7.追討令 【side聖王】
王都にいる聖王国の主、聖王ローランド七世は、いら立っていた。
オーブの声が聞こえなくなった聖王に、すべての責任と責務がのしかかっている。
聖王が自ら政務を行うのは、まだ聖王に選ばれる前──勇者だった三十年前以来のことだ。
聖王はオーブに選ばれてから、ずっとオーブの導きのままにしたがってきた。
聖王──オーブの代弁者として、それはむしろ義務ですらあった。
王として、自分の手で国を治めようとしたことが、なかったわけではない。
だが、オーブの声にしたがわなければ、必ず痛い目にあった。
オーブと聖王の考えが異なるとき、オーブはいつでも正しく、聖王は常に誤っていた。
そのうち、聖王は自分の頭で考えることをやめた。
オーブさえあればよい。
オーブの声さえ聞くことができれば、余は、聖王でいられるのだ……。
「──それを、あの男が。……ジン・ウィペットが、奪ったのだ! あの男が、余からオーブの声を盗んだのだ!」
聖王は激情にかられ、机に積まれた書類の束を、執務室の床にぶち撒けた。
オーブがあの男を勇者に選んでから、ろくなことがない。
──オーブの声が失われ、聖王に仕える勇者は、たった二人となった。
叙任式の日、ヘラヘラと緊張感のないジン・ウィペットの、武官としてのステータスを見て驚いた。
知力の数値こそ低いものの、武勇はステータス上の最大値──100を、示していた。
聖王は、元冒険者だというジン・ウィペットの、戦闘ステータスを見て、さらに驚くことになる。
そこに示されていたのは、レベル上限を示すLV.99の値。
「ステータスの成長もとうに止まっておる」
「ステータスは、なにひとつ成長していない」
聖王がそう罵ったジン・ウィペットの戦闘能力は、その実、
──すでに、人の達しうる最高の地点にまで到達していたのだった。
冒険者として研鑽し、武を究めたジン・ウィペット──。
「それに引き換え、余は──」
聖王は鏡に映った、己の老いた姿の上にある四角い板──ステータスを見る。
ステータス
名前:“聖王”ローランド七世
身分:国王
天賦:人物鑑定家
効果:ステータス鑑定
指揮:12/37
武勇:13/13
政務: 6/97
知力:13/89
考えることをやめ、オーブの言葉を伝えるだけの存在として過ごしてきた三十年。
それが、加齢による衰え以上に、聖王のステータスを低下させていた。
若き日、優秀な官吏であった聖王の知性は、もはやその残滓すら、とどめてはいなかった。
己の道を究め、レベル上限にまで達したジン・ウィペット。
聖王に聞こえなくなったオーブの声を聞いたという、ジン・ウィペット。
聖王は、すべてを手に入れた彼のことが、妬ましかった。
許しては、おけなかった。
──ジン・ウィペットを生かしては、おけなかった。
聖王は自分を支えるはずだった四人の勇者のうち、すでに二人を失った。
勇者ジン・ウィペットを解任し、賢者ティーエが失踪した。
残る勇者は、たった二人。
「聖騎士ジャスタスを呼べ!」
聖王は、そのうちの一人を呼ぶよう、大声で侍従に指図した。
──その、目的は、ジン・ウィペットの追討。
「聖騎士ジャスタスよ、聖王国の魔術師ギルドを破壊した、裏切り者のジン・ウィペットを見つけだし、始末するのだ!」
聖王の命令をうけたジャスタスは、王の意見に言葉を返した。
「まだ、ジン・ウィペットが犯人と決まったわけでは……。何者かがギルドを襲い、ジン・ウィペットを連れ去ったという目撃情報もあります」
ジャスタスの抗弁が、王の怒りを買う。
「黙れ! 黙らぬか! ジン・ウィペット、あやつは、余が勇者をクビにしたことを逆恨みし、魔術師ギルドを破壊して逃走したのだ! 失踪した賢者ティーエを誘拐したのも、あやつに違いない!
──騎士ジャスタスよ、余の命令にしたがえぬのなら、
貴公を解任してもよいのだぞ! 勇者の代わりなど、いくらでもおるのだ!」
……こう言われては、騎士として王に仕えることを誇りとするジャスタスに、逆らうことはできない。
「逆賊ジン・ウィペットを見つけだし、始末するのだ。……よいな!」
「拝命いたしました」
こうして、聖騎士ジャスタスは聖王国騎士団を率い、裏切り者のジン・ウィペットを討つために、王都を出立した。
◆
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「気に入った!」
「おもしろかった!」
「続きが気になる!」
──というかたは、
ぜひ、下にある☆☆☆☆☆欄から作品の評価をおねがいいたします!
おもしろかったら〈星5つ〉、つまらなければ〈星1つ〉
正直な感想でかまいません。
「続きが気になる!」というかたはブックマーク登録もおねがいします。
応援よろしくおねがいいたします!