17回目 来訪者達の状況
「いったい、どうなってる?!」
来訪者側の司令官は焦りと苛立ちを隠せない。
「なぜ攻め落とせない?」
今までだったら、難なく攻略出来ていた。
襲いかかれば、脆弱な現地人など一蹴できた。
しかし、この一年二年ほどそれが出来なくなっている。
前線におかしなものが出てきた頃からだった。
今まで出てこなかった戦闘機が飛んできて。
今まで存在しなかった戦車があらわれて。
それらが侵攻部隊を全滅させていく。
海においても、艦隊がことごとく沈んだ。
海面に浮く機雷に行く手を阻まれ。
海中からの攻撃で撃沈され。
艦隊戦になっても、数少ない敵に砲弾を撃ち込まれる。
良いところがまるでなかった。
一方的に損害を増やしてしまう。
「何があった!」
怒鳴らずにはいられない。
もちろん彼らとて無能ではない。
出来る事はしている。
敵の情報を集め、対策を考え。
作戦を練りに練っている。
しかし、どのようにしても勝てない。
勝てるわけがない。
それは司令官も分かってる。
作戦立案に携わる司令部の者達も。
「なんなんだ、あの性能は……」
集める事が出来た情報から、現地人の兵器の性能も割り出している。
それは驚愕するしかないものだった。
戦闘機は圧倒的な速度で飛ぶ。
戦車は信じられないほど遠くから狙い撃ってくる。
艦船も必中の命中率を誇る。
交戦記録や目撃情報から、これらは簡単に割り出せた。
「いつ、あんなものを作った?」
司令官は当然そう考える。
剣と魔術しかない連中。
それが司令官達の認識だった。
だからこそ、容易に侵略も出来た。
この世界に転移してきて、瞬く間に多くの大陸を制圧した。
残るは一つにまで追い込んだ。
そんな敵が、いきなり強力な兵器を繰り出してきた。
しかも、来訪者達のものを上回る性能のものを。
いきなりそんなものが作れるようになるとは思えない。
科学力が一気に跳ね上がってる。
「何かある、きっと何かある」
そんなものを繰り出すようになった理由。
それがかならずある。
そうは思うが、それがなんなのか分からない。
ただ、目の前の敵は急に強くなった。
今でのように簡単に撃破出来ない。
それは司令官も認めるところである。
敵の兵器との性能差は十分承知している。
だから司令官はこれ以上の無理を控える事にした。
残念ながら、同じ数をぶつければ確実に負ける。
数で上回ってる今ですら撃退されてるのだから。
それなのに無理をして戦い続けるのも無駄である。
損害が増えるだけだ。
なので司令官は増援を送るよう求めた。
敵が強力になった事。
それを突破するには、現状ではより多くの数で押すしかない事。
その為に、兵力を拡充して事にあたらねばならない事。
これらを包み隠さず報告した。
「最悪、更迭されるかもしれないが」
無能と判断されて解任されるかもしれない。
処刑まではいかないかもしれないが、閑職送りは免れない。
それを覚悟での事である。
だが、負けると分かって無駄な突撃を繰り返すわけにはいかない。
そこまで司令官は馬鹿ではなかった。
仕事と良心に忠実でもあった。
そんな司令官の事を正しく評価したのか。
多くの増援が送られてくる。
それらを受け入れる体制を作るために、基地や空港、港を急いで増設する事になる。
思ったよりも物わかりのよい上層部に司令官は驚いた。
その驚きにひたる事も出来ないほど、受け入れ体制構築のために忙殺されていく。
こうして攻守両者ともに次の戦争の準備に向かっていく。
その為、この1年は驚くほど平穏なものになった。
だが、両者ともにこれが嵐の前の静けさなのを理解している。
日本は偵察衛星と航空偵察から敵の増援を把握している。
その膨大な数に唖然とし、急いで対応策を構築していく事になる。
不穏な静けさをたたえながら、時間が経過していく。




