6.魔王VS.賢者
「【ステータス鑑定】のスキルで、お主自身のステータスを見ることはできぬのか?」
「どうだろうな。まだ試してはいないが……やってみるか」
湖のほとりに立ち、自分の姿を水面に映す。
だが、俺の頭上には四角い板のようなもの──ステータスはない。
「うーん……。なにも見えないな」
エヴェリナが苦笑する。
「自分には使えぬのか? もしや……お主、なにも考えておらんのではないか?」
俺は反論しようとしたが、その瞬間、
──エヴェリナが叫んだ。
「──!! 来るぞ! 泥棒猫の小娘じゃ! お主を奪いに来おったわ!」
俺を抱えて飛びすさったエヴェリナの影に、氷のつぶてが降りそそぐ。
攻撃の方向を見上げると、上空に浮遊魔術で宙に浮くティーエがいた。
「──ジンさん、どいてください!」
ティーエが鬼気迫る表情で叫んだ。
「やめてくれ、ティーエ! エヴェリナは敵じゃない!」
俺の静止の声はティーエに届かず、エヴェリナにむけて氷のつぶてが連続して放たれる。
「──ハッ! このような氷雪魔術ごときが我に通ずると思うのか? この程度の魔術で我からジンを奪おうなぞ!」
エヴェリナの張った魔術障壁にあたった氷のつぶてが、粉々に砕け散る。
「──私を甘く見ないでください。氷雪魔術を使ったのは、新しく覚えた魔術を実戦で試してみたかっただけ。私の本当の魔術は──」
大量の湖水が巻き上がり、ティーエの周囲をぐるりと取り囲んだ。
「──! エヴェリナ、まずい! この場所は──!」
「これは……。ちと、逃げる先を間違ったかのう……」
勇者に選ばれて“賢者”と呼ばれるようになる前のティーエの二つ名は──、
“水霊の魔術師”ティーエ・クルム・フルヒェ──彼女の得意魔術は、その身に水霊を憑依させる降霊魔術──!
「すべて命あるものの御祖たる水の精霊よ、来たりてわが身に満ちよ、われに仇なすものを打ち倒せ──!」
水霊が詠唱を聞きとどけ、ティーエの周りで渦まいていた奔流がティーエの体に飲み込まれていく。
「あなたがいかに強力な魔族でも、ここでなら私に地の利があります。──湖は私の最適地形ですよ……」
水霊をその身に宿したティーエの魔力が急激に上昇する。
「魔族の娘! ジンさんから離れなさい!」
ティーエが手をかざすと、無数の水流が激しくうねりながら、エヴェリナに襲いかかった。
だが、水流は、エヴェリナの魔術障壁に押し返されると、魔力を失い、もとの水に戻って崩れ落ちた。
ズァバアアアアアアァァァァァァン!
爆音をあげて地に落ちた水流が水飛沫となって飛び散る。
「なかなかの術じゃのう……! おもしろい。我の全力をもって応えようぞ、小娘! そちに地の利があるなら、夜は我が支配下──時の利は我にあるぞ! どちらがジンにふさわしい女か──身をもって知るがよい!」
エヴェリナは両手を掲げ、夜の闇を寄せ集めて、より深い漆黒の暗闇を練り上げた。
「カハハ! ジンをかけての力試しといこうかのう!」
生き物のようにうねる奔流を引き連れたティーエが、弾き出されるようにエヴェリナにむけて急降下する。
同時に、エヴェリナが、オブスキュラを手のひらに集め、迎撃体制をとる──!
「エヴェリナ、ティーエ、やめろ!」
極大の魔術同士が激突すれば、力の劣る側──ティーエは、ただではすまない。
──こんなことで、命の恩人を死なせるわけには……!
俺は、二人の間に走り込み、魔力の衝突地点に俺自身の体を割り込ませる──!
〔──スキル【半人前の勇者】の効果【半分半分】が発動。ぶつかりあう両者の力を等価にします──〕
スキルの効果により、俺の体を通って、エヴェリナの魔力がティーエに流れこむ。
ドガァアアアアアアアアア!
均一になった二人の魔術は互いにぶつかり合い──均衡を保ったまま徐々に込められた魔力を消費し、……ゆっくりと、完全に、消滅した……。
水飛沫が舞い上がり、あたり一面が霧に覆われる。
二つの巨大な魔力の衝突から弾き出された俺の体は、クルクルと回転しながら高く宙を舞い、──そのまま頭から地面に叩きつけられた。
〔──スキル【半人前の勇者】の効果【天賦複製50%】が発動。〈“魔王”エヴェリナ〉の攻撃を受け、複製スキル【紫龍顕現】を獲得しました──〕
「ジンさん!」
「ジン!」
戦闘態勢を解いた二人がかけ寄ってくる。
よかった、二人とも、無事みたいだ──。
──最近、気を失ってばかりだな。
そう考えたのを最後に、俺の意識がとぎれた。
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