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8.戦いの後で

 やわらかな魔力につつまれて、降りそそぐ日差しのまぶしさに目をさますと、エヴェリナの声が聞こえてきた。


「き、気がついたか? お主、無茶をしおって! 小娘の回復魔法がなければ、あやうく命をおとすところだったのじゃぞ……!」


 どうやら頭を強く打ったようだ。

 エヴェリナの声が頭に響き、めまいがいっそう強まる。


(──そもそもエヴェリナがティーエの部屋を壊したのが、こんなことになった原因だろ……)


 俺はそう思ったが、頭痛と吐き気がひどく、言葉にすることができない。


 ティーエは、俺が意識をうしなっているあいだ、回復魔法をかけ続けてくれていたようだ。


「ご、ごめんなさい、私のせいでこんなことに……」

「まったくじゃ、小娘めがいきなり襲いかかってくるから、こんなことになったのじゃ! もっとジンに謝るがよい」


 エヴェリナの責任転嫁に、俺は黙っていられなくなった。


「エヴェリナ、失礼だぞ。ティーエは二度も俺を救ってくれた恩人なのに……」


 自分の責任をティーエに押しつけようとするエヴェリナとは反対に、ティーエは自分を責める。


「い、いえ、今回のことは全部、私の、暴走が、原因ですし……。とても、救ったなどとは……」


 健気なティーエの言葉に、エヴェリナが便乗した。


「そうじゃそうじゃ! この小娘はもっと感情を抑えることを学ぶべきなのじゃ。ジンに怪我などさせよって!」

「……エヴェリナ、失礼な言い方はよせと言っているだろ!」


 怒りをともなう俺の声に、エヴェリナが涙目になる。


「……お、お主。我ではなく、泥棒猫の小娘めの味方をする気か……? わ、我よりも、この小娘のほうが大事なのか……?」

「いや……俺は()()じゃなく、()()()()の味方をしているんだ。いい加減に名前を覚えろ!」

「いやじゃ!」


 エヴェリナはプイ、と横を向くと、そのまま黙ってしまった。


 俺は、ティーエに声をかける。


「ありがとう、ティーエ。怪我はないか?」

「は、はい、私は大丈夫です。ほんとうに、ごめんなさい……。ジンさんに、もしものことがあったら、私……」


 ティーエを心配させないように、俺は気力をふりしぼり、せいいっぱい元気そうな声を出した。


「俺は大丈夫! ティーエの回復魔法がよく聞いているみたいだ。……ティーエが無事ならよかった」


 少しは効果があったのか、ティーエの顔に、やや明るい表情がもどる。


 ティーエは、エヴェリナのほうをチラッとぬすみ見て、やや緊張した声で言った。


「私と、この方の魔力がぶつかる直前──ジンさんの体を通して、この方の魔力が私に流れ込むのを感じました。──あれはいったい、なんだったのでしょう……?」


「あれは、俺のスキル【半人前の勇者】の効果、【イコール】だ。二人を止めようとしたときに発動した。一瞬のことでよくわからなかったけど、ぶつかりあう二人の力を同じにするスキルだったみたいだ……」


「すごい! 【半人前の勇者】にそんな効果が……。さすが、ジンさんです!


ですが、二人の魔力を同じにするために、この方の魔力が私に流れこんだ……。つまり、この方は、この場所で水霊を憑依させた私よりも、膨大な魔力を持っている、ということ……。


──ジンさん、いったい誰なんです? この方は……。ただの魔族とは思えませんが……?」


 張りつめた表情で、ティーエが聞いた。


「……安心してくれ、ティーエ。エヴェリナは悪いやつじゃない。まあ、性格はちょっとわがままなところがあるけど……。


 魔王領から俺についてきたんだ。聖王との交渉がうまくまとまったら、聖王に会わせてもいいと思っていたんだがな……」


 俺は、エヴェリナのことをティーエにどう説明したものか、頭を悩ませた。


──いくらティーエがいい子だからって、さすがに、こいつは魔王ですなんて、うちあけるわけにはいかないよな。


 俺のあいまいな答えに、ティーエは問いをかさねた。


「……魔王の使者、ということですか?」

「そう、それ、それ! そういうこと!」


──ほんとうは、エヴェリナこそが魔王その人なのだが……できれば、誤解させたままのほうがいい。


 ティーエは、まだ納得できていないようだ。

……それはそうだろう。

 いくら魔族とはいえ、ただの使者がこれほど強大な魔力をもっているというのは、納得できなくて当然だ。


──それでも、ここは魔王の使者ということで押し通しておこう。


 だが、俺の意に反して、いつの間にか気をとりなおしたらしいエヴェリナが、俺たちの話に割りこんできた。


「──なぜ、嘘をつく? 我は知人に紹介できんような女なのか?」

「いや、だから……。その言い方はやめてくれ。いろいろと、誤解を招く……」


 エヴェリナの魔族独特の言いまわしに、俺は閉口した。

 ティーエがまっすぐに俺を見つめて言った。


「──嘘……とは?」


──仕方がないか。……ティーエも疑っているようだし、ましてエヴェリナが口を挟むのでは、どうにもごまかしきれそうにない。


 俺は、エヴェリナの正体をティーエに話すことにした。


「……落ち着いて聞いてくれ、ティーエ。エヴェリナは──魔王だ」

「そうじゃ、我は魔王じゃ! おそれいったか?」


 エヴェリナがふんぞり返る。


 だが、ティーエは驚かなかった。


「……やはり、そうでしたか」

「──! 気づいていたのか?」

「ええ、これほど強大な魔力……魔王以外ではありえないと、思っていました。魔王をしたがえるとは……さすが、ジンさんですね」


 エヴェリナは、不満げな顔でティーエを見た。


「我は断じてジンの使い魔などではないぞ! 我らは互いを高めあう、対等な関係なのじゃ!」


 あいかわらずエヴェリナの言うことはよく意味がわからないが、対等だと言ってくれたのはうれしい。

 魔王の配下に加わるというより、食客のような扱いとして考えてくれているのだろうか?


「俺はこれから、魔王領に行くつもりなんだ。エヴェリナが、いっしょに働こうと言ってくれているからな」

「そうなのですか……」


 ティーエは少し寂しそうな表情で言った。


「ティーエはこれから、どうするつもりなんだ? もしよければティーエもいっしょに魔王領に行かないか?」

「私もご一緒します……と言いたいところですが。私にはまだ、聖王国でやり残したことがありますので……」


 そう、真剣な顔で言ったティーエを、俺は引き止めようとは思わなかった。


「……そうか。なら、ここでお別れだな。ほんとうに世話になった。ありがとう、ティーエ」

「いえ、こちらこそ……。もしあのとき、ジンさんがあいだに入ってくれなかったら、私はエヴェリナさんに倒されていました……。救われたのは、私のほうです……」


「また会おう、必ず──」


──俺がティーエに別れの言葉を言いかけた、そのとき、



 人の背丈ほどもある大剣を振りかざした筋肉質の男が、俺に襲いかかってきた!


 俺の頭めがけて振り下ろされた大剣の鋭い一撃を、俺は身をかわして避け、強く地面を蹴って距離をとった。



「さすがだな、勇者ジン・ウィペット! いや、今はもう逆賊ジン・ウィペットか……。


 貴殿には、魔術師ギルドの破壊、及び賢者ティーエ・クルム・フルヒェ誘拐の罪により、

 聖王様から追討の命が下された!


 ティーエ嬢を返してもらおうか! ジン・ウィペット!」



 雷鳴のような大音声を轟かせた、その男の名前は──ジャスタス・レオン・ベルガー。


 聖王国の四勇者の一人にして、聖王国騎士団長、“聖騎士”ジャスタスだった。


    ◆

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