5.魔王のステータス(下)
「いま、我は一人の武人として敵をうち倒すことを考えておった……。次は、民を統べる魔王として、今後の方策でも思案してみることにしようかの」
〔ステータス〕
名前:“魔王”エヴェリナ
指揮:**/**
武勇:100/100
政務: 52/**
知力:**/65
「おお、文字が変わったぞ」
たしかにエヴェリナの言うように、対象が自分をどう考えているかによって、ステータスの項目が変化すると考えてよさそうだ。
「やはりそうか。どうじゃ、我は慧眼であろう? すごいであろう?」
「たしかにすごいよ。さすがは魔王だ。ありがとう、エヴェリナ。助かるよ」
俺の素直なほめ言葉に、エヴェリナは少し照れた様子で頬をかいた。
ただ、エヴェリナのステータスには、一つ気になる点があった──。
「ステータスに【紫龍顕現】というスキルがあるんだが、エヴェリナもスキルを持っているのか?」
俺の質問にエヴェリナは得意そうに答えた。
「うむ、我は生まれながらにしてスキルを持っておるぞ。我のスキル【紫龍顕現】は、我の本来の姿、パープルドラゴンになるスキルじゃ。──オーブに授けられねばスキルを持てぬ人の子とは違い、魔族はみなスキルを持って生まれてくるのじゃ……。その中でも、我の【紫龍顕現】は強力なものじゃぞ! よいスキルを持つものでないと、魔王としては認められぬからの……」
エヴェリナの言葉に、俺は衝撃をうけた。
魔族はただでさえ俺たち人と比べて高い戦闘能力を持っているうえに、全員がスキルを持っているのか……。
エヴェリナの誘いをうけて、魔王の配下として働くつもりになっている俺だが、魔王領でやっていけるだろうか?
──少しでも能力を底上げしておくためにも、俺には試したいことがあった。
エヴェリナにスキルがあるのなら、【天賦複製50%】でコピーできるんじゃないか?
【天賦複製50%】にはまだ分からない点が多い。
複数の能力をコピーできるのか?
コピーするごとに上書きされて、一つだけなのか?
スキル効果の発現条件らしい、“攻撃をうける”とはどういうことなのか?
発動条件によっては、魔族のスキルをコピーし放題、という可能性もある。
半分だけのコピーとはいえ、もしそうなれば最強だろう……。
とにかく、まずは試してみる必要がある。
「──エヴェリナ、ちょっと俺を殴ってみてくれないか?」
エヴェリナは、困惑した表情で俺を見た……。
「エヴェリナ、どうしてそんな目で俺を見るんだ?」
「いや、お主にそんな趣味があったとはな……。少し引いてしもうたわ。だが、我は“理解のある女”じゃからな。安心するがよいぞ」
なにか、勘違いさせてしまったようだ……。
俺は、女性にいたぶられてよろこぶタイプの男ではない。
断じて違う。
「とにかく、まずは……かるく俺を殴ってみてくれ」
「ふむ。……では、いくぞ」
──エヴェリナは、すばやく間合いをつめると、的確に俺のアゴをねらって拳をくりだした。
俺は、後ろにとびのいて距離をとり、エヴェリナの拳をかわす。
「いや、そういうことじゃない! いきなり気を失ったら、スキルを試すことにならないだろ」
「なんじゃ、つまらんの……」
「スキルの発動条件を知りたいだけだ。初めは、かるく叩くくらいでいい」
「うむ……。“かるく”となると、かえってむずかしいのう……」
魔族には、力を加減することがむずかしいのかもしれない。
エヴェリナはしばらくのあいだ、なにか考えこんでいる様子だったが、やがて意を決した様子で俺のほうに近づいてきた。
──なんだか、そんなに緊張した顔をされると、俺のほうもすこし意識してしまう。
エヴェリナは魔王だが、見た目にはかわいい女の子の姿をしているし……。
至近距離に接近したエヴェリナは、俺の体にもたれかかると、ペシッといったふうに俺の胸を叩いた。
「おかしなことをさせおって、バカもの……」
エヴェリナは甘えた声で、そう言った。
──と、俺の体に異変が起こった。
(──!? エヴェリナは、なにをした? 俺は、なにをされている? ──胸が苦しい……。俺は、エヴェリナに攻撃されているのか……?)
俺の胸の鼓動が急速に早まり、息が苦しくなる。
──胸がしめつけられ、いまにも心臓が止まりそうだ。
上目遣いで俺を見るエヴェリナの紫色の両眼が妖しく光った。
(──少女の姿をしていても、こいつは魔王! 気をゆるしすぎた……!)
だが、エヴェリナが俺からそっと離れると、激しく脈打っていた俺の心臓の鼓動も、だんだんとおさまってきた。
「どうじゃった、スキルは発動したか……?」
どうやら、俺の実験に協力してくれただけだったらしい。
俺はかるく叩いてくれ、と言ったのだが……?
心臓を止める魔術なんて、明らかにやりすぎだ。
「いまの攻撃では、発動しなかったみたいだ……。あれほどの攻撃でも発動しないとは……発動条件がよくわからなくなったな」
「あれほどの攻撃? かるく叩いただけじゃが……? ふむ……残念じゃったな」
たしかに残念だ。
魔族の持つスキルのなかでも、かなり強力だというエヴェリナの【紫龍顕現】をコピーできれば、間違いなく俺の戦闘能力は上がったはずだ……。
“半分だけドラゴン”になった俺が、いったいどんな姿になるのかは不安だが……。
エヴェリナの真の姿とは、どのようなドラゴンなのだろう。
「それにしても、エヴェリナの真の姿がドラゴン……今のかわいらしい姿からは、想像もつかないな」
目の前の美少女が、まさかドラゴンの化けた姿だとは思いもよらなかった。
──きっと、本当の姿も、美しいドラゴンなのだろう。
「むう……。かわいらしい、とな……?」
「ああ、エヴェリナのその姿はすごくかわいいよな。きらめく銀色の髪、透きとおるような白い肌……本当にすごいよ。そのうち、ドラゴンの姿も見せてくれよな」
俺がエヴェリナの変身技術の高さをほめると、エヴェリナの全身が赤くなり、プルプルとふるえだした。
(──まさか、変身するのか? さっそく真の姿を見せてくれるつもりなのか?)
俺が、ワクワクしながら変身を見守っていると……エヴェリナの頭上のステータスが、また変化した。
〔ステータス〕
名前:“魔王”エヴェリナ
好感度:♥♥♥♥♥
「──? なんだか、またステータスが変わったぞ。好感度? ハートが五個、うーん……。 おい、エヴェリナ。これってどういう意味だと思う? 教えてくれ」
「なぬ! それは……」
なぜかエヴェリナはモゴモゴと言葉にならない言葉を発しながらうつむいてしまった。
エヴェリナの顔の色がますます赤くなる。
「どうした、エヴェリナ? 気分でも悪いのか?」
「お主、わからぬのか……? いや、まあよい」
わからないから聞いたのだが、エヴェリナにもわからないのなら仕方がないか……。
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