやる。
そう思いながら近づくて、髪を掴んで顔を近づける。
その頃には私がさっきつけた傷ももう塞がっていて、
「あはは、君近くで見るとすごく可愛いね」
とか吐かしやがった。
『不可視の矛』
口の端から血がこぼれ出る。
舌を切ってやったから喋れまい。
ん?いやだめじゃん。
劫こと言ってもらわないと。
どうしよう。
あー、さっきみたいにどうせ回復する。
「で、劫はどこ?答えろ」
「怖いこと言うなぁ。人によって同じこと言っても印象変わるなぁ」
『不可視の矛』
今度は目をやった。
なのにコイツの軽さは無くならない。
「わかった、答えるよ。今はね、とある王国で閉じ込められてるよ。だから助けに行く。
聞かなくても分かるけど、来る?」
「当然」
言って男の髪から手を離す。
うわぁ目ぇコワ、男は言いながら、頭を撫でる。またはさする。
こう言う時ってどっちがあってるんだっけ?
まぁいいさ。
劫に訊けば良い。
「それでその王国ってどこにあるの?」
「ダノムガ王国ってところだよ、ここからはちょっと遠い。そこの上の人たちだけが関わってるんだよ」
うし、なら一部の連中を全員、切り刻む。
待っててね!劫‼︎