5回目 異世界の情勢
「話は我らの神々から聞いています」
外交使節が案内された施設。
港にある税関に該当する場所だとか。
今は臨時の応対窓口として使われている。
最初に異世界側の担当者から伝えられたのはこれだった。
「この世界とは別の世界から来たとも」
「それが分かってるなら話が早い。
この世界の状況を教えていただきたい。
我々も詳しくは聞いてないのです」
「分かりました」
交渉というか状況確認がはじまる。
まずはこれが分からないと話にならない。
そして異世界側の代表から話を聞いていく。
内容自体は事前に聞いていた事と変わらない。
異世界における、人類の状況は良くない。
事の起こりは10年前。
大陸ごとこの世界にやってきた異世界からの来訪者達。
彼らはあらわれるや即座に侵攻を開始。
この世界は戦乱に覆われる事になった。
もちろんこの世界の住人は抵抗した。
しかし、隔絶した力の差は覆しようがない。
どうにか抵抗を繰り返したが、多くの国が陥落。
来訪者達が出現した所の近くにあった大陸は、支配下におかれていった。
その後も別の大陸が次々と攻め込まれていった。
これらも抵抗むなしく陥落していく。
そうしてついに召喚した者達のいる大陸も攻め込まれてしまう。
これも今まで同様、大陸の各国は次々に陥落していった。
どうにか独立を保ってるのは、日本が接触した国とあと幾つか。
その独立も、風前の灯火。
既に国境近くまで迫った敵により、程なく陥落するだろうと見られている。
攻め滅ぼされるのも時間の問題だった。
「やむなく我らは神の助力を願いました。
しかし、神でも抵抗は難しく。
それでもどうにかしようと、更に異世界から対抗できる者を召喚する事にしました」
その為に神の介入も頼み、別世界の者達を呼び寄せようとした。
だが、簡単に応じる者達はいない。
もとより、対抗できる力の無い者達は論外だ。
対抗できる者も、わざわざ血を流す必要がない。
助けるにしても、見返りを求められもする。
「そんな中で、唯一応じてくれたのが、あなた方の神々なのです」
そういって異世界の担当者は話を締めくくった。
日本側の外交使節団は驚くしかなかった。
同時に、呆れるしかなかった。
(なんとまあ……)
口には出さないが、外交使節団の誰もがそう思った。
召喚した異世界の者達と、異世界の神々。
そして、天照を名乗る…………おそらく日本の神は話がついてるのだろう。
だが、それは日本人の意思を確かめての事ではない。
何の説明もなく、意思の確認すらもなく強制的につれてこられた。
それが多くの日本人の実感である。
それでいきなり戦争状態の中に放り込まれ。
否応なく助けねばならないという。
(断る事が出来ればいいんだが)
そうしたいと外交使節団の者達は思った。
だが、そうもいかない事も理解していた。
既に戦争は始まってる。
避ける事は出来ない。
おまけに、10年前にやってきたという侵略者との交渉も出来そうにない。
なにせ、出現した途端に侵略を開始したというのだ。
それはこの世界の者達の一方的な意見だ。
異世界からの来訪者達。
それらとの間で本当は何があったのか。
それは分からない。
もしかしたら、事実は違うのかもしれない。
異世界の者達は自分に都合の良いことだけ口にしてる可能性だってある。
だが、話を聞く限りでは、来訪者なる者達との交渉は難しそうだ。
不可能とすら思える。
いきなり侵攻を始める者達と交渉など望めないだろう。
となれば、戦って脅威をはねのけるしかなくなる。
それはそれで大変だ。
だが、生き残る事を考えれば、それしか道が無い。
出来れば、来訪者なる者達とも会談をして、事実を聞いてみたいが。
それが出来るかどうかもあやしい。
(まいったな……)
外交使節団は、そんなぼやきを胸の中に留めておく。
彼ら個人の感情で事を進めるわけにもいかない。
「まずはお聞きしたことを本国に伝えます」
とりあえずそう伝えるしかなかった。
同時に外交使節団は、日本側からの要望を伝える。
「最低限、これだけはお願いしたい。
でなければ、我々も動くに動けない。
今後のためにも、これだけはどうか受け入れてもらいたい」
そう言って日本側からの要望を伝えていった。
その内容は、当面に必要になる食料の調達。
ならびに、資源採掘の許可。
これらが確保できなければ、国民の多くが飢え死にする。
日本の産業も燃料と材料がなくて止まる。
「分かりました」
意外にもあっさりと異世界の者達は日本の要望を受け入れた。
「我々も神々から話を聞いてます。
要望は可能な限り受け入れます」
「それでは…………」
日本の外交使節団は色よい返事に安堵をしそうになった。
「ですが、それも我々が独立と自立を保ってればです。
敵が侵攻してきたらどうしようもありません。
その事はお忘れ無く」
「分かりました…………」
当然と言えば当然の事だ。
日本の外交使節団は、あらためてただならぬ状況な事を察した。